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大魔女レオンティーナの愉快で滑稽な旅路  作者: 智慧砂猫


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第13話「旅の目的」

 屋敷へ通され、まだやるべき事のあるヨハネスとは別れて二人は執事に応接室へ案内される。煌びやかな装飾は相変わらずの派手ぶりだとレオンティーナは鼻で笑って、ふかふかのソファにどっかり腰掛けた。


「まだまだ庶民の感覚には遠そうだが、どうも嘘を言っているわけではないようだ。この屋敷の派手ぶりを見るに生活改善は結婚してから徐々にかな」


「今までの暮らしって簡単に抜けないものですからね」


 対面に座って、エルザもくすくす笑った。


「あんなに力強く語る子爵は初めて見ました」


「愛で目覚めたなんてロマンチックで馬鹿げてるがね」


 そんな夢物語のような話が実際に起きているので、なおさら可笑しかった。階級社会で生きてきた思考の固まった四十半ばの男の凝りを解したのはいったいどこの誰なのか。気になりつつ、出された紅茶に口をつけた。


「そういえば、ここでは紅茶を出すんですね」


「紅茶の葉がバーレケン子爵家の中心事業だからな」


 ずず、とひと口飲んで、あまり美味しくなさそうな顔をする。


「あの男が紅茶の事業に手を出したのが十年前だったか。当時はさほど流行らなかったが『必ず成功する事業になる』と言って投資を続け、今では都市部でもかなりの人気を誇っている。見る目があるんだよ、アイツは」


 そっとカップを置いてからマカロンに手を伸ばす。甘いものが好きなので、こちらは噛めば噛むほど満ち足りた表情を浮かべた。


「レオンは色んな事を知っているのですね。羨ましいです」


「お前もこれから知ればいい。知ったところで大した役にも立たんぞ」


「……飲まれないのですか、紅茶?」


「俺はあまり好きじゃないんだ。香りとか味とか、とにかく苦手でね」


 今度はチョコチップクッキーに手を伸ばす。


「せいぜい飲めてミルクティーか。甘いものは好きなんだが紅茶はどうにも。これが菓子に合うんだと言われれば、そうかもしれないと納得はするが」


「私は好きです。今まで飲んだ事がなくて、なんだか新鮮です」


 それは良かったなとレオンティーナはどうでもよさげだ。


「にしても、ああも真面目になられるとやりにくい。俺はどっちかと言えばクズであって欲しかったよ。何をしても罪悪感を覚えなくて済む」


 確実に訪れるであろう伯爵家の人間を貶めるのに後腐れのない都合のいい相手だという認識でやってきたが、当てが外れてしまった。


 間違いなくヨハネスが彼女を利用して周囲への信頼を勝ち得ようとしているのは事実なのだが、バーレケン子爵家はまだ歴史の浅い家門に過ぎない。いくら事業が上手くいっているからといって、潰そうと思えば誰でも潰せるような脆い家柄だ。少しでも豊かに生き延びるに魔女を頼ろうとするのは当然。庶民派に傾きつつあるヨハネスの地盤固めは酒場にいる労働者たちを救う手段にも繋がるので、今になって無碍に扱う事への躊躇が生まれていた。


「いいじゃありませんか。せっかくならパーティを楽しむだけでも。いわゆる結婚記念みたいなものなんでしょうから」


「ま、そうかもな。俺は酒と美味いものを楽しめたらそれで構わない」


 何も急いで今でなくても、伯爵家を貶める方法はいくらでも思いつく。せっかくの結婚記念パーティを台無しにするくらいなら、適切な時期を見計らっていた方が後々の楽しみにも取っておけるとレオンティーナは笑みを浮かべた。


「それにしても、どうして結婚した事を黙っていたのでしょう? せっかくそういったお祝いの招待状なら、わざわざ依頼なんて形でなくても」


「ただの式典に顔を出す方がめんどくさがると知ってるんだろ」


 退屈になってきてソファにごろんと横になり、深呼吸して目を瞑る。


「俺は基本的に出不精だ。美味い料理は別に出掛けなくたってエステルが用意してくれるから、わざわざ結婚記念だのなんだの、そんなものに興味がない。だったら依頼の方が金になるから来てくれるかも……とでも考えたんだろうさ。あながち間違っていない正しい選択だったと思うよ」


 金ならいくらでも欲しい。レオンティーナはそういう人間だ。どれだけあっても困らないのなら、気が向けばいつでも手に入れられる。報酬に糸目はつけず、損さえなければ『やっても良い』と思える仕事はなんだって受けた。


 だからどちらかと言えば金がもらえる方が良かったし、仕事を受ける確率も高い。たかが一日だけ参加するパーティで飲み食いをするのなら、そのときの気分で食べたい料理をエステルにリクエストする方が遥かに気楽で満足できた。


「そうなんですね。じゃあどうして旅をするんですか?」


 エルザが来る前から出て行くのは決まっていた。邸宅を譲渡するからという理由だけでなく、何か目的があるように感じて尋ねると、レオンティーナはうーん、と少し考えてから────。


「次の魔女を探しに、かな」


 目を丸くして驚く。世界にたった一人しかいない魔女が、次の魔女を探すとはどういう意味なのだろうと首を傾げた。


「他にも魔女がいるんですか?」


「ん、言い方が分かりにくかったか」


 起き上がって座り直してから、手に魔導書を持った。


「魔女の能力(ちから)は他の誰かに譲渡できる。ただし、その素養を持った者でなくてはならない。これはソイツを探すための旅だ」

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