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アンナの旅  作者: mega
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来迎

 翌日の朝です。マルゴット大聖女が、テラスで朝日を浴びながら座っていました。

そばに控える執事に顔を向けて

「今日はよい日ですね」とにこやかに話すのです。

それを聞いていた女性は、

「お加減はいかがですか、お元気になられたようで安心しております」

「そうみえますか? 聖女リサ」

「アンナ様がこちらに来られる様になられて、特にそう思います」

そう言いながら聖女リサは、マルゴットの手を取って脈を診ています。

「異常ありませんね」


その返答を聞いてマルゴットは、笑顔で

「まだまだですね。これがわかりませんか」

女執事でもあるリサ聖女は、聖女能力をもつマルゴットの専任医師でもあるのです。

それを聞いていたリサ聖女は、怪訝な顔つきでした。

その顔をマルゴットは再度見て

「これがわからないんですね」


そういって、にこやかな顔で

「リサ、あなたに伝えたいことがあります」

「いまあなたに困ったことや、苦しいことなどがありますか?」

執事リサには、マルゴットが何を言いたいのかわかりません。

そう戸惑うリサの前に、マルゴットは左の手の平を膝の上に置きました。

「お座りなさい」

戸惑いながら、マルゴットのそばによりそい座るリサ聖女です。


「わたしの手の上にあなたの手を置いて、そしてそこにあなたが困っていること苦しんでいることを

一つだけ置きなさい。何も言わなくて良いです」


そう言うマルゴットの言葉にリサは何かを言いたそうでしたが、無言で手を重ねました。

「置きましたね」

と言う言葉にリサは

「ハイ」と答えたのです。


マルゴットは

「確かに受け取りましたよ」そう言ってそれを持つかのようにして手を閉じ下ろすのです。


手を戻したリサ聖女は、しばらくそのまま座っていましたが、

「マルゴット様、いまなされたことはどういうことなのでしょうか?」


微笑みながらマルゴットはこう言いました。

「どんな人でもその最後に、一人に一つだけ良いことができると聞いたことがあります」

「その置いてくれた苦しみを、わたしは持っていきましょう」

その言葉にリサの顔が変わります。


「これがあなたに教える最後の事になると思います。私のために働いてきてくれたこの家の人にも伝えてください。世話になってきたみんなに聖女として最後に渡すことができますから」

そのにこやかなではあるが、毅然としたその声に、リサはただ従うことしか出来ませんでした。


今日の夜に初めて聖女の舞を披露する為に、7人の聖女がマルゴット離宮に集まることとなっています。

アルク大公のベアトリス聖女、メーセン宰相のキラ聖女、そして東地区の聖女はアンナを筆頭として、ベル、ノル、サンディの3聖女と、この前正式な聖女になったばかりのトリーの5人です。


東地区の後援者であるメラノ侯爵の邸宅では、朝からその準備に大忙しです。

「デント、ホントに急な話で用意が大変だな」とメラノ侯爵は、朝から落ち着きがありません。

「メラノ様、急遽聖女達を離宮に集めるようにと伝達がありましたから」

「アンナ様によると、マルゴット様からの指示でそうするようにという事で準備してます」

「何をするんだろうかな?7人も集めてだが?」

「わたしもわかりませんが、国王様も呼ばれたとの事らしいです」

「随行は少数でという事で、前の様に執事のわたしと、クロノ司祭で二台の馬車で行くように

準備してます」

「何があるのかね、何か起こらなければ良いが」

メラノ侯爵は心配顔です。

「メラノ様は競技会以来、心配性になられましたね」

苦笑しながらデント執事はそう返事はしたのですが、続けて心配顔のメラノ侯爵は

「そりゃそうだろう、あれだけの物を見せられたら、この一月夢みたいな事ばかりだ。そう思うだろ」

「そうは思いますが、やれることはしっかりやっていくのがわたしの務めですから」

そう答えるのは、いつも冷静なデント執事です。


「やっぱりデントには、かなわないな、その通りだ。ついてはいけないが、付き添いよろしく頼む」

そのようなはなしの後で、二台の馬車に5人の聖女とデント執事とメラノ司祭を乗せた

二台の馬車が、メラノ邸を出発してマルゴット離宮に向かいます。

アンナとトリーは前も来ていますが、3聖女は初めてであり、到着すればマルゴット様との

面会が予定されています。


ただ3聖女(ベル、ノル、サンディ)と同席のデント執事の目に、彼女達の強い緊張が感じられたのですが、3人ともずっと黙りこくっています。それ以上に3人のまわりになにも寄せ付けない様な静かさを感じるのです。

その様子から、同乗のデント執事も声を掛けられるような雰囲気ではありませんでした。

結局到着まで二台の馬車の中では、全く会話がありません。


離宮に到着して、5人の聖女達が手で支えながら馬車より降りていき、待合の部屋に通されました。

それと相前後して、ベアトリス聖女キラ聖女も少数のお付きの人を伴い到着し、別室の待合の部屋に通されました。


 離宮の執事であるリサ聖女が全員の到着を見計らって、待合の部屋にやってきます。

「早くからご到着いただきありがとうございます」と執事として礼を述べました。

つづけて

「まずマルゴット様から、前回来られた3人の聖女様、ベアトリス様、キラ様、アンナ様とマルゴット様がお会いになります。その後、ベル様、ノル様、サンディ様、トリー様の4人をお呼びする予定となっておりますのでしばらくお待ちください」


そう言うとリサ執事は、まずアンナ聖女を伴い二階のマルゴット様の部屋に導きます。

ドアの前で「アンナ様をお連れしました」と言ってアンナを部屋に通します。

マルゴットはいつものようにベッドに半身を起こした姿で待っております。

続けてリサ執事はキラ聖女を同じように、マルゴットの部屋に導き、最後にベアトリス聖女を

部屋に通しました。

3人がマルゴットの前にそろうと、執事のリサは、一礼して部屋の扉を閉じて出て行きます。

リサ聖女にはわからないのですが、そこにいるのは、光輪を持つ4人の聖女です。


3人を目の前にして、マルゴットから席をすすめられます。

3人がベッドのそばの椅子に座ると、マルゴットは前回の時と異なり、柔やかでかつ満足した表情で話し始めるのです。


「ご苦労様です。来ていただいて特に、ベアトリス聖女、キラ聖女かわりましたね」

その言葉を聞いたとき、ベアトリス、キラの顔が輝きます。

「わかりますよね。これがどれほどのものであったか、わたしはとても喜んでいます」

マルゴットが、そう言うと

「ハイわかります。わたしのまわりに光輪があることが」ベアトリスは、上気した顔で答えます。

マルゴットがキラに向き合うと、キラも

「その光輪がこんなに力強い物なんですね」


その答えに頷きながら、「見えているようですね。前会ったときは何もありませんでしたからね。アンナ聖女ありがとうこれを待っていました」

大聖女マルゴットは、喜びの表情でそう答えるのです。


ベアトリスの光輪は月の光が燃え立つような冷涼な瑠璃色の光輪

キラの光輪は、赤い炎が燃え立つような全てを焼き尽くすかのように力強い光輪

この二人を象徴するかのような様相なのです。どちらの色もとても力強いそして美しい


アンナの光輪は、白いというか何も無い透明なただ光としかいえない神聖な光の塔なのです。

それはマルゴットの持つ光輪と同質なものです。


「皆さんに伝えておきたいのです。これはあなた達本来の姿であり、本来は一つのものです。それはあなた達に長い生命と、健康をもたらすでしょう。それ以上の物ですから大切に、そしてみんなのために使ってください」

そう言うとマルゴットはベッドのそばのベルを鳴らしました。

その音を聞くと、扉の向こうから「およびでしょうか?」という執事リサの声が聞こえ

ノックをして扉を開けて部屋に入って来ました。


マルゴットは、「では次の4人をわたしの前に来てもらってください」

そう言うと、リサ執事は一礼してドアを開けて階下で待つ東の4人の聖女の元に下りて来ました。

「マルゴット様がお会いになりますので、4人の聖女様はわたしの後からおいでください」

そう言うと、やはり前回来た経験からトリーが一番に立ち、それに習うかのように3聖女がそれに続きます。

神妙な面持ちで4人の聖女はマルゴットの部屋の扉の前に立ち、扉を開けてその部屋の中に導かれます。


椅子が移動されおり、新たに4人の椅子がマルゴットの前に並べられています。

四人が寝台の前に立ちそろうと、マルゴットは本当に満足した笑顔でなんども頷きながら、

「さあお座りなさい」と椅子を勧めます。

座った4人の目線がマルゴットとおなじ高さにそろうと、まず見知ったトリーの方を向き、

「あなたは前回も来てくれたトリー聖女ですね」

一番に声をかけられた事、覚えてもらったという喜びで

「ハ、ハイ、トリーです。お会いできた後、聖女になることが出来ました。ありがとうございます」

すこし興奮したような口調です。


「次の方々は初めてですね、アンナ紹介してください」

そう言われ、アンナはまず3聖女のベルを紹介します。

ベルは、もうドキドキした顔で、一礼して

「東のベルと申します」

初めてなので、大聖女の前ではもうそれ以上の言葉はつづきません。

次はサンディの番ですが、「サンディと申します。よろしくお願いします。」

ベルと同じ様なものです。

最後に聖女ノルが紹介され

ノルはやはり3番目なので「東のノルと申します。大聖女様にお目にかかれた事光栄に思います」

すこし慣れたのか、言葉がつづけられました。


それを聞きながら微笑むマルゴットは

「よく来てくれましたね、あなた方もこれがわかりますね なぜ来てもらったかが」

トリーと3聖女は「ハイわかります」と口々にそう答えるのです。


それを満足そうに聞きながら、マルゴットは

「喜ばしいことです。これから新たな時が始まると思います。皆に会うことができて今日は本当に良い日です。ありがとう」

その言葉で、大きな区切りを迎えた喜びの表情を持って、この会見は終わったのです。


昨日より、明日の夜に聖女達が披露することがあるので、この離宮においで下さるようにと大聖女マルゴットより、異例の連絡が伝えられていました。

伝えられそしてその夜に集まったのは、大司教と王と王妃が離宮に呼ばれたのです。


月が掛かる暖かいその夜、かがり火が焚かれた庭の小さな広場を前にして

マルゴット大聖女座ります。その左手には、大司教が座り、右手には王と王妃が座っています。

マルゴットの後ろには、執事であるリサ聖女が立っています。


そして、その庭の広場の中にアンナを中心として右手にはベアトリスとベルとトリーが左手にはキラとノルとサンディが聖女の姿で立っています。

そして、アンナは全員がそろった中で、話し始めます。


「これより、マルゴット様に私たちの聖女の舞を披露致しますのでご覧下さい」

「これはマルゴット様が、聖女と全ての人々の為に用意された物です。ようやく披露する時が来たとおっしゃっておられます」


そう言い終わると、まずアンナと東の4聖女が庭の中心に集まります。

そして、静かに舞が始まります。


 アンナを中心として、そのりんと立ったアンナの周りを4人の聖女がゆっくりと回転を始めます。

右に旋回し、一回りすると今度は逆に左に回っていきます。

そしてそれを何回か繰り返すと、アンナを中心にして、4方の位置に取り囲むかのように北の位置にトリーが、東の位置にベルが、南の位置にノルが、西の位置にサンディが立ち止まります。

それを待っていた様に左右から、ベアトリス、キラがアンナの左右に集まりました。

集まった3人は、その周りの4人の聖女が見守る中を、先ほどの舞と同じ様に、見つめ合い微笑みながら3人で右に旋回しそして左に回転を始めるのです。

その聖女達の動く姿と共に、その腕にはめられた鎖の擦れ合う静かな音と、かがり火に照らされてキラキラ光る姿は、あたかも不思議な様子を見せるのです。


それと共に、見えない光の塔がこの7人の聖女達によって、その広場に静かに立ち上がっていきます。


それと同じくしてその光の塔の上方より、大きな光が静かにゆっくりと舞い降りてくることが、観ている人にはわかるのです。

 リサ聖女にも、聖女である王妃にも、大司教にも、王にも、なにか大きなもの、静かでもあり、聖なるものが、圧倒的な力をもって静かに降り注ぎ始めるのです。


そこには誰かがいます。マルゴットを呼ぶ声が、大聖女には聞こえるのです。

「マール………」


それを待つかのように、3人の聖女、アンナとベアトリス、キラがマルゴットの座る場所にそれと共にやってきます。

マルゴットにはその声は懐かしく、忘れ得ぬあの人の声、そしてその声に応えるのです。

「あなた………」

マルゴットの光輪はそのものにかき抱かれます。


アンナ達3聖女はその一体となった光と共にその中心に戻ります。

そして、そのものはゆっくりと上方に戻っていき、そしてその光は夜空に吸い込まれるかのように消えていきました。


しばらく7人の聖女はその行く先を見ていましたが、その舞を終え、左右にわかれていきます。

その光景を見ていた人達は、動くことも出来ずただぼうぜんと見守るだけでした。


 かがり火が消えようとする頃一番始めにその異変に気がついたのは、あの執事のリサ聖女です。

マルゴットを見ると、息をしていないことに、急いで手を取ると、脈はありません。その手は段々と冷たくなっていきます。

そして大声で、

「マルゴット様が!!!」

それに起こされたかのように、王と王妃と大司教がマルゴットの周りに集まってきます。

「亡くなられています」そのリサの言葉に大司教もその手を取ると、脈もなく冷たくなっていることに気がつくのです。

王も王妃も驚き唖然とするばかりです。


ただマルゴットのその顔は、何事かを成し遂げたかのように、穏やかで微笑むかのような顔をされておりました。


舞を終えた7人の聖女は、そのマルゴットを取り囲む一団の周りを守るかのようにたたずんでいました。

(完)

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