第27話「受け入れられた」
起きていた動物も、眠っていた動物も、太い木の枝で休んでいた者も、全てが彼女たちに視線を送る。焚火で温まっていた鹿がそろりと立ち上がった。
『ようこそ、御主人。外で雨にでも降られたのかね?』
図星だ。レオンティーナが御者台から降りようとすると、大きな熊がのそのそと歩いてきて寝そべり、背中を足場に使わせる。
「いつも悪いな、カムイ」
熊が顔を僅かに持ち上げた。
『良いって事よ。今日はアイツもいねえんでワシも気分がええ』
ひょいと背中に乗ってから地面に降り立ったレオンティーナが呆れた様子でカムイと呼んだ熊を振り返った。
「お前もそろそろ老獪な熊らしく、同格とは仲良くする努力をしたらどうだね。あれほど頼りになる奴も他にそうはいるまい。使い魔同士でもな」
『それはそうだがよお。ワシは苦手だ、あの若手はよ』
ふたりの会話を聞きながら、荷台からそろりと降りてきたエルザが落ち着かないのを察して、一匹の猪が軽快なステップで小刻みに寄って来る。
『ようよう! お前らそれより見てみろって、こっちの可愛い小娘を! あのレオンティーナ嬢がヒュプノスの森に他人を連れてやってきた!』
朗らかな声が森にこだまする。動物たちも一斉に彼女を見た。
『ちょっとちょっと、アタシの可愛い子なんだから!』
ベニータがエルザの肩で翼を広げて猛アピールをすると、鹿が冷たく睨む。
『騒ぐな。君が仕事を任された事は知っている。だが、ここへ来た御主人の客となれば我ら全員が見定める権利を持つ。そうだろう、御主人?』
問われてレオンティーナがひとつ頷く。
「当然だ。お前たちの眼鏡に適うと思って連れて来たんだ」
いくらエルザが客人といえども、ヒュプノスの森では使い魔たちは絶対的な存在だ。レオンティーナが『大丈夫だ』と言っても、彼らが嫌がれば森にはいられない。新しく来る魔女は、必ずそうして受け入れられてきた。
ふむふむ、なるほど。これは中々。口々に動物たちは言った。エルザの瞳を覗き込み、小さな挙動ひとつ逃さず観察して、何匹かがひそひそ話す。
木の上から眺めていた一匹の黒く毛深い猿がひょいっと降りてくる。
『ようレオ、遅れちまった。他の連中は出て来るつもりがないらしいから、今ここにいる俺たちだけで処遇を決めちまっても構わないよな!?』
「それでいい。他の奴らもそれで納得してくれるんだろ?」
猿が嬉しそうにキキッと高い声で鳴く。
『だったら答えは全員同じだ! なあ、そうだろ!』
猿の言葉に誰も彼もが同意した。鹿が角でエルザの背中を押して焚火の前まで歩かせ、よく火の当たる温かい場所へ連れて来て────。
『臆病だが気高い。優しいが厳しい。昏いが眩い。この娘たるはレオンティーナの傍仕えとして相応しき者である。我々の意見は一致した』
鹿が話すと、森の陰から覗く者たちが他にも多くいる。そのうち、一匹がおっとりした歩みで姿を現す。土を均すように大きな蹄の跡がつく。
『なんだねなんだね、レオンより性格の良さそうな子じゃないかね。他の隠れてる奴らは気にせんでくれ、恥ずかしがり屋もいれば、誰にでも牙を剥くようなやんちゃなのもいる。わいらはそれでもあんたが嫌いじゃあないのだよ』
大きな牡牛。ごろごろ大きな声で、立派な双角を持ってやってきた。
「うむ、皆が受け入れてくれて何より。既に紹介した奴もいるが、改めて彼ら────俺の友人たちを紹介しよう」
使い魔で最も古株なのが、鹿のアダン。初代の魔女のときから存在する。使い魔同士でさえ彼の事をよく知らないが、まとめ役として信頼が厚い。
次いで古い座を持つのが熊のカムイと牡牛のクレタ。老獪でときに優しく厳しい性格をして、あまりモノを言わず関わろうとしない。だが、ひとたび魔女が頼み事をすれば、口うるさくなったりもする。
ベニータは言わずもがな、騒がしく鳴きながら主人を愛してやまない詩歌いだ。声が奇麗で、お祭り騒ぎが大好き。仲間からも『歌だけ歌っていればいいのに』と言われるくらいには耳に心地良いが、いささかやかましい。
猿のボブと猪のステフは仲が良い。走り回るのが大好きで、レオンティーナと遊びたがるが、ベニータよりもずっと騒がしいので煙たがられている。
『この焚火はよう、このボブ様が焚くんだぜ。凄いだろ、な、ステフ!?』
『自慢げに言いやがって! レオンティーナ嬢が呆れちまってるぜ!』
落ち着きなくウロウロするので、レオンティーナがうんざり睨んだ。
「お前たちは年甲斐もなく子供のように……。まあいい、ひとまずここにいる連中は紹介できたか。まだいるんだが、会って話すのは苦手な奴ばかりだ。今日くらい大目にみてやってくれると助かるよ」
たくさんの動物たちに囲まれて最初はおどおどしていたエルザも少し安心したのか、焚火の前に座って「全然、大丈夫です。ちょっと楽しいかも」と返す。動物たちに囲まれるなど、本来は経験できようはずもないのだから、と。
「では皆、外の天気も崩れている事だし、雨があがるまでは世話になる。都合のいい我侭にはなるが、よろしく頼む」




