祈り
アンナが肖像画のモデルのため大聖堂へ通う事になりましたが、それを始める前に祈る姿ありました。
アンナが大聖堂に着くとリサ聖女が待っていました。アンナは馬車を降りると肖像画を描く部屋には行かずに、すぐに階段を上がって四周が見渡すことのできる高いテラスに、トリーを引き連れて上がっていきます。それにはあのリサ聖女もついて行きました。
そして、アンナはそのテラスで祈りを捧げる礼拝を始めたのです。
東に向かって、頭をうつむけて祈り
それが終わると体を反対側にむけ
西に向かって、同じ様に祈り
次は右に体を向け
南に向かって、祈り
それが終わると体を反対側に向け
北に向かって、祈ります。
さらにその場で顔を上方を向け
天に向かって、祈り
今度は下方を向いて
地に向かって、祈るのです。
その時、祈りながらなにか言葉を唱えていたようですが、控えるトリーとリサには聞こえませんでした。
リサ聖女は気がついたのです。マルゴット様も、高い塔に上ったとき、同じ様な祈りを捧げられていたことを思い出すのです。
その時は執事であるリサはマルゴット様の後ろに控えてみておりました。相手が大聖女様でありましたので、声をかけることははばかられていたのです。
でもその時、マルゴット様はなにをされているだろうかと言う想いがあったのです。
しかし今回アンナ聖女が同じ祈りを行っていましたので、祈りが終わった後、塔のテラスから階下へ降りようとしたときに意を決して呼び止めたのです。
「アンナ様!!!」
リサ聖女のその声に、アンナはリサの方を向きました。
「はい?なんでしょうか?」
アンナはトリーと共に下りようとするその歩みを止めたのです。
その時の顔は、何かあったのかしらというような顔をして振りかえったのでした。
「あの、失礼とは思いますが、今日塔の上で祈りを上げておられましたが、以前マルゴット様が同じ様な祈りをされているのを思い出しました。もしよろしければ、なぜその様な事をされたのでしょうか?よろしければ教えていただけないでしょうか?」
「リサ様は、マルゴット様からお話が無かったのですか?」
「以前その時は大聖女様にそれをお聞きすることは、出来ませんでした」
それを聞いてアンナはニッコリしました。
「そういう事でしたら、マルゴット様からこう言われました。
東に礼拝する祈りは、私を産み育ててくれた父母に祖父母に
西に礼拝する祈りは、私を教え導いてくれた師に
南に礼拝する祈りは、私を支えてくれる家族に
北に礼拝する祈りは、私を助け協力してくれる友人に
上に礼拝する祈りは、私を生かしてくれる天の恵みに
下に礼拝する祈りは、私を生かしてくれる地の恵みに
感謝する祈りを捧げなさいと教えいただきました」
それを聞いたリサは、その時を思い出すかのように
「あの時マルゴット様は、そういう思いで祈りを捧げられていたんですね」
「そうです。大聖女様という立場であっても、常に周りの人々に支えられていることをよくご存じだったわけですね。いつも皆に感謝の祈りを送ってられたんです」
「高いところに上がられたのは、この想い見える限りの場所に人に届けたいというお気持ちだからだと思います」
アンナはその様に説明した後、
「では明日からは一緒に礼拝いたしましょう」とリサに提案したのです。
「トリーもお願いしますね」「はいわかりました」
この後、リサ聖女はこの礼拝を長く続けたと言い、後に礼拝の聖女と呼ばれる事になります。
それをトリーに言った後、付け加えるように
「いまから、絵のモデルにたちますが、その間リサさんに、あれを教えてあげて下さい」
「あれというと、あれですか?」
「そうです。お願いしますね」
という事で、アンナが絵のモデルとなっている間、トリーは、リサ聖女に伝えることとなったのです。
トリーはリサと協力して別室にてアンナにマルゴットの黒い衣装を着せました。そして杖を持ちモデルとして立つこと見届けると、描く画家とアンナの邪魔をしないようにリサとその部屋を後にして二人は別の部屋に入りました。
そこで置いてある椅子に二人が座ると、トリーは話し始めるのです。
「一番大切なのは気をつけることなんです」「そういわれました」
だれもがそう思うように、リサ聖女もその言葉に戸惑いを覚えたのです。
(気をつけるってなにを?)
そこからトリーとリサの長い話が始まったのです。
肖像画については、まだまだ時間が掛かります。
今日のモデルの仕事は早めに切り上げることになりました。
明日もありますのでトリーはリサとの話を中断して、アンナの元に戻ってリサとその着替えを手伝います。
「アンナ様ご苦労様です」トリーはそう言って、アンナをねぎらいます。
マルゴット様の衣装についてはアンナに譲られたのですが、リサが責任をもって保管管理することになっています。
「リサ様、保管をよろしくお願いします」
「わかりました。間違い無くお預かり致します」とリサ聖女が答えると
「ところで、トリーとお話されたと思いますが、いかがでしたか?」
そう言って、衣装などを片付けながら、アンナは問うのです。
「おっしゃることは、まだ良く理解できなのです。しかし習うより慣れろで、まずやってみるのが一番わかりやすいとおっしゃるので、それを行うように致します」
「いまもそれをできるだけしているつもりです」
「続けていただくと、リサ様ならすぐにおわかりになると思います」その様にアンナは励ますのです。
着替えが済むと、トリーとアンナはリサ達の見送りの中、帰りの馬車に乗り込みました。
大聖堂からの帰り道は、メラノ邸ではなく先日の3聖女が見学した繁華街に向かっています。
馬車にのる前に御者から
「今日はこの後、メラノ邸に帰る前に繁華街のマティ商会に参ります。マーサ様からその様に聞いております」との伝言がありました。
アンナはそれを聞いて、馬車の中で一緒に乗る付き添いのトリーに
「今日は、繁華街を案内してもらえるみたいね」
「昨日マーサ様から、ご用意致しますとの話がありましたから」
トリーはそう答えながらアンナの様子を見ると、動く馬車の窓から外の様子を楽しそうに見ています。
繁華街に近づくと窓の外には、手押し車にモノを積んで売り歩く人や、食べ物を売る人や屋台を出している人など色々な商売をする人達の声が聞こえてきました。
始めて見る活気があり華やかな街の風景の中を馬車は進んで行きます。
アンナはすこしウキウキしているようです。
「アンナ様はご機嫌ですね」
「そう見える?」
「昨日は、ご不満なお顔をされておられましたから」
「今日は、楽しいことが待っているもの。嬉しいわよ」
トリーはアンナの事が心配でしたが、ご機嫌も戻って少し安心です。
「そうですね。昨日は難しい顔をされていましたから」
「私そんなに難しい顔してた?」
アンナは自分の顔を両手で触ります。そして、トリーに聞きます。
「してましたよ」トリーはその様子を、ほほえましく見ています。
(これってこれがいつものアンナ様ですよね)
(家を出てからずっと、難しい顔ばかりされておられたし)
(すこし、息抜きも必要です。無理をされておられたから)
(人がかわったように動かれてました。でもそれでわたしは聖女になれたようなものですけど)
「そう……」とアンナは首をかしげて少し反省した顔です。
(かわいいお方です)それを見てトリーはそう思うのです。
そんな話をしていると馬車が止まりました。そして御者が扉を開けてくれます。
六方礼拝




