葬儀の後
棺を守るアンナ達が次の聖女達に交代した後も、あの大聖女様の杖は、大聖女様を表すものとして棺の台上に皆に見えるように掲げられました。
式はこの後もづづき、最後に棺の蓋はしめられ、鉛の板で封印され、王家の墓所に安置されたのです。
葬儀が終わった後、大聖女様の死を悼み、一月を喪に服する期間とされました。
この喪に服する期間、大聖堂にはこの杖がそのまま掲げられていたのです。
葬儀が終わった後のメラノ邸です。
さっそくというか、葬儀から帰ってきたノルト伯爵は、机に積み上げられた招待状の山の前で座り込んで考え込んでいます。「こんどはこれか」
あの競技会での東の聖女達の活躍を見ての招待状の山です。
ノルト伯爵が東地区からわざわざ出てきたの理由の一つが、3聖女への招待状をどうするかだったのです。
しかし、まさか出発するときは、まあ儀礼的なものだろうという頭しかなかったのですが、王城に来てその実態を見ると大変なことになっており、東の聖女を取り込む為のものであるとわかったからです。
娘のアンナは今後どうなるのか、3位実質1位、3聖女は前回優勝クラス、そしてなんとトリーまでもが聖女それも、大聖女様直々の最後の聖女という大変な箔がついてしまい。たった半月で聖女、また広くはしられていませんが、一位のベアトリス聖女をベルとトリーが指導したなんてのは、もう大変を通り越している状態で、おそらくアルク大公周辺には知られているでしょう。
アンナ達は、まだ結婚適齢期には、まだしばらく余裕がありますが、トリーは将にドンピシャの年齢東を出るときは、ノルト伯爵は、トリーが見習い聖女になったのでいい箔がついたから、いい嫁ぎ先を見つけてやらないとなくらいなノンキというか軽い気持ちしか持っていなかったからです。
そこにはマーサ夫人もその招待状のまえで立って控えています。大変そうねという顔をしながらですが
その目には光があり頭脳がフル回転していることに、伯爵は気がつきません。
そこにデント執事とメラノ侯爵が部屋に入ってきました。
その4人がそろったところで、さっそくその話しとなりました。
メラノ侯爵から、「ようやく葬儀も終わったことだから、この件について話し会いましょう」
そのような言葉から、はじまりました。
ノルト伯爵に、まずマーサ夫人を紹介します。
「ここにおりますのは、マーサと申しまして、デント執事と夫婦で私を支えてくれてきた信頼できる人物なので気兼ねなく相談していただければと思います」
「わざわざマーサに来てもらったのは、今後聖女様の女性問題となりますので、やはり男では気がつかない点も多々あるでしょうからとおもいまして」
そのようにマーサ夫人を紹介すると、夫人はノルト伯爵に一礼しました。
ノルト伯爵は、「度重なるお気づかいありがとうございます。しかし、これほどまでの事になっているとは、どのようにすればよいのか」
もうどこから手をつけて良いか、全くわからないのです。
まずデント執事より
「この件については、葬儀の喪に服する期間が一月ありますから、時間的な余裕があります」
「しかしそれを過ぎれば、これを放置することはできないでしょう」
「しかし聖女の皆さんの様子はどうですか?マーサ」
マーサ夫人に話がふられたのです。
まってましたという感じで、マーサ夫人は状況を話し始めました。
「聖女様がアルク大公邸、宰相邸を訪問されたとき、付け焼き刃でありましたが、簡単な作法のレクチャーを致しました。担当からその状況を聞きますとなんとかボロも出なかったようですが、まだまだお教えしなければならないことが多いだろうと思いますわ」
聖女達はこれからまたあの特訓にさらされる事になりそうです。
「それからご招待に応じるとなりますと、これはもう儀礼的なものになりませんので、いまおもちの
聖女服だけでは問題だと思います」
「アルク大公邸、メーセン宰相邸の訪問では聖女服で乗り切れましたが、それなりのドレスが必要ではありませんか?」
「いちおう聖女様の簡単な採寸はしていますが、この期間にそれなりの事をしなければならないと
思います」
さすがマーサ夫人です。その着眼点は間違い無いところです。
聞いている男達は、うなずいています。
「そして最もこれから大切な事は、聖女様がこれらをどのように考えているか、まずよくよく話あう必要があります。それがうまく事を運ぶ最も重要なことですわ」
メラノ侯爵は「それについては、男では聞けないだろうからやはりマーサが適任だとおもうので、女性同士で内々に話してほしい。たのむ、それでよろしいですな、ノルト伯爵」
ノルト伯爵も、あの年頃は難しい、こうなってしまっては、説得する自信がありません。「マーサ夫人の協力をおねがいしたい」ともう逃げ腰です。
こういうことで、マーサ夫人を中心として、招待状をどうするかの難しい対応が始まりました。
男達はもうマーサ夫人に丸投げです。
男達の思惑は、聖女達をつかって、有力者達にどのように影響力を広げるかという、政治的なほうに頭が言っているのです。聖女をは、富と幸運と安全と健康をもたらすモノと信じられているからです。
そういう話で一応は終わったのです。
メラノ邸では3聖女が、久しぶりにのんびり羽を伸ばせる時間が出来たので、たのしいおしゃべりです。
アンナはどうしているのかというと、朝から大聖堂の方から呼び出しが来ており、トリーやクロノ司祭とケルンの護衛をつけてノルト伯爵と出て行ったからです。
鬼教官もいなくなりましたから、なおさらリラックスして、一室でのおしゃべり会となったのです。
そこにマーサ夫人がメイドとやってきました。
メイドはお茶とお菓子を運ぶティートローリー(ワゴン)を押しています。
マーサ夫人はそしてそのおしゃべり会に参加したのです。
聖女達はおいしいモノには目がありません。そこで4人での会話が始まりました。
マーサ夫人は、ニコニコして3聖女にお茶とお菓子を回しながら、皆の聞き役にまわっていたのです。
「たいへんなことばかりで、ビックリの連続だったけど、今日はゆっくり出来るわ」
「そうそう、今日は休養日、休養日!」
「おいしいお菓子も出ましたし」
なんて事から話が始まりました
マーサ夫人はやさしそうにニコニコと大変でしたねと相づちを打つくらいです。
3聖女もマーサ夫人は、おっかなくない人にみえたのでしょうから、何も心配なく無く話しているのです。
しかしマーサ夫人は、聞き役にまわりながら、しっかりと聖女達が観察されていることに3聖女はきがつきません。
とりとめの無い話しがつづきながらも、肝心の招待状について話しになってきました。
マーサ夫人から「大変な招待状が来ていますね」
「そうそう、ほんと大公様と宰相様、そして大聖女様まで、どうなることかと思ってました」
「でも立派に対応されたみたいですね、あれだけの方々に普通は会える事すらできないのですから」
「ホントに緊張でコチコチだったわ」
「ひっくり返りそうで、もう緊張の連続だったわ」
「そうそう、でも話すことはアンナが説明してくれたから、ホントたすかったーーー」
「でも、失敗も無く立派にこなされたじゃないですかと」マーサ夫人は3聖女達を褒めるのです。
そして
「わたしもむかしでしたか、はじめての時にすそを踏んでしまって転んだ事がありました」
アラ大変という顔の3聖女は、マーサを向きます。
「ちょうど支えてくれた人がいたので、皆の前でバッタンとという事態にはならなかったです」
「だれがささえてくれたの?」
「じつはそれが、夫のデントとのきっかけになったんです」
「わーーー、いいなそのはなし、聞かせて」
こういう話しにはお年頃の3聖女はすぐ食いついてきました。
「その時は、歩き方など教えてはもらってなかったですから、皆さんは色々おしえてもらっていたみたいだから、立派に対応できたんです。たいしたものですね」
またも褒めてもらいました。このようにだんだんと3聖女はマーサ夫人に取り込まれていきます。
「でもあの招待状、いっぱい来てるけど、どうしたら良いの?マーサさん?」
3聖女達もやはりこれが気になっているのです。
「あの招待状ですが、気になさらないことです」
その次の言葉に3聖女はビックリでした。
「振っちゃえば良いんですよ」
「でも、それってなにか言いにくいわ」
そのちょっと困った顔を見て、マーサ夫人はすかさず
「だ、か、ら、私たちがあるんですよ」
「難しい事をひとりでいて抱え込んでしまうと、悪いようにしかなりませんから」
「これをうまく断って持って行くには、色々な方法がありますから、お任せ下さいな」
3聖女達は、それを聞いてちょっと安心した表情をみせるのです。
マーサ夫人は、それを見逃しません。
「もし聖女様が大家に嫁がれても、そのお力はとても必要になります。あまり知られてはおりませんが」「すばらしい能力をお持ちときいておりますので、大丈夫ですよ」
「なにか、マーサさんはみんな知っている人みたいですね」
その言葉に対してマーサが次に答えた言葉に、驚くことになります。
「わたしも聖女だったからですよ」
「えーーーーーーー」またもびっくりの3聖女
「聖女と言っても見習いでした、短い期間でしたけど」
「それでなぜ?やめたの?」
「働かなければならなかったし、もっと面白い事もおおかったので」
「でもやめた後も聖女様が持つ、こころを観る方法はとても役にたちましたよ」
「3聖女様は、そのお力をおもちでしょう?」
「いいえ?そんなこと出来るんですか?」
3聖女は短期間で駆け上ったので、まだその力に気がついていないのです。
「でも使用人達からききましたよ、体が悪いところを治してもらった話を」
あのトリーの聖女試験の予行演習の事です。(ep41試験会場参照)
それは観る力なのです。悪い箇所がわかるから、治療できるのです。
人の寿命までも観ることが出来ると信じられています。
その力を人の心を観ると言う方向に変えるだけなのです。
時を観れば予言となり、天を観れば、天候を観ることとなり、地をみれば、作物の豊凶がわかることとなります。
聖女とはそう言うものであると、人々に信じられているのです。