ケルン
こうして第三目の朝です。
朝起きてアンナとトリーが馬車のところにいくと、ケルンと護衛の人たちが宿のそばの原っぱで剣の訓練をしていました。
昨晩、ケルンと護衛の人たちは宿に泊まったのです。
朝食は宿で用意をしてもらえるので少し時間があります。
「先程聞いたがトリーがセイントだって聞いて驚いたよ」とトリーの所にケルンは近づいて話し始めました。
「お嬢様がそういうので調べたら、可能性があるというレベルよ」
とトリーは謙遜して言います。
「まあこれからはセイント様といわないとな」とケルンは軽口を叩いています。
「何も変わりませんよ。トリーと呼んでください。私は皆さんの世話係ですからそれは変わりません」
「まあよろしく頼む セイントトリー」とからかいます
さてケルン達護衛係が剣の訓練を続けていると宿の方からアンナがやって来ます。
「ケルンは王城で士官して騎士になりたいのね」とアンナはトリーにたずねました。
ケルンはこの護衛任務で王城に行けば、もしかすると士官の口があるからとの思いがあった事が
同行に加わった理由の一つです。
王城には東地区連合の拠点があり、そのつてで士官の可能性があるからです。
またそこから騎士団へスカウトされた人も出ています。
(でもこのままでは士官は難しいわね 今後この人も必要になるから)
アンナはそう思っています。
「トリー、昨日あなたに話したことをするようにケルンに伝えてちょうだい」と命じます。
「はい わかりました。でもアンナ様、あの話は私には荷が重いです」とトリーは返事を躊躇しています。
「大丈夫、トリーは優秀なセイント候補なのだから」
「それにあなたの能力があれば、きっとうまく行くはずです」と力づけます。
「そんな簡単に言われても」
「でも、もう決めてるんで、やるしかないわよ」とアンナのむちゃぶりが始まりました。
「この旅が終わったら、私の手伝いをしてもらうことになるから 覚悟していてね」
(アンナ様は本当に人使いが荒い......本当に今までのお嬢様とは別人みたい)
とトリーはあきらめ顔で思います。
アンナはケルンが練習を終えた頃に、ケルンの所に向かいます。
そして、呼び寄せそして
「ケルンあなたは今から弓を訓練しなさい」
「なんで私が?」とケルンは驚き顔で聞き返します。
「剣ではだめだけど、弓はできるでしょ」
「自分でも剣じゃ士官は無理かなと思っているでしょ」
「・・・・・・」返す言葉がありません。
ケルンは自分の今思っていることをズバリ見透かされたようです。
「剣はともかく弓の扱いはちょっと自信があるでしょ、知っていますよ」とたたみ掛けます。
「それならば、仕方がない」とケルンはしぶしぶ納得します。
「それから後でこのトリーの話を聞くようにしなさい」
アンナは拒否など認めない勢いで指示をだします。
それだけ言うと、くるっと踵をかえしてスタスタと教会の方へ帰って行きました。
後にはトリーと唖然とした顔のケルンが二人残されました。
残された二人の会話です。
「アンナ様には全部見透かされた」諦めたようにケルンは言いました。
「お嬢様は旅にでて何か変わられた様にみえます。なにか別人みたいで」とトリー
「そうだよな、トリーがセイントだと見いだしたのもアンナ様だし、いまの話にしてもそうだ」
「まあ言われたことはその通りで、どうするか悩んでいたんだけど、これで踏ん切りがついたよ」
「言われるようにやってみるか、でなんの話をするんだ」
「長くなるので、馬車に乗ってから話します」
「まあよろしく頼む、せ・い・じょ・様」ケルンはまた半分からかっています。
「もう!!!」
しかし、こう言えるのもあとわずかなことを、ケルンは知りませんでした。
朝食後、荷物を荷台に積み、セイント達は馬車に乗り込みます。
アンナ達セイントは先頭の馬車に乗り、トリーは荷物を搭載した次の馬車の最後尾に乗り込みます。
ケルンは持参の弓をもちだし、そのトリーのとなりに同乗しました。
全員が乗り込むと馬車は動き始めました。
トリーとケルン二人は何か話し合っています。
教えられたことを、ケルンに伝えました。
「こんなことで良いのか」とケルンは疑問を持っています。
「でも続けるのは大変よ」「いまも私はずっと続けているわ」
とトリーは説明するのです。
「ふーーーん」「やってみるわ」
しばらくして
「やってられないわ」ケルンは投げ出しました。
「だめ、投げ出さない事 休んでも良いから、また続けるのよ」とトリーは命じます。
「わかったわかった、トリーが言わなきゃやってられない」
「でも何が目的なんだ?」
「アンナ様の話を聞けばわかると思いますよ」
「でも問うても返事はもらえないでしょう。つまりやればわかる、だからやれと」
とトリーは強く命じるのです。
「アンナ様の目的なんてわからないよ、でもやらなきゃいけないならやるよ」
ケルンは諦めてその指示に従いました。
「えらい! がんばれ! 」とトリーは励まします。
「トリー、なんか楽しそうだな」
「だって面白そうじゃない」
「俺は面白くはないけどな」と不満顔のケルンです。
「そう?面白いと思うけど」
トリーとケルンは、どうも話がかみ合いません。
「アンナ様のいうとおりにやればいいのよ」トリーはケルンを押していきます。
「はいはい、セイント様のおっしゃるとおりにしてみます」
まだケルンには引っかかりがあるようです。
トリーはケルンの態度をみて、これは時間がかかりそうだと思いながら、
アンナの話を聞かないとと思いつつケルンに声をかけています。
(この人の性格を直さないと、きっと苦労するだろうな)
トリーは心の中でつぶやきました。
後ろの馬車ではそういう話が続いています。