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大魔女レオンティーナの愉快で滑稽な旅路  作者: 智慧砂猫


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第46話「クールグラスの末っ子」

 せっかくの旅行に、島へ持ち込んだ酒や食料はとても一人で処分しきれない。親にも『駄目だ、無駄になったらどうする?』と最初は断られたが、わがままを言って友達も呼ぶからとやっと許可をもらった。


 もし無駄にしてしまえば、次からは何があっても許可など下りるはずもない。ここでレオンティーナに断られると彼女はひどく困るのだ。


「う~む、どうしたものか……。俺たちも行きたい気持ちは山々だが」


 珍しく渋った。ヴィルヘルミナに付いていけば上質な酒もあるし、彼女自身が趣味で料理をするので味も保証されている。普段であれば垂涎ものだが、今回ばかりは他に懸念すべき事があった。


「んー。でも時間はたくさんあるんでしょう?」


「数日は滞在する予定だ」


「なら平気よ。アタシも日数は決まってないから」


 簡単に口説き落とせるほど甘くない。そこで最終手段だとばかりに視線をエルザに移す。味方を増やすなら、まだ関係の浅い相手からだ。


「ねえ、エルザ! あなたとも仲良くなりたいわ、どう?」


「あ……えっと、私はそのう……!」


 押されるのに弱いので断り切れず、ちらちら横目に助けを求める。すかさずヴィルヘルミナはさっと前に出て遮った。


「ね、いいでしょう。せっかく会った縁だもの!」


「そうかも、しれませんけどぉ……」


「じゃあ良いわよね。ほら、レオンティーナも」


 不服ではあったがエルザを盾にされては仕方ない、と諦める。半ば酒と料理の魅力に引っ張られたのも事実だが。


「わかったよ、行こう……。観光は後でも出来るからな」


「ありがとう~! 恩に着るね!」


「礼はお前の手料理で構わないよ。期待させてもらう」


「もちろん! 任せといて、満足させてあげるわ!」


 どんっと胸を張ってさっそく船を準備してくると言って駆けていくのを見ながら、レオンティーナは面倒な奴に見つかってしまったなと頭を掻く。


「あの、レオン。実は私、名前は知っててもお会いした事なくて……。どういう方なんですか? 変な言い方になるんですが、とても子爵令嬢といった感じではないと言いますか……」


 確かに、とレオンティーナがくすりとする。


「あれはクールグラス家の三姉妹でも奔放な奴でね。お茶会の招待も片っ端から断るほど酒が好きで、結婚にも興味がない。親の言う事もまったく聞かない我侭な末娘なんだが、あの持ち前の明るさと自由ぶりから慕う者の方が多いんだ。かくいう私も、なんとなく憎めない。いささか扱いにくさもあるがね」


 クールグラス子爵家三姉妹は元々、全員が個性的な性格でよく知られているが、中でも三女のヴィルヘルミナは海の景色をこよなく愛しており、お茶会よりも酒が好き。かといってパーティに参加するのは人が多くて煩わしいからとまったく顔を出さず、クールグラス子爵も手を焼いた。


 だが、その持ち前の明るさで周囲を魅了していく姿に、これといって注意する事もできず、むしろそのおかげであらゆる相手との橋渡しにもなるので、多少の事には目を瞑るのが今の子爵家の方針だった。


 それでもときどき、わがままが酷いと叱りもしたが、結局のところ彼女が反省する姿勢を見せるのはただの一日程度。ひと晩も経てば『何かあったっけ?』などと平気で言い放ち、けろっとしているのが当たり前だ。


「うむ、最初は観光のつもりで断ろうと思ったんだが……」


 顎をさすりながら、ふと思う。これまで人の温かみに触れて来なかったエルザが、酒場の男たちやリバーフォールの老人たちを通じて穏やかな世界がある事を知った。であれば、次は貴族社会にもどんな時でも味方になってくれる者がいるのを知っておいても損はないだろう、と。


 相手が公爵だから、伯爵だからと大多数が跪く一方で、決して彼らに屈さず独自の生き方を学んで潜り抜けてきたような気高い精神の持ち主たち。レオンティーナが認める数少ない貴族。ヴィルヘルミナのクールグラス子爵家は、まさにその家門のひとつとも言えた。


「良い機会だ、相手が貴族だからと臆する事も無い。あれは庶民だろうが貴族だろうが、気に入れば誰でも歓迎する女だ。お前がエルザ・ローズとして迎える最初の友人になってくれる。誰よりも頼もしいかもな」


 酒が入っていなければ、エルザはやはりいつも一歩後ろに下がって黙ったままの事が多い。今もヴィルヘルミナに対してどう接していいか分からない様子だったので、ここはひとつ慣れさせておくべきだろうと名案にしたり顔で頷く。


 鳥籠の中で飼われ続けたせいで羽ばたき方も知らない少女の少し俯きがちな心を開くために、ヴィルヘルミナ・クールグラスの存在は大きい。


「そう、ですかね? 私みたいな根暗だと気に入られなかったり……」


「アイツが気に入らない方が珍しいくらいだから平気だ」


 魔女であろうとも臆さず、どんなときでも自分らしくをモットーに生きる娘の性格の良さをよく知っている。もし彼女に嫌われる事があるのなら────。


「唯一アイツが咬みつくとしたら、計算高い人間だろう。そして、お前みたいに裏表のない奴なら、しつこいくらいに構ってくれるさ」

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