マティ
繁華街の中で馬車が止まったのは、先日の3聖女がメイド姿で行ったマティ商会の前でした。
そこでまっていたのは、オーナーのマティと商会の面々で、その中には、あのルーツの顔もありました。そして、マーサ夫人もオーナーのマティと一緒です。
マーサ夫人は、この段取りをするためにマティ商会に先乗りしてやってきているのです。
すこし時間を遡ります。
マーサ夫人は、アンナ達を馬車で大聖堂へ送り出すと、早速昨日のマティ商会に向かい、オーナーのマティに面会を求めたのです。
商会の執事に連れられ、階段を上がりオーナー室のドアが開けられると、マティは机から立ち上りました。その顔は上機嫌で迎えてくれたのです。
商会の執事が後ろでドアを閉じ、出て行きました。
この部屋での話しは、もうだれも聞こえないことを確認したマーサ夫人は、マティの前に進み出ます。
さっそく、マティから
「やあやあマーサ、昨日は東の聖女様に来ていただいた。ありがたく思うよ」
「あのかわいいお三方は喜んでもらえたかな」その口調はとてもご機嫌な様子です。
その挨拶にマーサ夫人は
「3人の聖女様達はとても喜んでいましたよ。ずっと大変な仕事をしていましたからね」
そう返事を返しましたが、さっそく本題を切り出します。
「でも今日ここに来たのは、実は今日もう一人のアンナ聖女様がここに寄るようにと言ったので、その段取りにやってきたの」
その言葉にオーナーのマティはまたもビックリ顔です。
「もう一人というと、あの競技会で3位になり、あの葬儀でマルゴット様の杖を持ったあの聖女様かい?」
「そう」
「昨日もビックリしたけど嵐のマーサは、今度は暴風を持ち込むわけかい」
「王城の商会なども見てもらいたいのだけど、昨日の3聖女の時も服装が無い事もあってあのようなメイドの姿で来たの、だからアンナ様にもそれなりのドレスを準備する必要があるの」
訪問の理由は、ドレスなどの服装の相談だと伝えたわけです。
「という事は、そういう話が来てるってことだね」
オーナーのマティは、この訪問の意味を察してきたようです。
「マルゴット様の裳が明けたら、色々な話が出ると思うの」
「そうだろう、競技会だけでなくあの葬儀を見たら、余計そうなるだろう。光り輝くマルゴット様の杖を持った聖女様だろう」
「それがわざわざこの商会においでになるとは大変なことだ」
そこでマティはちょっと考える仕草を見せ
「今回の聖女様は特別だから、他の商会の面々からも挨拶しておきたいだが、かまわんかね」
「それはいいと思うけど、高く付くわよ」
(聖女の姿で動くので、もう隠すことは出来ないし、今回の訪問は、服装の件で相談という事にしておけばおかしくない)とマーサ夫人は考えています。
(これだけのVIPがやってくると噂はすぐ広がる、マティ商会だけではギルトの連中からヤッカミと妬みになるから、先手を打って商会ギルドへ訪問したような形にしとけば間違いはない)
商会のオーナーのマティはそう考えているのです。
1位のベアトリス様や2位のキラ様は、もう王城に本拠があるので、服装などの手配はなじみの商会を邸宅に招いて相談ともなるが大貴族のやり方です。東の聖女達は地方出身の為そのつてが無いわけですからこうなるのです。
(今後化ける可能性があるから、有力商会の面々と顔をつなぐのもありだろうし、マティ商会だけでは出来無い事も出てくる。それよりも、商会の面々も一度お目に掛かりたいと思ってるでしょう。この先ご婚約やそれからご結婚まで進むと、大きな話になってくるはずだから今のうちにつながりを持っておくのも悪い話じゃないわ)マーサ夫人の頭も、フル回転しているのです。
「そこまでわかってるのなら、用意してね」
「それから、アンナ様の従者でトリー聖女も一緒に来るわよ」
マーサ夫人はマティに次の嵐を吹かします。
「ほー、この聖女さまもかい、噂では(というかルーツが情報の出所ですが)わずか一月で聖女になり
聞く話によると、マルゴット様の最後に指導された聖女だと聞いてる。その葬儀でもたしかベアトリス様の後ろに立っていた方なんだろう」
「まー!!よく知ってるわね」
「そりゃそうだよ商会の命は情報に有りさ」
マーサ夫人は、マティ商会がここまでくいこんでいることに内心驚いています。
(まったく油断ならないわね)
そう話が決まると、マティオーナーはギルド首脳の商会へ、マーサ夫人を残して急いで出かけたのです。
マティは、大きな商会に到着しました。そこはアルク大公贔屓の商会でグント商会と呼ばれています。
この商会は、最も歴史が古く、アルク大公と関係の深い商会であり、また商会ギルドを取りまとめる
理事長を長年輩出している商会なのです。
ちょうどそこにはフリッツ商会のオーナーも同席していたのです。
このフリッツ商会は、メーセン宰相贔屓の商会であり、近年南部の発展とともに北部のグント商会に
肉薄しているのです。
マティはそれを見ると
「ギルドの理事長と副理事長さんが、同席とはちょうどよかった」
「どうされたんだね、マティさん。急いで?」理事長のグントです。
副理事長のフリッツは、その急いでやってきたマティを見て
「いま理事長と次回のギルドの会合について話していたところだが、なにかあったのか?」
マティの息が整ったところで
「実は、マティ商会に東の聖女様が急遽今日お見えになると連絡があったので、来たんですよ」
「それはそれは、わざわざここに来たのは?」
「ギルドとしても、東の聖女様への招待状を出されていたので、この際だから一度合っておくいいチャンスでしょう」
「でも招待されたから来たわけでは無いだろう?もっと優先される招待があるはずだろうし」
「これから、いろいろな招待がはじまるので、その準備の為にやってきたんですよ」
訪問の理由をマティは話したのです。
「これは招待ではなく、ちょうど来られたから挨拶をしたということにしておけば、ほかの有力な
貴族様より先にはならんでしょう。そう思ったからやってきたんですよ、ギルドの一員として」
そんな話しが、アンナ達の到着前にあったのです。
アンナ達が乗る馬車のドアが開かれると、まずトリーが降りてトリーに手を支えられる様にしてアンナが馬車から降りてきました。
今日は大切なお客を迎えるという事で、その時間店はそのためだけに開けているのです。
そしてオーナーに導かれるように階上へアンナを先頭にして、トリー、マーサ夫人の3人が上がっていきます。
そして、そこには数人の男性がおり、先ほどの商人ギルト理事長グントと副理事長のフリッツが従者をつれて立って待っていたのでした。
グントは緑を基調とした正装の姿であり、マティより相当高齢の人物です。その押し出しは歴史あるアルク系列の歴史をあらわす重さを感じさせる姿です。
対するフリットは同じように正装ですが、こちらは赤を基調とした姿で、やはりマティより年長であり
ますが、いま伸びている強さと勢いを感じさせる服装なのです。
マーサ夫人はそれを見て、(タヌキのグントとキツネのフリッツの登場というわけネ)と不謹慎な事を考えているのです。
商会ギルドは、アルク大公贔屓のグント商会、メーセン宰相贔屓のフリッツ商会は、有力貴族グループを支える商会として存在しているのです。つまり、ここでも聖女競技会だけでなく、派閥の影響が及んでいるのです。
グント商会は、北部の鉱山関連と森林資源関連に商圏が広がり、そのネットワークは、他国へも浸透しており、フリッツ商会は、南部の農産物を主力として大きな商圏をもっており、農産物を通じてここも他国と大きなつながりを持った商会なのです。
マティ商会はやり手ではありますが3番手なのでこれをより一段大きくしたい野望をもっております。ルーツが東地区を回っていたのも、そこに商圏を広げる意味があり、東地区に隣接するメラノ侯爵領と強いつながりがあるのも必然の動きなのです。
しかし、アルク系列、メーセン系列と比べて、まだまだ大きな商圏になってはいなのです。
各商会はやはり利益で動くモノなので、貴族達のようにあからさまな争いまではなっておりませんが、やはり心得ておかなければならないところなのです。
この商会ギルドは、色々な貴族や他国までも入り込んでいきますので、商売を通じて様々な噂や情報などが一番早く集まってくるところなのです。
ながい平和によって人口も増え、他国との交易も広がってきています。この商人達の力は思う以上に大きくなってきており、市民としての有産階級を形成してきているのです。
アンナ達がマティ商会の来客の部屋に入ったところで、まずオーナーマティから紹介がはじまりました。
「本日はようこそいらっしゃいました。東の聖女様、この度は当商会にご来店いただきありがとうございます」
「お初にお目にかかります。マティ商会オーナーのマティでございます」
と軽くアンナ達に頭を下げます。
そして、来客室で待っていた男性達を紹介します。
「こちらにおりますのは、商会ギルトの理事長をしているグント商会のオーナーであるグント氏」
「その隣におりますのが、副理事長をしているフリッツ商会のオーナーであるフリッツ氏です」
それぞれアンナ達に対して丁寧な会釈をしました。流石に大商人です貴族のような尊大さは感じさせませんが、丁寧さの中にもスキがありません。
それに対して、今度はマーサ夫人より、「こちらが今回の競技会で3位となりました。東のアンナ様です」また「その隣はトリー聖女様で東地区よりアンナ様と来られ、この王城で聖女となった方です」
そのように紹介しますと、アンナとトリーは、商会ギルドの面々に軽く会釈を返したのです。
オーナーのマティは、簡単な紹介が終わったところで、まず来客の聖女様を席に案内します。
アンナを中心に右にマーサ夫人、左にトリーという形です。
それに対応するように3人の大商人達が、マーサ夫人の前にはマティが、アンナの前にはグント氏が、トリーの前にはフリッツ氏が座っていきます。
座り終わったところで、お茶とお菓子が運ばれてきました。運んでくるのはマティ商会のあのルーツです。アンナとトリーを見ると、他人に気づかれないように目を合わせて簡単に会釈するのです。
ルーツの存在に気づいたトリーは、よく知っているので、ちょっと気分がほぐれました。ほっとした笑顔で軽く会釈を返したのでした。




