会談
執事がその部屋の扉を開けると、そこにはアルク大公とベアトリス聖女が待っていました。
ベアトリスは流石に聖女服ではなく、略装ではありますが、来客対応のドレスで待っています。
略装とは言え、さすがに大貴族の令嬢です。その豪華さは一目で感じる物です。
競技会の時の聖女服の服装と違い、その強い意志を感じるその容貌とその雰囲気から、より一層その美しさが醸し出されています。
端麗な麗しき月とでも表現しましょうか、アルク大公の一番のお気に入りなのもよくわかります。
部屋で待っていたアルク大公より
「メラノ侯爵殿、ようこそおこしいただいた」
「アルク大公様、本日はお招きいただきありがとうございます」
と答えると、来客に「ささ、こちらにお座り下さい」
と大公自ら席を勧めます。
「では失礼いたします」とメラノ侯爵は給仕係が勧める椅子の席につきます。
その横にはクロノ司祭、そしてアンナ、サンディ、ベル、ノルとなり一番端にはトリーという位置に座っていきます。
ケルンは入り口で護衛係として立ち、デント執事もその横で待機しています。
「それでは、まずはお茶を用意しておりますから」
という事で、着席した各人にお茶とお菓子が用意されました。
それが行き渡ったところで、アルク大公から、話を切り出します。
「メラノ侯爵、ご招待に応じて頂き感謝しております」
「じつは今回の競技会おいて、ひとかたならない好意をいただいたとのベアトリスの話から、是非一度お会いしたいと申しましてな」
「また聞く所によりますと、アンナ聖女は道中で魔物を打ち払い、弓の聖女と呼ばれていると聞きましたので、それならと思いお会いしたいと考えた次第です」
とアンナの方を向いて話し始めます。
アンナの席の位置は、アルク大公と特にベアトリス聖女の真ん前に用意されており、その招待の意図を強く感じさせる席次となっているのです。
その大公の問いかけに対して
まず、メラノ侯爵に対してアンナは
「メラノ様、この件について間違って伝えられていますので私からお話してもよろしいでしょうか?」と問いかけます。
メラノ侯爵は当然のように「ではお願いしたい」と答えます。
許可をいただいたところでアンナは話し始めます。
「まず魔物の討伐ですが、討伐したのは私ではありません」
「ほうほう、では誰が?」とアルク大公
「わたしが矢を射たように言われ続けておりますが、実際に矢を射たのは、ここに控えております
ケルンと申します者です」
といってケルンの方を手招きして紹介します。
ケルンは入り口より進み出て、大公に無言で一礼します。
クロノ司祭からも発言があり
「その矢は音の出る特別な矢で、聖女5人そこにおります見習い聖女も含めてでありますが、その祈りの込められた矢を使用したと後で聞きました」
「それをこのアンナ聖女が自らその矢を馬車の天井にあがって、このケルンに渡して矢が射られたという事です」
「なるほどそれで弓の聖女と呼ばれたと言うことですか」とアルク大公
「みんなの力があったからこそ、切り抜けられた様なものですので、弓の聖女といわれましても困ります」と言いながらちょっと困った顔をするアンナです。
「いやいや、馬車の天井まで上って指示をしたとは、大変な勇気に感服いたした」
「やはり弓の聖女様だ」
アルク大公のアンナの評価はさらに上がったようです。
「一度ケルンの弓の技量を 大公様にお目に掛けたいとも思いましたので、つれて参りました。
よろしいでしょうか?」
「それは興味深い、一度拝見させていただこう」
「では用意させますので、場所をお貸しください」
といって、大公の承諾もえましたので、
ケルンとデント執事が用意のため部屋を退出していきます。
それに従うようにアルク家の給仕や執事達も用意の為に退出していきます。
それら全員が退出して、部屋の扉が閉じられたところで
アンナが再び話し始めます。
「それともう一つの誤解があるように思いますので、説明いたしたいと思うのですが」
「大公様お人払いをお願いいたします」
そう言うと大公はほとんど使用人は残っていませんが、数人に退出するように手を振りました。
大公とベアトリス聖女とメラノ侯爵とクロノ司祭と三聖女とトリーしかいないことを確認すると
アンナは静かに話し始めます。
「まずお断りをしたいのですが、今回の競技会の一位はベアトリス聖女様で間違いはありません。これは間違いないのです」
アルク大公はそうだろうという感じでうなずいて聞いています。
「この話は競技会前日の私たちが行なった緊急治療でした、このときに力を合わせると 到底治療無理な重傷の患者を治療することができることを発見したのです」
「しかし、競技会趣旨から一人で治療しなければ無いとされておりました」
「次の日から一人一人で治療は行なっていったのですが、でも最終日私たち一人一人では、あの重傷の方々の治療は不可能とわかっておりました」
「それ故、祈りの力を合わせると治療が可能であるとわかりましたので、あのような形で治療を行なったのです」
そのアンナの説明に3聖女達も無言でうなずいています。
ベアトリス聖女が口をひらきます。
「そうだったのですね では」
と問いを続けようとしたところでアンナがそれを遮るかのように
「でも私たちだけがそれを行なって、ベアトリス様キラ様にそれを行なわないのは、フェアではありません競技会の趣旨から反します」
アルク大公は、なるほどそれはそうだという感じでうなずいています。
「それ故にあのような行動をとられたのですね」
「助力いただけなければ、あの重傷者の人は治療ができなかったでしょう」
ベアトリスはあの時の事を思い出しています。
「また最後の3名はこれで同じ条件となったわけです
私の結果はベアトリス様、キラ様に及んでいません。
同一条件なので、ベアトリス様が一位なのは、間違い無い結果ではないでしょうか?」
「なるほどベアトリスが一位で間違いは無かったわけだ」
「一位で間違い無いと思います」
それに続けてアンナは話します。
「これらの方法は今後公開する予定で降ります」
「今回のベアトリス様は、なにもない原石の状態であの成果を上げられたと思います」
「この方法で教練されれば、より高いレベルに到達されるはずです。
それをごらんいただけると思いますがいかがでしょうか」
ベアトリスは目を輝かして答えます。聖女達のレベルアップはものすごく困難なのです。
「お教えいただけるならご教授ください」
「では用意いたしますので、用意でき次第ご連絡いたします。しばらくお待ちください」
そのような話がおわるころ、部屋のドアの外より、
「大公様弓の準備ができました」との声が上がっています。
アルク大公は、うなずくと、 アンナ達に一言かけてから退出します。
メラノ侯爵とアンナ達は、アルク家執事にうながされて用意されている広い庭に案内されていきます。
その庭は、アルク邸の最大の広さの庭であり、既に多くの的が用意されています。
準備していたケルンは、矢の入っている箱を持ちながら、その数を確認しています。
アルク大公とベアトリス聖女、メラノ侯爵とアンナ達一行の椅子が用意されており、着席していきます。
そこで
「その弓を見せていただく前に、当方にも弓をよくする者がおるので、そのものを参加させよう。
メラノ殿よろしいかな?」
とアルク大公は提案しました。競わせどのくらいの技量かを測ろうとしているのです。
「願ってもないことです。実はこのケルンはアンナ様の従者でありますので技量については、今回初めて見る様な次第なのです」
挑まれたメラノ侯爵も、引くわけにはいきません。
「アルク様には武門の優秀な方が多いとお聞きしておりますので、拝見いたしたく思います」
どうも、アルク、メラノの弓試合の様相を呈してきました。
まずはアルク側の射手が、的をめがけて披露します。流石に武門のアルク家の射手、撃った3射は全て的を外さず、見事な腕前を披露しました。
「ほーーー見事な腕前ですな」
とメラノ侯爵は、関心してアルク大公に話しました。
アルク大公は、ウンウンとまんざらでも無い顔です。
では次はケルンの番となりました。同じように的をめがけて3射撃ったのですが、その矢は全て的の中心に集まっておりその周りにアルク側の矢が取り囲んでいるという状態でした。
結果は一目瞭然でしたが、さらにアンナより「ケルン、大弓を披露なさい」との声で持ち出したのが、大きな弓です。
その弓で今の的の2倍の距離にある的を狙い、そして狙いたがわず命中させるのです。
「みごとな技量だ、その弓をこれへ」という事で、ケルンはこの大弓をアルク大公に差し出します。
その弓はアルク大公側の射手にわたされたのですが、その強さによって引くこともままならない強い弓であることが示されたのです。
「大公様わたしには手に余る弓です。これを使える者は、この国にはまずいないかとおもわれます」
「なるほどこの威力技量であれば、魔物も退散せざるを得ないことがよくわかった」
と大公は関心した表情です。
「大公様、お褒めいただきありがとうございます。このケルンも先ほどお話しした聖女の技の一端を習得しております」技量秘訣の一端をアンナは披露します。そしてさらに
「もしよろしければ、弓と剣は異なるとは言え騎士団の皆様にもケルンよりそれをご披露いたしたく思いますが、いかがでしょうか?」
と提案するのです。
「それは武門を率いる騎士団にも、恩恵がある話だ歓迎したいと思うぞ」
大公も乗り気になっています。
これでケルンにも良い就職口が見つかりそうです。
このようにして弓の披露が終わりましたので、これでアルク大公邸を退出することとなりました。
「次回お会いできることを楽しみにしております」
とのベアトリスの言葉におくられるようにして大公邸を後にしました。
大公も上機嫌で今回の会談の結果に満足しているようです。