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大魔女レオンティーナの愉快で滑稽な旅路  作者: 智慧砂猫


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第23話「望む景色を」

 恐ろしい記憶を塗り替えるに十分すぎる大きな存在のおかげで、またひとつ悩みは消えた。帰り道は心地良い足取りで、エルザはその間ずっとレオンの横顔をちらちら見ながら、嬉しそうに何度も微笑みを浮かべた。


 たった一人しかいない魔女ほど頼りになる者はいない。それと同時に彼女ほど怖いと思える存在もいない。レイモンドへ向けた冷たい視線は使い魔に頼らずとも足を竦ませる威圧感を持っている。


 ただ普通に話しているようで、いつでも殺してやるとばかりの冷たさを含んだ言葉。白を黒に塗りつぶす怒気さえ感じられる静かな声。レオンティーナがこれまで魔女として生きてきた強さがそこにあった。


「そういえば、あの馬車はどこに走っていったんですか?」


「皇都まで。ちょっと軽い魔法を掛けてやった」


 疲れ知らずの馬は休まず皇都まで走っていく。魔法が解ける頃には、馬は無事でもレイモンドと御者は衰弱していてもおかしくないが、そんな事は知った事ではない。邪魔をするから悪いのだと彼女は悪く笑んだ。


「自分がしてきた行いが、ほんの僅かに返っただけの事。あまり深く考えず、今は他人の不幸を祝え。過ちと知りながら蛮行を重ねる愚者には相応しい」


 伯爵家の積み重ねてきた富も名声も、それらを手に入れる手段は決して綺麗なものとは言えない。実の娘に対する仕打ちにも反省していないどころか、今もなお片付けたいと願っているのは火を見るより明らかだ。たかが馬車の激しい揺れに苛まれるくらいがなんだと言うのか。むしろ笑って送るべきではないだろうか。


 レオンティーナの考えはエルザには些か呑み込めないところはあるものの、レイモンドが受けたのが罰であったと考えるとすんなり受け入れられた。


「私もレオンのようになれますか」


「なれるさ。大木のようにどっしり構えていれば」


 臆病である事が悪いとは思わない。だが、そうであるがゆえに悪い方向へ作用しやすいのは確かだ。特にエルザのような塞ぎ込むタイプでは。


 「まあ、俺ほどに堂々とするのは難しいかもしれないが……。お前には、お前なりの前向きな強さを手に入れられるはずだ」


「私なりの前向きな強さ……ですか?」


 今はまだ分からない。レオンティーナは「旅を通して、いつか分かるときが来る」と言った。まだ始まったばかりの事に、あれこれと考えを巡らせたところで意味はないのかもしれない。ただありのままを享受してみよう、とエルザは「ちょっとくらいは期待してもいいんですよね?」と尋ねてみた。


 ほんの少しの思案の後に、レオンティーナは顎をさすりながら。


「俺も愚かゆえに未来など保証しようもないが、少なくともお前に切り拓こうとする想いがあるのなら、それなりに愉快な旅路を提供しよう」


 何か月か。はたまた何年か。どれだけの時間を要するかは分からない。もしかしたら五年、十年と先の話かもしれないが、それでもエルザには必要だ。今よりもずっと強く、そしてまっとうな陽光の下で生きるためには。


「おーい、あんたら遅いぞ!」


 酒場の前で待っていたマーティが二人を見つけて大きく手を振った。煙草を吸いながらだったのか、吸い殻が何本か足下に転がっている。


「ゆっくり観光をしてくると言っただろう。店は大丈夫なのか?」


「おう。どっちかっつうとこれからが忙しいんだ」


 暗くなれば仕事を終えた大勢の男たちが疲れを癒すのに酒と料理を目当てに詰め寄せて来る。そうなれば厨房も大忙しだ。その前に二人が帰って来てくれたので、マーティはホッと胸をなでおろす。


「商会に行って馬車を用意するように伝えておいた。レオンの姐さんが欲しがってるって言ったら、大急ぎで上質なもんを揃えるって目の色変えてたぜ」


「俺が羽振り良く金を払うかどうかも分からないのに?」


 そりゃそうさ、と頷いて返される。なにしろ魔女の羽振りが良いかどうかはともかく、彼女が何を用意しても支払わないなんて事があり得ない(・・・・・)のだ。


「商会長とは仲が良いだろ。安くしとくって言ってたぞ」


「そういって前に俺が買った酒は相場の四倍だった」


 呆れて物も言えんと笑いながら、エルザの背中をやんわり押す。


「中に入ろう。マーティ、お前にも差し入れだ」


「そいつはありがてえ。コーヒーをサービスしとくよ」


 空いているカウンター席に二人を案内して厨房に入る。少し待つ間にエルザがふと馬車を購入した理由を尋ねた。全く知らなかったから。


「馬車なんて買えば、安いものでも小さな家が建つでしょう?」


「あると便利だ。目的地まで何日も掛けて歩くのが好きなら構わんが」


「……それもそうですね」


 公爵邸から必死の想いで逃げ出して皇都を抜け、ひたすら走り続けた事を思い出す。膝を擦りむいても構わず、とにかく誰かに助けてもらおうと駆け続けたときの疲労ときたら緊張で忘れていたが、ひと晩を過ごせると分かって、どれほど気が抜けたか。歩き続けるのは少し嫌になっていた。


「どちらがいいか、この際だから任せよう。いずれにしても変わるのは日数だけだ、好きな方を選んでいい。お前が望む景色を見せてやる」

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