騎士
馬車が宿舎に到着しました。すぐに夕食が始まります。
やはりクロノ司祭が馬車のところで待っており、アンナに夕食後メラノ侯爵からお会いしたいと連絡がありましたと伝えます。
こちらは宿舎の食事の部屋です。夕食の用意ができています。
そこにはなんと料理人の服装をしたケルンが待っているのです。
「王城に着いたときから、護衛係を廃業して料理係にさせられたよ」とぼやきます。
「でも助かりました」とアンナはホントに助かったという顔をして言います。
「昨日の夜もアンナの特別薬を飲んでもらって、今日の朝食も、昼食も連続使用、今日の夜の夕食の分も用意してある」
「飲む方は良いけど、作る方は大忙しだよ なんとか切らさないようにしているけど、残りは少なくなってきている」
「材料も珍しい物が多くて高価で、メラノ侯爵の援助がなければ到底手に入らなかった」
ケルンは特別薬作りで大変だったのです。
4人の聖女達はこの高価なウルトラ特別薬をがぶ飲みしているのです。これが1日でなんとか復帰できた理由なわけなのです。
「クダクダいわないケルン、どうせ着いたらやること無いんだから泣き事言わずどんどんやんなさい」トリーはケルンにビチビチと命令しています。
「ハイハイわかっております トリー聖女様」
とケルンは不承不承に答えました。
「わたしはまだ見習い!!!」
でも周りの三聖女から
「ケルンさんありがとう これがなかったらどうなっていたか、今日競技会に出られたのは、ケルンさんのおかげです」と感謝とよろこびの声をケルンに送りました。
「治療も思う以上にできたし」
ケルンも聖女達にそう言ってもらって、頭をかきかき、まんざらでも無いかなという顔をしています。
「まあ料理人の仕事頑張るよ」
そのような話の中で
「では夕食をはじめましょう。アンナ様の薬も用意してあります。ともかく体力回復が一番です」
トリーはテキパキと夕食の用意に取りかかっています。
こういう会話のなかで、食事が終わり回復薬も飲んで、ようやく休憩のお茶の時間になりました。
外は暖かく、大きな満月がかかっています。
アンナはそれを見て、サンディ、ベル、ノルに話しかけました。
「食後のお茶はちょっと外のテラスに出てみませんか?」
聖女達はお茶のポットを持ちながら食堂を出て、テラスのテーブルに座りました。
「月がきれいですね」「ほんとうに」「穏やかな夜ですわ」
「女神様もことのほかこのような月を見ることを好まれたようです」とアンナは話しました。
みんなで月を眺めていると、後ろの方から足音が近づいてくるのが聞こえます。
「どなたかおいでになったみたい」
そこには、クロノから連絡があったメラノ侯爵が一人の若い騎士を伴って立っていました。
「みなさんお食事は楽しんでいただけましたか?」とアンナ達を前にして話し始めます。
「もうみんなお腹が一杯で、はみでそうです」とアンナは冗談をいいながらメラノ侯爵とその騎士に席を勧めました。
メラノ侯爵と騎士はアンナの隣のちょうど空いている席に座ります。
「みなさんお元気そうでなによりです。実は会わせたい方おられるのでご紹介したい。よろしいでしょうか」
「どうぞ」とうながします。トリーがこの二人にお茶を入れて持ってきました。
サンディ、ベル、ノルの3人はイケメンのそれも身分の高そうない出で立ちであらわれた騎士にちょっとドギマギしています。
「 はじめまして、サンディといいます。よろしくお願いします」「ベルといいます。よろしくお願いします」「ノルです。よろしく」「アンナです。よろしくお願いします」
「どうぞよろしく、騎士団所属のオスカーと申します」とその若い騎士は名乗りました。
「メラノ侯爵様、この方はお見かけしない方ですが、なぜおいでになったのですか」とアンナは問いました。
「自分は以前騎士団に所属している関係で、彼は私の後輩なのですよ」
「昨日からの活躍の話をしていたら、一度お目に掛かりたいという話があって、自分も激励に行く予定だったので、早速紹介を兼ねて一緒に来たんですよ」とその理由を話しました。
3聖女達はうなずきます。そして話は競技の話になりました。
「早速本題に入りますけど、伝えたいことがあります。昨日の4人でされた治療なのですが……」
と難しそうな顔でメラノ侯爵から話がはじまりました。
「あれは反則ですわね、そう言われると思ってました。じっさい評価対象外であると病院でそう言われましたし」とサンディは答えます。
「やはりそう言われましたか」
「いろいろ活動してはみましたけど、他地区の反対もあってね」
と難しい表情でメラノ侯爵は話します。
「しかし昨日の治療がなぜできたんでしょうかね?」
「4人にはそれぞれ4つの力があります。各人の力が欠けているところ補うようにうまく作用したので、偶然そうなったんだと思います」「言い伝えにも各人の特性があるからとありましたから」
(本来の聖女に変化しつつある3聖女と調整者アンナがいなければできない方法なのですが、それはヒミツ)
「結果は素晴らしいものでした。競技会の趣旨から、やはり一人ずつ治療と言うことになりました」
(うーんあの力をこの方々には、直接話すわけにはいかないんですよね)
(それに横から助けることもできないし)アンナはそう思いつつ
「病院でもそう言われたので、今日の競技会には一人一人で参加しました」
「あの緊急治療で聖女のみなさんが倒れたと聞きましたが、無事に復帰できたのは何よりです」
メラノ公爵もその点では良かったという顔で話します。
「メラノ家の皆様に多くの支援をいただいので、なんとかなりました。ありがとうございます」
「色々情報を教えていただいてありがとうございます」
聖女達も口々にメラノ侯爵にお礼を言いました。
「東地区の後援者の立場としても、勝っていただかなければという意味もありますから、彼オスカーも応援している一人ですよ」
ここから騎士オスカーが話しに加わります。
「今日第一日目の状況は、ベアトリス聖女、キラ聖女が一番の成績だったようです」
「たしかベアトリス聖女、キラ聖女は、本命、対抗と目されているようですから相当なんでしょうね」とサンディは身をのりだして問います。
「両聖女は今日の軽い症状の患者にたいしては、患部に近づけるだけで、症状を消失させて行かれたようです」
「手も当てずにですか!!!」
「そうです」
(相当高い能力を有しているみたいね)アンナは2人の聖女の能力を推し量っています。
「しかし皆さん4名の成績についてはそれに次ぐ高い評価が出ているようです」
「その他の聖女様もよりすぐりの方々ですが、治療ももっと時間を必要とし、終わった後も相当疲労されている姿がみられたとのことですよ」
メラノ侯爵はそう述べて、アンナの方を無言で向きました。
(やはり、この弓の聖女か、復帰できたことすらも奇跡的だ)
アンナは素知らぬ顔で、カップのお茶を口にはこんでいます。(沈黙は金………)
(少しずつ聖女が変わり始めていることに気がつき始めていますが、それは想像以上であることまでは
メラノ侯爵達も気がついていません。)
「このような状況です。明日もありますので、ここまでにしますが、多くの方々特にあの緊急治療の方は本当に喜んでおられました」
「いままでにない治療競技会になるのではという期待がたかまっているようです」
そのように騎士オスカーが述べると、メラノ侯爵とその騎士は席を立ちます。
「ではこれで。明日もありますのでと」いうことで
2人は連れ添ってテラスから出て行きました。
「騎士様は礼儀正しい方ですね見たときから、ドキドキしていました」
「初めてお会いしました」
「普通なら話もできない立場の方みたいですわね」
そう言った3聖女はアンナを、なにか大変なものを見るかのように見つめています。
(もうこれ以上の治療は無理で単独では重傷者は相当難しくなりそうね。でもあの人達は助けたい。 これに手をつける必要があるわね、この……)
アンナは3人に見つめられている中、決意して月光の下で立ち上がります。
そしてそばに控えていたトリーに空いた席にすわるように促し、その前を歩きながら話し始めました。
「女神様が月の光、それもこのような満月を好まれて歩かれたのは、ある意味があるんです」
立ち止まり、そして、皓々と光る上空の満月を指さしてアンナはいいます。
「あれを見て、じっと見て何がみえますか?」
「きれいな月ですよね。それ以外に?」と3聖女達は不思議な顔をして答えるのですが
「そうですよね、では目を閉じてください。何が見えますか……」
アンナは不思議な事を言い始めました。
(これこそが次の段階へ進む道なのです。)




