商会
だんだんと人通りも増えてきて、屋台などもでており、おいしそうな匂いも漂ってきました。
そうすると声を掛ける人がいました。
「おい、そこに居るのはマーサじゃないか?」手を上げて呼び止める男の人がいました。
「あらあらクルトじゃない、景気はどう?」知り合いの様です。
「まあまあだね、それにしてもマーサはメラノ侯爵の館に引っ込んで居たときいたんだが、いつ出てきたんだ?」
「このちょっと前よ」
「わざわざ、王城へでてきたのは何か訳があるのか?」
「呼ばれたから出て気だけよ、今日は3人の新入りさんに説明しているところ」
「メラノ様のところには、大変なお客が来られているって聞いてるよ、みんな噂してる」
「だから、人手が居るので急遽呼ばれたのよ」
「でも大聖女様の葬儀で、聖女様達がすごい事を見せてもらえたって、町一番の話題だよ」
「魔物が出たとか、言う噂がでてるよ物騒だね、でもメラノ様の所の聖女様が追い払ったとか」
「あの光り輝く葬儀がすごかったって、そこに立つ7人の聖女様の力だともっぱらの噂だ」
ちょっと興奮したように一気にしゃべるクルトです。
しかし、マーサの後ろに居る3人がその聖女であることに全く気がついていません。
「まあそれにしてもだ、あの嵐のマーサがまた王城へ来たとなると、ただじゃ終わらないってことかい」クルトの話は止まりません。
クルトは、パン屋さんでチーズや肉やキノコなどのはいったブロードと呼ばれる小さなパンを路上で出店販売していたのです。
おいしそうな匂いのパンがあり、3聖女が欲しそうにじっと観てるので、マーサは三個と言ってクルトから買いもとめて、3人にわたしました。3人はうわーと言う顔をして受け取ります。
「これたべてみたかったの」
「おいしそうだし」
「王城にしか無いものね」
など、ちょっと立ち止まって3聖女は嬉しそうな顔でおいしいひとときです。
その後も、この屋台には次々と人が買い求めに来ています。おいしい店と評判なのでしょう。
クルトは別れ際にも、「また良かったら寄ってくれよ」と言葉をかけてくれます。
「ハイハイ」と返事を返したのですが、しばらく歩いているとまた呼び止める人が居ます。
いちいち話しをしてると時間ばかり取られるので、簡単な挨拶だけで、目的の一つである商会の方へ
歩いて行きました。
横で聞いていた、ノルは、
「マーサさんは嵐のマーサって言われていたんですね」と面白そうにきいてきました。
「むかしそんなことも言われたみたいですね」とは答えたのです。
マーサはこの町の出身で、まさにいろいろな事をやらかす嵐のマーサと呼ばれていたのです。
といっても、それは褒め言葉で、交渉から手配から嵐のようにやってくるうるさ型のマーサとして知られているのです。こういうことも、マーサ夫人の大きな財産の一つなのです。
さて、ちょっと大きな建物にある商店につきました。ここはメラノ家が懇意にしている商会のある建物なのです。
マーサ夫人はちょっと用事をしてきますから、このお店でまっていて下さい。と3聖女に言って
階上に上がっていきました。
色々な商品が並べてあり、多くの従業員がお客と対応するために働いています。
3聖女は、珍しい品物をみて楽しむウィンドショッピングです。
その最中にベルが、急に顔を上げて店の奥の方に手を振ったのです。
手を振った先には、あのルーツがいたのです。
手をふられたので、ルーツは頭を下げて会釈したのですが、(だれだっけ?)と思って、よくよくみてみると、(服装は違えど聖女のベルさんで、横の二人はサンディさんとノルさんじゃないか)(なんでメイドのかっこをしてるんだ)と思いましたが、これは大変だ商会のオーナーに報告しないと、ということで急に階段を駆け上がっていきました。
最上階はこの商会のオーナーの執務室なのです。
そのドアをバタンとあけると、恰幅の良い男性が座ってなにかを書いていました。
ルーツはそのそばに駆け寄ると
「マティおじさん大変です」
「ルーツなにがあったんだ。それよりここは商会だ、おじさんではなくオーナー呼ぶようにいっているだろう」ちょっと不機嫌そうに返事をしたのです。
「すみません。わすれてました。実は下に大変な人が来ています」
「さきほど、メラノ家のマーサ夫人がやってきたと報告があった。おまえはしらんだろうが、嵐のマーサといって昔からのしりあいだが、なにか問題なのか?」
「じつは3人のメイドを連れてきています」
「それがどうかしたのか、いまメラノ家は大変なお客が滞在しているので、人手が足りずにやってきたんだろう。その3人のメイドもその応援だろう」
「違いますっておじさん」
「オーナーと呼べ」
「ハイ、オーナー、その3人が問題なんですよ」
「なにが???」
「あの3人、前から言ってる聖女のベル様、サンディ様、ノル様の3人なんです。なぜかわからないけどメイドのかっこをしてるんで気がつかなかったんです」
興奮したようにルーツは話します。
「なに!!!ほんとに東の聖女様か、あの注目の噂の!!!」
「そうです間違いありません」
「でもなぜここに、そう言うならすぐにここにお通ししろ丁寧にだ、マーサさんも一緒に、お茶を用意しろ指示をだせ、第一級のお客だぞ」
ルーツはその指示を聞くと、急いで降りていきました。マーサ夫人を見つけると、
「オーナーのマティがお会いしたので、おいでいただきたいと申しております。来られた方もご一緒にどうぞとのことです」
マーサ夫人はルーツのその言葉を聞くと、ちょっと怪訝な顔つきになりました。
マーサ夫人とルーツはその時まで面識はなかったのです。
懇意にしてます商会のオーナー直々のお話ですから、メイド姿の3聖女をともなってオーナー室に入りました。
開口一番マティオーナーから、
「ひさしぶりだねマーサ、というより嵐のマーサと言うべきかな」
この人物もマーサ夫人の知り合いなのです。
「おひさしぶりです」と型どおりの挨拶を返したのですが
「まあまあこちらに」と来客用テーブルに、マティオーナーはマーサ達4人を導きます。
皆が座ると、執事らしい人物がお茶とお菓子を用意して皆にだしていきます。
座るオーナーの横にはルーツが立っており、だまってその手伝いをしています。
「マーサさん、また嵐のようにわたしを驚かせるのかね?」
マーサ夫人はすっとぼけて、
「なにか驚かせるような事がありましたか?いつも懇意にしていただいてますから、こちらにきましたので、ご挨拶をかねてお伺いしただけですけど?」
「またまた」マティの顔は苦笑いです。
「駆け引きはナシだ、この一緒におられる3人の方を紹介していただけないかな?」
マーサ夫人は、もうバレてる、誰がバラしたんだかとおもいました。
(ベルが手を振りました!!!!!ついつい知ってる顔をみつけたんで)
しかし、マティの顔つきからごまかすのはもう無理と思い話し始めます。
「もうご存じみたいですから、こちらがベル聖女、こちらがサンディ聖女、そして最後はノル聖女のお三方を紹介いたします」
その紹介に聖女達は順々に一礼したのです。
「それにしても、メラノ様に聖女様への招待状を差し上げましたが、まさか一番に来ていただけるとは光栄に思います」とオーナーのマティは礼を述べたのです。
だれがばらしたのやら、でもこれを収拾するのも仕事です。
「これは、招待の為に来たわけではありませんから、ご容赦ください」とあっさり頭をさげました。
「いやいや、それはわかっておりますよ なにか訳があるからこのようなメイドの姿でこられたわけでしょうから、しかし驚きました嵐のマーサの名前通りですな」そういう顔は上機嫌で笑っています。
「どういう形にせよ、一番においでいただけたわけですから、もちろん公言はいたしませんからご心配なく」
マーサ夫人も、「聖女様を王城のご案内することになったのですが、聖女服ではあまりにも目立ちすぎるので、このような姿をしていだきました」と説明したのです。
「まあごゆっくり、せっかく来ていただいたのですから、商会をご案内致しましょう。あの回復薬も新商品として準備をはじめていますからご覧下さい」
商会は色々なものを扱っていますので、試食などもかねて、色々なものを聖女達はみることができました。帰りには色々と珍しい物をお土産として、もらったのです。
最後に、聖女様いつでもおいで下さい。歓待いたしますからというオーナーの言葉を後に、大変な王城観光ツアーは終わったのでした。
(デントにはさすがになにか言われるわね)それだけがマーサ夫人が思ったことでした。
どうしたら言いくるめてごまかすかだけど、嵐のマーサはまた色々と考えてるようです。