葬儀
葬儀がはじまる前のメラノ邸です。
式に参列するメラノ侯爵は、正装して参列することになっています。
そのための準備に朝から邸内は慌ただしい人の動きがあります。
正式の服装に執事のデントの介助で着替えながら、メラノ侯爵は話し始めます。
貴族の公式な服装というのは、飾りとか決まり事が多く、今の時代なら仰々しく感じるものです。
しかし、それが権威を示す服装なので、おろそかにはできません。
また、当然ですが一人で簡単に着れるような物ではありません。
王家につながる大聖女様の葬儀ともなれば、その格式は大変高いものなのです。
「デント、昨日あのようなことがあったんだが、参列する多くの貴族達はしらないだろうな」
「メラノ様、その件は内密にという事で、ともかく葬儀を無事に終わらせたい大司教からクロノ司祭を通じて指示がでています」
「それはわかっているが、あの聖女様達はどうしてるんだ」
「聖女様は参列のために、大聖堂の別室に招集されています。あの棺を守る聖女の役割を交代でする様です」
「また何か起こらなければ良いが」メラノ侯爵の心配は止まりません。
「さすがにもう大丈夫でしょう、騎士団も大聖堂の護衛と整理にでていますし」
いろいろな衣装の小物を持ち出しなら、デント執事はそう答えます。
「昨夜の事があったので、夜も騎士団の護衛が強化されるとクロノ司祭が言っていました」
「聖女の弓の力で追い払える事がわかっているので、やはりその力を持つ担当の騎士が当てられる事になっています」
「昨晩のように騎士団に入ったケルンも当分引っ張り出されるわけか」
「そういう指示が出ているようです。ケルンにも連絡がきましたから」
「また弓の聖女様の名が上がる事になるわけだな」
「ふーーーむ」とメラノ侯爵が考えていると
デント執事から
「ところでメラノ様にお願いがあるのですが」
「お願いというと?」
「アンナ様のお父様も滞在することになりましたし、どんどん仕事がふえていますので、領地の館を管理しているマーサを呼ぶように手配しました」
「はーーーあ、マーサが来るのか」
「そうです。いけなかったですか?」
「これから長い話しになりそうだしな、これから女性の対応が増えるだろうから適任だろう。しかしマーサか、あれが来るとな、また小言を聞かされる事になるな。マーサには小さい頃から育ててもらった様なモノだから、頭が上がらないし、昔から言うことは正しいし、反論も出来ない」
そんな話をしていたころ、「馬車が到着しました」という伝令に続けて「マーサ様がメイド達を引き連れてこられました」
メラノ侯爵は、もう来たのかという顔をしています。
廊下を歩く多数の足音が聞こえてきて、執務室の扉がノックされ、「入ります」という聞き慣れた声が
メラノ侯爵に聞こえたのです。
そういって入ってきたのが、ちょっとふくよかな顔の中年の女性です。
メラノ侯爵に会うとカーテシーの礼して、「お呼びにより皆を引き連れて参りました」とにこやかな顔で会釈するのです。
メラノ侯爵は、(あの顔はだ、今からバリバリと色々とやりますわよといういつもの顔だ。デント執事の連れ合いとはいえだ、領地の実務や女子の使用人を束ねる裏方のボス、黒幕にして、策士、いつもにこやかな顔をして、首を絞めてくる。まったくうるさいのを呼んだもんだ。しかしその手腕は間違い無い、メラノ家はこのデントとマーサの二人が居ないと廻らない様になってる。しかしまったくだ、王城へ出たから少しマーサの監視から外れて羽が伸ばせるかと思っていたんだが………)
メラノ侯爵は、マーサの顔を見てそう思うのです。
メラノ侯爵も東の聖女を後援する理由の一つが、競技会で王城に行くことで、うるさいマーサから羽が伸ばせるかなと思っていた所もあったのですが、競技会でちょっと恩を売っておこうかと言うくらいの予定が、起こること起こることが想定外の連続だったわけです。
その複雑そうな顔をみて、「何か難しそうな顔をされて、何かお困りのことでも?」と心配するような顔をしながら、全てを見通したような目で、のぞき込むようにマーサはそう話しかけるのです。
「いや、何でも無い大変な事態になったから、詳しいことはデントに聞いてもらいたい。よろしく頼む」と顔色を読まれないように、後ろを向いて葬儀に出かける準備を続けたのです。
それを見て、「大体のことは、デントより聞いております。お召し物については、よく知っておりますので、準備に取りかからせていただきます。よろしいですわね、あなた」
横に居る今まで着替えを手伝っていたデント執事を向いてそう話すのです。
「ああ、頼むよ」とそう言って、次の部屋に逃げるかのようにデント執事は出て行きました。
マーサが連れてきたメイド達の荷物や部屋の用意の指示を出す必要があるからです。
あのデント執事も、このマーサ夫人には頭が上がらないのです。
服装について早速マーサ夫人から、「これたりませんわ」「もうすこし、下ろして」「髪ももう少し
手を入れない」など細々した指示が出てきます。
メラノ侯爵はそれを聞きながら、「もうそのくらいは、自分でできるから大丈夫だマーサ」と言ったが最後「いえいえ、坊ちゃまの身だしなみは、侯爵家としては不十分です。公式な場に出るのですから」
とさっそくお小言が出てきました。
「もうマーサ、わかっているから、子ども扱いしないでくれよ」なんて言うと
マーサ夫人のトドメの一言
「はやく奥様をもらっていただくように、お願いいたします。これは奥様の仕事なのですから、そうすれば、わたくしも安心して引退できます」
もうそう言われると、メラノ侯爵はもう何も言えないのです。
あちこち浮名を流さず、速く身を固めていただきたいとの親心からの言葉なので、メラノ侯爵も黙って従うだけです。
それでもこれ以上なんか言うと、今はなきご両親から、坊ちゃまをなんとか守って欲しいと遺言された話しを延々と聞かされる羽目になります。
メラノ侯爵は小さい頃に、母親を亡くし、マーサの手で育てられた恩があり、また父である先代のメラノ侯爵もその後を追うように亡くなっているので、侯爵家の継承者になるためデント執事がどれだけ裏で動いてくれていたか、二人の恩は痛いほどわかっているのです。
こういうやりとりの中で、大聖堂へ向かう出発の準備が整い、玄関に待つ馬車に、アンナの父のノルト伯爵とメラノ侯爵、デント執事の3人が乗り込みます。
それを、あのマーサ夫人がメイド達を引き連れて見送りです。
「いってらっしゃいませ」そう言う顔は、生き生きと輝いていました。
出発時それを見た侯爵は、デント執事を見ながら(ありゃやる気満々だ、これからどうなることか)と思ったようです。デント執事もあきらめ顔でした。
葬儀は、王家の近親者、そして多くの貴族の参列から始まりました。
式場には、マルゴットの棺の周りには、聖女達が棺を守るかのように儀仗用の長い杖を携えて、その四方に静かに立っています。
ゲルト大司教が、葬儀の始まりを告げます。
その葬儀において、教会の大聖女としてのマルゴットの、人となり、業績などの弔辞が、参列する王家、貴族、有力な市民や教会関係者達に向かって話されています。
葬儀の会場である大聖堂の周りには、マルゴットとの最後の別れをするための、多くの庶民の人達が
会場を取り巻いているのです。
大聖堂との弔問する人々を整理するために、王国騎士団員が警備と整理のため、あちこちに立っています。
大聖堂の扉は大きく広げられていますが、参列者があまりにも多いため、中に入ることは、限られた人だけとなっています。
式が終わった後は、遠くからではありますが、その姿をみられるように、一般参列の弔問の場が用意される予定となっているのです。
大聖堂のなかより響き渡るゲルト大司教の声が、外にも聞こえています。ゲルト大司教の追悼の言葉が終わると、王を最初に王族の献花が行われました。続いて貴族や有力な市民代表者、協会関係者などの献花がそれに続きます。
人々の中に大聖女様が亡くなられた、これからどうなるのだろうかと言う思いや、新しい時代がはじまるのかという、次を狙う者たちの思い、純粋に大聖女様を慕う人達の思いなど、良きにつけ悪しきに付け様々な思いがこの葬儀には、渦巻いているのです。
儀仗の杖を持ち次に棺を守る聖女の役を予定されている3聖女達には、交代の場所で葬儀に参加している人達を見たとき、参列する人々の心が手に取るようにわかるのです。




