不満
デント執事がメラノ侯爵と用事から帰ってきましたので、マーサ夫人はさっそく今日のできごとを話します。デントと二人になったところで
「おでかけの用事はどうでしたか?」
「これは大きな話しでもなかったので、何事も無く終わったよ」
「それはよかったですね」
とマーサ夫人は、さりげない話しを切り出しておいて本題の話しに入っていきます。
「出かけられた後、久しぶりなので挨拶のために、マティ商会に行ってきたのよ」
「それは、必要なことだよ、あそこには競技会の時はいろいろ世話になったからね」
とデント執事は、外出からの後片付けながら返事をしました。
「パンの店のクルトにも出合ったし、いろいろな人が声をかけてくれたわ」
「まあマーサはここの出身だし、昔から有名だから、なんで戻ってきたのかと言われただろう?」
「いま大変なお客が滞在しているから、その応援っていって納得してもらったけど下町では、メラノ邸の聖女様は大変な噂になってるってみんな言ってる」
デント執事の着替えを手伝いながら、まずは町での噂の状況について話します。
「競技会だけならともかく、大変な葬儀までくわわってしまったから、貴族だけで無く町の人にも
名が知られたろう、あとどう持っていくかだね」
夫のデントの機嫌も良さそうなので、マーサ夫人は核心を切り出します。
「ちょっと言わなければならないことあって」
「なんだい?」
「実はその挨拶に3聖女をつれていったの」
「おいおい」デント執事は着替えの手を止めちょっとビックリした顔です。
「彼女達長いこと相当大変だったし、これからもっと大変だろうから、少し息抜きを兼ねて市場でも
見学させようと思ったのよ」
その返事に、デント執事は心配そうな顔で
「聖女様が一緒だと流石にまずいだろう、あのカッコであるいたら、旅行だから余分な衣装も持ってないはずだろうし」
「メラノ家のメイドの衣装を貸してあげたのよ、私の後をついて歩くなら、目立たないだろうと思ったからそれからお土産も買いたかったみたい」
「元々は競技会といっても王城見学旅行のノリで来てみたいなもんだと聞いてるんだが、大化けしてしまったからな、もうそろそろウズウズしてくるハズだ、お客さんなんだからじっとしとくようにもいかんだろうし、この後の招待状の件も控えているから」
「まあ、あそこなら近いし目が届く、メイド服ならメラノ家の者だとわかるから、ちょっかいかけるものもいないだろう。あそこならマーサの縄張りの中みたいなもんだろうから」
デントは、そのくらいのことは必要だと思っています。
聖女達は、メラノ家の使用人でもなくお客様であるので、縛り付けておくわけにもいきません。
さらにマーサ夫人は
「それから、買い物のお金を持っていないので、用立てたわ」
「多くは無理だぞ」
お金の事はデント執事は一番心配しています。
「あの子達のあの引き出物よ、それを抑えたから、大丈夫」
「滞在中の金銭はわたしが管理するようにしたから、変な買い物にはならないと思うの、あの子達あれをうっぱらいかねないから」
「聖女様をお金で取り込んでくる輩もでてくるだろうから、変な借りになりかねないからな」
デント執事は、売買の難しさと怖さをよく知っているのです。
「簡単に商売はできない事は理解してもらえたみたい」
「田舎からポッと出てきたそれも聖女様では、ほっとくと変なところに巻き込まれるだろう。お金は怖いもんだ」
(まあ、マーサが管理するなら、大丈夫だろう)とデント執事は安堵したのです。
「あと、マティ商会へ挨拶にいった時、そこでなぜか聖女様の正体がわかったみたい、ばらしたわけでも無いのに丁寧にオーナー室に招待されたわ、どうしてわかったのかしら」
(ベルが自分から手を振ったためです)
「アー言うの忘れた、あそこのルーツというのに、競技会のとき助けてもらったからな、でもあのオーナーなら、懇意だからわかっても変なことにはならんだろう。いつまでも隠し続けることはできないだろうしな、今後物入りになるだろうから、商会の協力はいるようになる、あらかじめお披露目をしたわけだ」
「とても丁寧な対応で、立派なお土産までいただきました」
「そして口外はしませんからと言って、オーナーの機嫌の良さは今まで見たことが無かったわ」
「知り合いだから、いまから一枚噛ませろよということだろう。あの界隈では抜け目のなさは一番だ」
「ごめんなさいね見つかって」マーサ夫人は謝りました。
(まあ怒られないことがわかったので、こうあやまっておくのがマーサ夫人のうまいところです)
「まあ、いつかはこうなるだろうから一応メラノ様にはうまくいっておく、何事も無かったわけだし、
でも聖女様の監視はつけておく必要があるぞ」
「それはメイド達にいいつけてあるわ」それは手配済みなことを報告します。
「問題はこれから先だ問題はアンナ様だよ、これ知ったらむくれるんじゃ無いか?仕事ばかりになってどこかで休養させないと、すこし息抜きがひつようだろう。これから招待状の件もやってくるから」
「そう思ったから、まず3人を連れ出したんだけど」
「自分もつれていけってダダこねそうだし、夜中に走り出すような実行力がある聖女様だし、どうする?もうやらかしたんだから、次は考えてあるだろう。嵐のマーサ、たのむ大嵐にしないでくれ」やはりこの件はマーサに頼りっきりのデント執事です。
「まかせて、考えがあるから」
大聖堂からアンナ達が帰ってきました。アンナもトリーも疲れた顔をしています。気分を使うモデルを
していましたし、連日あわただしい事が続いていたからです。
馬車を降りて、部屋に向けてトリーと廊下を歩いていきますと、一人のメイドさんが立っていました。
一礼をするので、通り過ぎようとすると(アレ?)とよく見ると、それはサンディなのです。
アンナは歩みを止めて「サンディ、その服はどうしたの?」と話しかけたのです。
「バレちゃったか、着替えの服がなくなってきたので、マーサさんから借りたの」
「あんがい似合うでしょ」そう言ってくるりと一回転します。仕事着なので動きやすいのです。
元々アンナも競技会だけの予定だったので、荷物も多くできないので着る物も限られていたからです。それでも大聖堂の儀式用の衣装を借りることで、乗り切っては来ましたが、もうちょっと永くいなければならなくなったので、そういう所が困ってきているのです。
「そうね、動きやすいけどそれじゃメイドの人と見分けが付かないんじゃ無い?」
「実は、このかっこでマーサさんと市場をみてきたの」
その返答に、アンナの顔色が変わりました。
「あ!!!ずるい。わたしも行ってみたかったのに」
ちょっとふくれっ面のアンナです。
やはり、アンナもそろそろ休養が必要みたいです。
部屋で着替えて階下におりると、そこにはベルとノルがいました。
彼女達はもうメイド服から着替えてはいたのですが、机の上にいろいろなモノが置いてありマーサ夫人とお茶とお菓子を前に何か話していました。
アンナがそれを見ると、「そのモノはどうしたの?」訪ねますと
「市場の商店でいただいたの」と答えるのです。
「あ、いいな、私も行きたかったのに」と不満そうな顔をして言っているアンナをマーサ夫人は見逃しません。
すかさず、「アンナ様には申し訳ありませんでした。残られた3聖女の皆さんにこの時間を使ってちょっと、市場でも案内しようと思って出てみたのです」
それを聞いても一人のけ者にされたわけですから、アンナの顔は面白くない顔です。
マーサ夫人は、お茶とお菓子を勧めながら、さらに「アンナ様にもご案内をご用意しております」
そう話すのです。
アンナもそれを聞いて、すこし顔色がおさまってきました。
それと同じく着替えたトリーも下りてきましたので、マーサ夫人は、アンナに一瞥して、席を勧めます。一応今でもトリーは聖女にはなりましたが、アンナの従者の立場でもあるわけです。
トリーもそれを心得ており、まずはアンナの後ろに立ち、その許しを得てアンナの横に座ったのです。
トリーは従者としての立場を長年しているので、それが慎み深さにつながり、マーサ夫人もこの子って
これだけの地位を得ながら、変わらない姿はたいしたものねと想っています。
(アンナ様は良い方をそばに置かれているわ)そう思うのです。
(この子はそれが出来るものを持っているわ、そしていまからその地位をどう使って行くかが問われることになるでしょうね)ともう次の事に考えを巡らせているのです。
サンディも着替えて戻ってきたのでベルとノルと3人が、商会での話とそこでもらったお土産の説明などを得意そうにアンナに話しています。
「本当に、本当に、皆んなズルいんだから」とアンナはまたふくれて見せます。
でもその顔は、少し和らいでいて笑う顔になっています。
ベルはそこでルーツを見たから、手を振った事も話しました。
マーサ夫人はそれを聞いて(だから商会にバレたのね、ベルさんには気をつけないと、注意マークが付きました)さすがにマーサ夫人は顔色も変えず、平静な顔で話しています。
自分は残されたみたいで面白くないのですが、まあアンナも、マーサ夫人の話から次は自分にと考えてくれているので、その期待からケンカみたいな話にならずに話が続いてきます。
その顔色を見て、マーサ夫人は(アンナ様にはそれ以上のモノを用意しなきゃね)と考えています。
マーサ夫人から「明日もまた大聖堂へ行かれるのですか?」との問いに
「まだ掛かりそうです」というアンナの返事を聞くと、
「その帰りにご案内を手配しますので、早めに切り上げていただくようお願いします」と伝えたのです。
それを聞くと、アンナもやっと王城の繁華街を見物出来ることがわかり、機嫌が戻ってきました。
でも3聖女の時のようにメイドに化けるという手は効かなくなりますので、違う理由がいりそうです。




