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大魔女レオンティーナの愉快で滑稽な旅路  作者: 智慧砂猫


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第25話「またのお越しを」

 結局、口が利けなれば商談も進まない。グスタヴォも困ってしまい、再度の確認を取ってレオンティーナとの商談を優先するよう言えば、男も仕方なくうんうん頻りに頷いて、話せない事を苦しそうにする。


 手でどうにか開けないかと触れるのを横目に見た彼女は小馬鹿にするようにクッと笑って「無理にやれば二度と話せなくなるぞ」と指を鳴らし、ようやく男が口を開いてすうっと息を吸い込んだ。


「はっ……! ま、まさか魔女殿とは知らずとんだ御無礼を……!」


「別に無礼だとは思っていないさ。俺が魔女と分かる奴もそういないし、お前が順番を守れというのも至極まともな話だよ」


 冷たい瞳が男を見つめて睨む。


「だが口の利き方は学んでおけ。相手が誰であろうと利益とは常に姿勢が連れて来るものだ。わざわざ不利益な立ち振る舞いを身に付ける意味はない」


 そう言いながら首飾りを触るのを見ていたエルザは、彼女が酷く不機嫌である事を悟って、ほんの少しだけ傍に近寄った。


「……まあいい。今回は互いに痛み分けで済む話だ。これをくれてやるから少し待っていろ、俺たちもはやく町を出たくてうずうずしてるんでね」


 指で弾かれた金貨を手に取った男が、こくこくと頷いて返す。


「ではレオンティーナ様。商館の裏に馬車をご用意してあります」


「ああ、助かるよ。今度会いに来るときは酒を奢ろう」


「それは楽しみです。ささ、どうぞこちらへ」


 案内を受けて商館の裏手に回れば、大きな幌馬車がある。馬も立派なもので、大切に飼育されてきたのか艶やかな毛並みをして大人しそうだった。長旅で体を傷めないように御者台にも荷台にも絨毯やクッションが用意されていて、先んじて寝具やいくらかの食料も積んであった。


「ふうん、サービスがいいな。俺は気に入ったが、エルザは?」


「私も気に入りました。お馬さんも人懐こくて……」


 二人の評価にグスタヴォが自慢げに頷く。


「そうでしょう、そうでしょう。なにしろ一頭でも金貨数枚はくだらないほど丁寧に育てられてきた子たちです。魔女殿が馬車を欲しがっていると話したら、相手方もすぐに『この子たちなら魔女様のお眼鏡に適うはずです』と言っていましたよ。体も丈夫で大きな馬なので、長旅でも安心できるかと思います」


 語らせたら長くなりそうだと思ったレオンティーナが手をひらひら振って「よく分かったよ、それで額は如何ほどだね?」と話題を逸らすのに問う。


 彼がパッと片手を開いたのを見て、懐から小さな布の袋を渡す。


「ありがとうございます。……って多すぎますよ!」


 袋の中身を開いてぎょっとした。金貨がざっと三十枚は入っているのだ、家が何軒建つだろうと指折りで数えたくなるほどの額だった。いくら馬車が高級品といえども提示した六倍を渡されては焦りもする。


「受け取っておきたまえ。どうせ元々提示したかった額の半分程度だろう? 俺が相手だからといって、わざわざ下手に出る必要はない。それに注文があってから午後には手配しようと急いでくれた分、それからさっきの下らんやり取りの手前、受け取ってもらえないと俺の気分が良くないんだ」


 返そうとして一旦は伸ばした手が、いくらかまごついてから引っ込められる。受け取るのもひとつの礼儀だし、なにより下手に謙遜するのも魔女の機嫌を損ねてしまいかねない。


「相変わらず、私には扱いきれませんな」


「だから魔女でいられる。このまま乗っていっても構わないな?」


「ええ、もちろんでございます。ぜひまたいらしてください」


「礼を言う。生きている内に会える事を祈っているよ、グスタヴォ」


「ハハハ……。冗談に聞こえないのですが」


「当たり前だ、冗談で言っているんじゃない。気が向けばまた来る」


 旅を始めればどこともなく彷徨い、気が乗れば何年でも何十年でも滞在する。そうして会わないままに時間が過ぎていき、たまには会うかと訪れてみれば既に亡くなっていたという事がよくあった。


 レオンティーナだけではない。これまでの魔女も同様に時間の感覚が違うので、ほんの少しだと思っていても十年は経っている事が度々あるのだ。


「エルザ、荷台に乗れ。御者は俺がやろう」


「はい、わかりました」


 乗り込むのを待つ間に、馬の傍へ寄る。


「今日から頼むぞ」


 触れ合えば二頭はすぐにレオンティーナに懐く。彼女の気配から使い魔たちの存在を彼らは機敏に感じ取り、本能で信頼に値すると理解した。


「レオン、乗りました!」


「ああ、見えてるよ。では行こうか」


 足でこつんと地面を蹴れば、ふわっと風が舞ってレオンティーナの体が優しく浮いた。御者台にすとんと座って手綱を握り締め、グスタヴォに手を挙げた。


「ではまた、いつか。商会の末永き繁栄を祈っている」


 魔女の言葉にグスタヴォが深く頭を下げた。自由気侭に生き、爵位のひとつも持たない、身分だけ(・・・・)で見れば庶民とそう変わらない彼女の言葉も、魔女だと知っている者にとっては皇帝から受ける称賛に並ぶ価値がある。


「またのお越しをお待ちしております、レオンティーナ様」

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