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大魔女レオンティーナの愉快で滑稽な旅路  作者: 智慧砂猫


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第10話「大きなひとつ」




────朝六時。朝食の時間だとエルザに起こされて、レオンティーナは眠たい目を擦りながら一階へ降りて来ていた。


「あのレオンが引っ張られて来るなんて珍しい」


 マーティがそんな事を言うほど彼女はひどく朝に弱い。だがせっかくエルザが言うのならついて行ってやろうという気持ちで、なんとか重い体を引きずって仄かな酔いの名残りとも言うべき頭痛に悩まされていた。


「……なんでもいい、ミルクとトースト……。バターはたっぷりで」


「なんでもいいくせに注文してんじゃねえか」


 半ば寝惚け気味なので、何を言われているのかピンと来ていない頓狂な表情を浮かべて、そのうち黙ったまま机に突っ伏して寝息を立て始めた。


「ありゃりゃ、寝ちまったよ……。それで、お嬢ちゃんは?」


「私もミルクとトーストを。それからえっと、ハムエッグとサラダも」


「おう、任せときな。すぐに出来るから」


 厨房に引っ込んで仲間に料理を任せている間、マーティは客の相手をする。カウンター席に座る客には退屈させず時間を忘れさせてくれた。よく舌の回る男の愉快な話に耳を傾け、時折エルザはくくっと笑って上品にも口元を手で隠す。


「昔はここも俺ひとりで切り盛りしてたんだがよ。何年も前に体を悪くしちまってね。今じゃ一緒に働いてくれてる連中に頭下げっぱなしだ」


「重い病気に罹られたんですか?」


 静かに微笑んで彼はゆっくり頷き、それからレオンティーナを見た。


「医者にも治せねえって言われてたんだ。死ぬまでを薬飲んで過ごすしかなかった。そんなときにコイツが現れた。魔女だなんて最初は知らなくてよ。驚いたぜ、コイツは俺の店にやってきてメシを注文したら、こう言った────」


 もう店を畳もうかなどと考えていたある日、レオンティーナが客として訪れた。いつものように退屈させないつもりで話していても饒舌にはなれない。もうこんなふうに話も出来ないのかと思うと悔しくて涙が出そうになり、堪えながら自分らしくあろうと振舞ったが、彼女は注文を終えてからフッと鼻を鳴らして。


『なんだ、明日にでも死にそうな顔をしているが。下らない悩みをひとつ俺に解決させてはくれんかね? その代わり、今日のメシ代はタダが良い』


 持ち合わせがないのに店に入ってきて、願いを聞いてやる代わりに料理を提供してもらおうと言うのだからマーティも仰天した。そんな奴がいるか、と。


 しかし不思議にも彼女の言葉には信じさせてくれるような力強さを感じて、自分がいずれ死に至るであろう病に罹った事を話すと、彼女は親身になって最後まで聞き入り、それから最後に『わかった』と短い返事だけをした。


「正直、治せるなんて思っちゃいなかったよ。ただ悩みを打ち明けたくなったんだ。コイツの言葉には、そういう魅力ってえのがあるのかな。そんで、まあ駄目で元々だって感じで話をしたら、分厚い本なんか取り出してね。片手に開いて俺に向かってこう、ぱちんって指を鳴らしたんだよ。それだけだぜ、信じられるか? だけどその日から俺はこうして健康に毎日生きてるってわけさ!」


 嬉しそうに語る声を聞いて、レオンティーナが顔を横に向けてじろっと見つめながら「また古い話を」と下らなそうに言った。彼女にとってはどこにでもある仕事のひとつと変わらないのだ。


「たかが病をひとつ消してやっただけだ」


「そいつが俺には大きなひとつだったんだよ」


 厨房から料理が運ばれてくる。サービスだと言って、彼は厨房からフルーツの盛り合わせも持って来させた。


「いいんですか、こんなにたくさん?」


「構わねえさ。良い客には良いもてなしをしなくちゃな」


 どれだけ好きなものを頼んでくれても構わないし、好きなだけ泊って行ってくれても構わない。レオンティーナと、彼女が選んで連れてきた者であれば。それほどに感謝している。金さえ要らないと言った事もあったが『金を払うから気分良く食えるんだよ』とあっさり断られ、今でもそのスタンスは変わらない。


「いいかい、お嬢ちゃん。あんたも何か大きい悩みでもありそうな顔してたけど、レオンの姐さんと一緒なら大丈夫。悩みなんてのは大きなひとつを取り除いちまえば、後はなんとかなるもんさ」


 まだ始まったばかりの旅路。心の中にまだ根を張ったままのもやもやした気持ちも、いつかは晴れるのだろうかとミルクを飲む。


 公爵家や伯爵家が敵であるのなら、他の大勢もそう変わらない。姿を変えていて気付かれる事がないとしても、些細な事から自分が何者であるかを知る者が、いつか必ず現れるのではないか。そう思うと不安は多い。


 しかしマーティの言葉通りであるならば、大きなものがひとつ取り除かれれば、残った不安も、それほど心配する事などないのかもしれない。ふとレオンティーナを横目に見てみれば、彼女は寝そべったまま、フッと笑って────。


「明日がよほど不安と見える。その程度の下らない悩みのひとつくらいなら、俺が解決してやれん事もない。……さて、どうするね?」

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