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アンナの旅  作者: mega
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葬儀の朝

昨晩の大聖堂の事件が嘘のように、夜が明けおだやかないつもの朝が始まりました。

大聖堂に残っていたケルンは、夜が明けその太陽の光をようやく見ることが出来たわけです。

緊張の一夜でしたが、なんとかその夜を無事に越えられたことに、安堵しました。

「これでもう大丈夫だろう、代わりの人達もやってきたからな」

ほっとすると同時に眠気も出てきました。

大聖堂の要員も交代を始めたので、一言「これで帰るから」といって弓を携えてメラノ邸に徒歩で戻ってきたのです。

彼は一晩中、大聖堂の周り歩き警戒をゆるめず、そして時折、前のようにケルンが空撃ちするビーンという弦の音が、大聖堂の人達には聞こえたのです。

帰り道には、ポツポツと人が出始めており、すれ違う人は弓を持つケルンの姿に何があったのだろうかという顔で通り過ぎていきます。

メラノ邸に帰り着いた時、そこにはケルンの為の簡単な朝食が用意されていました。

待っていたのは、クロノ司祭です。

「警備ご苦労さまです。寝ずの番をしてもらったわけですから、本当に助かりました」

そのねぎらいの言葉を聞いて

「まさか、またあのようなモノが現れるとはね、でも役に立てて良かったよ」

疲れた顔でしたがケルンが用意された朝食に手をつけ始めると、そこにデント執事がやってきました。

そしてケルンとクロノ司祭に

「アンナ様達は、まだ寝ておられる様です。まあ昨晩あれだけの事をされたわけですから、疲れておられるでしょう」「わたしも正直あまり寝られなかったです」そういうデント執事ですが、クロノ司祭も


「わたしも同じです。この件は葬儀を預かるゲルト大司教に、この後報告に行くつもりです。倒れながらも棺を守ったリサ聖女ももう起きれるでしょう」


その話を聞きながら、ケルンは

「しかし、昨晩トリーから弓とあの矢を持ってこいと呼び出されて、大聖堂に走ったのは、何があったのかと思ったよ。まさか、同じ事が起きるとは、でもあの後は警戒が効いたみたいだ。前の時と同じ様に、嫌な感じが出たときは弓を鳴らしたよ。それにしてもあれは何なんだ?」

その問いにクロノ司祭は、


「わからない、おそらくゲルト大司教から、なにか指示が出るだろうと思う。アンナ様はあの時、(間違えたと)言われたんだ。でももし気がつかなかったら大変な事がおこったかもしれないと思うよ。どうも大聖堂のみんな眠らせられたようだったからなおさらだ」


「さすがに弓の聖女様ですな……アンナ様は相当疲れておられる様だから、起こさないようにしたいと思っています」

「ケルンさんも寝ずの番だったんだから、休んでください」そういうのはデント執事です。


「じゃあ、これで少し休むよ」と食べ終わったケルンはあくびしながら部屋に向かいました。

「ではゲルト大司教のところに今から行ってきます」そう言ってクロノ司祭は、ケルンと入れ替わるようにして、大聖堂へ向かったのです。


大聖堂にはゲルト大司教がやってきており、大聖堂の留守居役から簡単な報告をうけていました。

そこにクロノ司祭が着き、その報告に加わったのです。

報告は大聖堂に付属するゲルト大司教の執務室で行われました。


留守居役から異変の報告を聞いて、「昨晩なにがおこったんだ?」ゲルト大司教の疑問から始まったのです。そこには、仮眠を取ったリサ聖女も起きてきて報告に加わりました。しかし、その顔は憔悴しきっていました。

なにか禍々しいものがやってきていたこと、リサ聖女以外は皆眠らされた状態で、リサ聖女ひとりで暗闇の中、棺を守った事、異変を感じたアンナ聖女の指示で大聖堂に駆けつけ、ケルンと共に弓でそのものを追い払った事、朝までケルンが寝ずの番で警戒したことなどをクロノ司祭は報告したのです。


そう言うと、リサ聖女の方をみて、「大丈夫ですか」と心配する言葉をかけたのです。

「大丈夫です」とリサ聖女は答えたのですが、その声は弱々しい物でした。そしてさらに

「あのようなモノは今まで見たことも、あったこともありませんでした」

「なにかマルゴット様が亡くなられたことを確認しにきたように思えました」

「闇の中に含み笑いのような声が聞こえたようにも感じられました」

震えながらその事を吐き出すように、一気に話したのです。


ゲルト大司教は、しばらく考えていましたが、「マズイものが動き出したということだ。マルゴット様がおられるときは、その様なことは全く聞いたことがなかった」「大聖女様はそれらを抑えられてこられたのか」難しい顔で話すゲルト大司教です。


リサはマルゴット様の日々の暮らしを思い出すのです。

「マルゴット様は、朝早くからいつも祈られておられました。元気でおられたときは、高い場所に上られて祈る姿を何度も拝見致しました。伏せられて居たときでも、わざわざ起きられて祈られておられたのです」

「毎日欠かさず祈られておられてたので、「毎日何を祈られておられるのですか?」とお話したことが

ありました。大聖女様は優しいお顔で「聖女の本当の役割は、これが一番大切なんですよ。今はまだわからないでしょうけど」そういわれたのです。

執事であったリサ聖女は、今は亡きマルゴット様がなにを祈っていたのかわかったのです。


「祈る存在として聖女の役目を果たされておられたのか、一生をそれに捧げられていたんだ」

ゲルト大司教は、それを聞いて大聖女様とは何かとわかった面持ちで答えるのです。


「多くの者たちはマルゴット様の存在などわすれてきている。力を持った者たちは、特にそうなってきている。残念なことだ」「この異変については、王に一応報告をしておくので、これ以上は話さないでもらいたい」そういってゲルト大司教は、念を押した上で王の下へ報告にむかいました。


リサ聖女は、マルゴット様の遺言の事を思い出すのです。しかしその遺言は秘され、それを知るのは、王とリサ聖女であり、遺言の箱を提出した時、それを読んだ王より他言しないようにいわれていたのです。


魔物が動き出したのです。それは何あろう最も恐ろしい人の心の中に現れる物だからなのです。

そして、その日から大聖女マルゴットの葬儀が執り行われました。

葬儀はゲルト大司教の追悼の言葉から始ったのです。

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