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アンナの旅  作者: mega
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国境の町

 「もう魔物は来ないと思いますが、一応警戒は怠らないようにして下さいね」

そういうと、アンナは馬車の外に出て行きます。

それを見て続いて4人の聖女が降りてきますが、もうみんな無言です。

いまおこったことは、理解出来ない夢みたいな経験だったからです。


 外では、クロノ司祭が魔物に襲われて怪我をした人達の治療を始めています。

魔物に噛まれたり、爪でひっかけられたりした人達が、傷口を押さえて苦しんでいます。

聖女達はけが人達に寄り添います。

「だいじょうぶですよ」

「この傷なら軽傷ですから」

「こころをしっかり持って」

3聖女は聖女の仕事を心得ており患者を励まします。


「しっかりしないと、ぶっ叩くわよ」

トリーは年長だから励まし方はもう看護婦長さんです。

挿絵(By みてみん)

「ルーツ、水をくんできて、もっと大量に、急いで」と婦長さんは命令します。

馬車の奥でガタガタ震えるだけで何もできなかったのですから、商人のルーツはこき使われて当然です。

聖女の役目の一つは、病気や怪我の人を介護するという医師、看護師としての役目もあるのです。

医学の知識があるため、多くの人から頼りにされているのです。


 クロノ司祭は

「怪我の箇所にはできるだけの水を流して」

「血が出ていてもまずは洗浄を優先するように」と指示をだします。

内部に口の中にある毒物が残っている可能性があり、それをまずは洗い流すことが大切なのです。

十分に洗った後、清潔な布で患部を保護します。

聖女達はその治療を共同で行っていきます。


「魔物の毒が入っていなければ良いが」

毒が残っていると、しばらくすると熱が出る可能性があるのです。

クロノ司祭はそれを心配しているのです。

治療の後、その傷口に対して聖女達は手を当て祈ります。無事に良くなる事を祈るわけです。

どんな治療も最後はその人の生命の力に期待するしかありません。


安心させるように微笑んで「大丈夫ですよ、良くなりますから」と言う言葉がどれだけの治療になるか

は言うまでもありません。

傷口に聖女様が手を当てることで、

「聖女様なにか痛みが引いてきたような気がします」と言います。

「それなら傷の治りも早いと思いますよ」「大丈夫」とノルはそういって、にっこりします。


そのように患者を勇気づけ、希望を持たせる言葉、安心させる表情、態度はさすがに聖女様といわれるわけです。

患者はそれだけで、自分は大丈夫だと思えるのです。

ぶっ叩くという言葉も、その奥にはしっかりしなさいという励ましの意味があり、

聞く方もそれがよくわかるのです。


 言葉は人を生かしも殺しもします。愛情のある言葉、丁寧な言葉、思いやる言葉を、言葉は人を殺す物です。だから一層注意して扱う必要があると聖女達は教えられているのです。

そして、今回はあの奇跡の姿をみたわけですから、けが人も心強く思っているのです。


「聖女様は俺達の味方なんだ」

「すごい」

「聖女様の力で私たちは助かりました」

「聖女様が祈れば治るんだ」って そして、今回の襲撃で護衛の人達にも、アンナ達に対する信頼が芽生ています。


 そうでしょう、危機一髪の時に一撃で魔物を追い払ってくれた訳ですから。

あの馬車の上に立ち、射し込まれた陽光に輝く弓を持ち、毅然と立ち上がっているあの姿を見あげた人はみな、そうアルテミスの再来かとも思うはずです。

自分たちは守られているんだ


アンナはその様子を見て、また少し胸が痛みます。

(わたしは、この世界の人間ではないのだけど)

自分の正体を明かしてはいけないと自分に言い聞かせています。


 治療が終わって一息と言うところでクロノ司祭が、アンナに話しかけます。

「あの立ち上がるひかりは………」

「聖女みんなの助けがありましたので」小声でそう答えました。

(このひとはあれが見えるんだ)

クロノ司祭はそれ以上は問いませんでした。


「先を急ぎましょう。うまいぐあいに逃げてくれただけですから」とアンナは先を急がせます。

「そうだね、森をぬけるのが先だ」

危険なこの箇所をできるだけ早く通過するために先を急ぎます。

道中で夜になってしまうと、夜は魔物の世界です。

食事なども簡単な携行食を車中で取るようにして先を急ぎます。


 さあ再出発で2台馬車は動き出しました。今回は、聖女達の乗る箱馬車が先行します。

その上にはケルンが弓を持って乗ります。

アンナは指示を出しました。

「あなたは弓を持っています。おかしいと感じたら、矢をつがえず、弓の弦をおもいっきり曳いて鳴らしてください」

「魔物達はあの矢で懲りたと思います。その弓の鳴る音を聞くと 避けるようになりますから」


ケルンは、それを聞いて馬車が進んで行くと時々、弓の弦を鳴らすビーーーン、ビーーーンという音が馬車の中にも響きわたります。


馬車が進んで行くと だんだんと森の木々は少なくなってきて、周りが広がりはじめて来ました。

森の終わりが近づいているのです。


 そして遠くに町の姿が見えるところまで来ました。

「町がみえるぞ」大きな声で一行の人達に告げます。

「もう少しで着くぞ」

黒い森をぬけ、だんだんと国境の町が大きく見えてきました。

そうしてなんとか無事に、一番危険なこの森を日が暮れる前に通過することができました。


 この事があった以降、この国境の黒い森を通過する旅人は、あの矢の音の鳴る笛を持ち、歩きながら、その笛を鳴らすようになったと言います。

その音が魔物達をおそれさせ、襲われる事が減り、安全に通る事ができるようになったと言うことです。


 町に到着し、ようやく4日目の旅が終わりました。

「今日はここまでにしましょう。この町の教会で宿泊です」

そう言うとクロノ司祭は馬車を止め、馬車に乗っていた人達に告げます。


「お疲れ様です。ゆっくり休んでください」

そう言うと馬車の外に出ていきました。

アンナ達は、教会で馬車を止めて、降りていきその入り口から中に入っていきます。

着くと、トリーと聖女達は荷物を持って教会の裏にある宿舎に歩いて行きました。


「あーーー、つかれた」トリーは思わず声をあげます。

「でも、無事着いたわね」

「そうだね、あとは、明日だね」

そんな会話をしながら、5人の聖女達は部屋に着きます。

「じゃあ、お休み」

「おやすみ」

そう言って、部屋に入りベッドに飛び込むとそのまま眠りにつきました。

今日の旅は襲撃もあり強行軍でしたので本当に疲れていたのです。

「おやすみなさい」



アルテミス

ギリシャ神話における弓の女神


その起源はさらに古く、最古の光の女神であるアナーヒターとも言われている。

アナヒターは様々に変化し伝えられている

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