表彰式前夜
競技会は終わりました。
4人の聖女と見習い聖女の5人は馬車に乗り込み、病院を出発し東地区の宿舎に帰って行きます。
その中で今回の事を振り返って
「ねえあの力は何?どうしてあんなことができるの?」
「あれは女神様の奇跡の力ですよ」
「でもなんで私達にもできたのかしら?」
「多分ですけど、みんなはじめから持っているのですよ」
「どういうこと?」
「私達は最初から持っていたんです。生まれたときから、あの光の輪が頭の上にあるのです。
最初はよくわからなかったんですけど、だんだん大きくなってきて、そのうち使い方まで分かるようになったんですよ」
「そんなものなの」
と3聖女は口々に話しています。
(そんなもんじゃ無いんですけど)
(自分たちが階段を上るように、あるべき聖女の姿になった事実をまだ理解できないのです)
(のんきですね でもそれが三聖女の良いところじゃないでしょうか)
明日は王城で王の下での表彰式が予定されています。
その後は今回の競技会を運営している教会への挨拶なども控えています。
どう見てもただで済むとはおもえません。
車の中はやっと終わったという安心感で、宿舎に帰っていきました。
さてこちらは北部アルク公国の宿舎です。
帰ってきたベアトリス聖女を前にして、アルク大公は上機嫌です。
「競技会 第一位 ベアトリス よくやった。自分も鼻が高いわ」と上機嫌です。
ベアトリスはずっと優勝がうれしいなど言う表情はまったくなく、ずっと物思いの沈んだ表情です。
「どうしたのだ?うれしくないのか?」
「いえ……はい、実は……」
「どうした?」
「いえ、何でもありません」
「そうか、では明日は王宮での表彰式がある」
「わかりました……」
「どうした、ふさぎ込んで、ずっとだ」
その言葉に決意したようにベアトリスは話し出します。
「大公様。いえアルク叔父様」
(ベアトリス聖女は、アルク公国大公の一族につらなる女性なのです。)
(大公お気に入りの姪であり、一族が手塩にかけて英才教育を施してきた聖女なのです。)
「ハッキリ言います。この一位は私の力ではありません。本当の一位は別にいます」
「なんてことを言っている、一位はみんながハッキリと見て出した結論だ。間違いはない」
「その本当の一位はだれだ、まさかあの南部のキラ聖女ではあるまいな」
「いえ違います。東のアンナ聖女です。彼女達東の聖女全員がわたしを助けてくれたのです」
「なにをいっているんだ。そんな話は、そこに立ち会っていた連絡係からも聞いておらんぞ」
「見えないのです。おわかりにはならないでしょう、でもそれは間違いありません。聖女としてそれがわかりますから」
「あの最後の治療、私の力ではあの患者を治療できる力はありませんでした」
「その前に見せたキラ聖女の治療は、それはすばらしいものでした」
「そのままなら一位はともかく二位にすらならなかったでしょう」
「その治療を始めるとそれがわかるかのように、東地区の聖女達が私の周りに集まってきて
それと同時に急激な力が沸き起こったのです」
「私の力を遙かに上回る力。今までに体験したことはありません。それが一瞬にしてこの治療を完了させたのです」
「たしかにベアトリス、おまえが嘘を言うとはおもえないが、実際に起こったことはこの順位だ。
気にはするな」
「アルク公国としては、この順位で押し通すしかない。これは政治的な問題だからだ」
「それは一族に連なるベアトリスなら、わかるであろう」
「わかっております。しかし聖女の矜持がそう言わざるを得ないことをお許しください」
と叔父の大公に頭を下げます。
いままで頭など一度として下げたことが無いベアトリス聖女が初めて大公に見せたその姿でした。
「しかし何故そのような事をしたのだ、助けなければ東が一位だろう。訳がわからん」
「帰るときにアンナ聖女に問いました。そうすると一位おめでとうと祝福をしてくれて
なぜ助けたのかと問いますと、聖女は人を助けることが仕事ですからと、そう言われました」
「でも助けてもらったのは私だったのです……」
ベアトリス聖女は叫ぶかのようにそう言い、そして大公の前で涙をながしはじめていました。
それを見た大公は、涙など一度も今までに見たことも無いベアトリスのその姿に驚くのです。
(こんな素直な子だったのかと)
「まあ、どちらにせよ明日はおまえが一位だ、涙を拭いて表彰式に立つのだ」と肩を抱きます。
お気に入りの姪なのですから
「はい、それはわかっております」涙をみせながらも、しっかりとそう答えたのです。
その言葉を聞いたアルク大公は
(しかしなんということか、あのベアトリスをここまで変えてしまうとは、東には借りができたか
アンナ聖女か、よく覚えておこう)
もう後の言葉はありませんでした。
こちらは南部メーセン地区の宿舎です。
落ち込んでいるキラ聖女をねぎらうかのようにメーセン宰相
「二位だったか、しかたがない。勝負は時の運だ」
「しかし、明日アルク大公の勝ち誇った姿を見るのが不愉快なだけだ。気にするな、まだ次の機会がある」
「もうしわけありません。義父様」
「ここまで養女として育てていただいたのに」
じつはキラ聖女はメーセン宰相の養女だったのです。
その一族には、全く聖女としての能力を持つ者が無く、また南部地区は北部に比べ聖女の力を持つ者が
非常に少なく、キラを見つけたときは、南部の希望の星だったからです。
そして本人の努力の甲斐あって順調に力を伸ばし、北部に肉薄できるところまで来たのです。
「義父様に謝らなければならないことがあります」
「順位のことは先に言ったとおりだ、謝るまでの事は無い、素晴らしい技量だったと聞くぞ、紙一重の僅差と聞いている」
「実は私はしてはいけないことをしてしまったのです。本当であれば、競技会に出ることすら」
「なんと言うことなんだ!?」
「私はベアトリス聖女には、力の差が及ばないことが薄々わかっておりました。
そしてそれを超えるために使ってはいけない物を手に入れたのです。
これが競技会に来るのが遅れた理由です」
「それを使ったのか!!!!」
「あの最後の治療では、聖女の力は到底及ばないことがわかっていました。
それを使おうとしたその時、それを止めてくれた人がいます」
「だれだそれは」
「東地区のアンナ聖女です。それの名前まで全てを知っていて、使ってはいけないと言われ、それを差し出すように言われました。そしてそれだけではなく、彼女の持つ特別の回復薬をゆずってくれたのです」
「なんでそんなことを、もしそれを通告すれば、キラは破滅だ」
そこで宰相は気がつきます。それだけでは無い南地区の名誉も終わりだ。それを守ってくれたのか
「素晴らしい効果でした。ご存じとは思いますが、これが東地区の聖女が復活した理由です。
それが最後の一つだからと言っていました」
「それだけではありません。最後の治療スピードは驚異的でした。
その時東地区の4人の聖女がそばに寄り集まってくれていました」
「わたしの治療に力を貸してくれたことは間違いありません。どのような方法かはわかりませんが、
今思えばあのままアレを使っていれば、遠からず他の聖女たちも気がついたと思います」
「全部わかっていたのか、大事なキラを守ってくれた。それどころか南部公国の名誉も救ってくれたわけか」
「帰るときアンナ聖女はなにも言わず、ただ抱き留めて肩をたたいてくれました。これが全てです」
そう言うとキラ聖女も泣き出します。
「もう良い、結果はそうならなかったではないか、なんであれ立派な2位だ」
泣くキラ聖女を慰めながらもメーセン宰相は思うのです。
(アンナ聖女には借りができたな。しかしアンナ聖女とは何者なんだ)
とアルク大公と同じ結論になりました




