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アンナの旅  作者: mega
20/61

競技会

 競技一日目が始まりました。

東地区以外の馬車が病院に聖女達を乗せて出発していきます。

病院に到着すると早速昨日の話が出ています。

東地区の聖女達は来ていません。本日は出られないとの連絡で噂が一気に広がっていきます。

「もう東はだめだね、一組減ったよ」

病院に詰めている人たちは口々に噂しています。


 北部地区の聖女達も控え室で

「馬鹿なことをしたものね4人とも倒れたあの状態では、もう東は出ることなどできないはずよ」

「回復までに一週間はかかるんじゃない」

「その時までには競技会は終わってしまうわ」

「静かに! 人は人、私たちはそれより今日からの競技に集中しなさい」

北部地区代表のベアトリス聖女はたしなめます。

その態度は堂々としており王者の余裕です。ライバルは南地区キラ聖女達、弱小東地区など全く気にかけてもいません。


 南地区の聖女達は

「昨日の東地区の治療は、今回の競技ではノーカウントらしいですわ」

「そりゃそうでしょう、また競技開始前だし、それも4人合同なんて、だれが治療したかわからないんじゃあ評価できないでしょう」

「静かに!!!」

キラ聖女は今日も落ち着きが無く、イライラしている様子がその言葉に見て取れます。

その声に聖女達は首をすくめて、黙りました。

やはり、ベアトリス聖女達の動静が気にかかる様子です。


挿絵(By みてみん)


 各地区の競技会に望む方針としては、軽めの患者から始めてポイントを稼ぎ、レベルを上げていく段階を取るのが定石なのです。

治療を続けていくと、今回のように体力が枯渇するので競技者は減っていき、最終的に順位が決まるようになってきます。

各地区の聖女達は定石どおりに、症状が軽い患者から治療を開始します。

さすがに治療としては簡単な部類ですが、その治療行為で際立つのが優勝候補のベアトリス聖女と

対抗と目されているキラ聖女です。

他の聖女たちも選ばれた聖女たちなのですが、軽度とは言え治療にはやはり時間がかかるものです。

しかし、このベアトリス、キラの、北部南部を代表する二人の聖女は患部に手を近づけるだけで、症状が消失していくなど、誰が見てもその差がハッキリとわかる技量の差を披露していきます。

抜きん出ています。


 結果があらわれると、この二人の聖女は控え室に引き上げていきます。

これ以上についてはまだ先がありますので、次を考えて1日目としては終了にしました。

自分の地区の他の聖女が治療を終わり次第、早々に病院を後にしました。

(予定通りの流れね、相手はやはりキラ聖女、後の人達との差はハッキリしました)

馬車での態度も余裕を感じさせます。

ベアトリスはそう思いながら帰路につきました。


 こちらは南部キラ聖女

彼女も明日以降の次への体力を考えて、北部の馬車の出発に続くかのように病院を後にしました。

しかし馬車の中での態度は、ベアトリス聖女と違い、焦りを感じさせるように小刻みに動いています。

(手始めとしては、このような物よ。問題ですら無い、でも目標はベアトリス聖女、しかし今のままでは超えることは、まだ足らない……)

キラ聖女の力は、圧倒的で他の聖女達とはっきりとその差は自身でわかるのです。

ただベアトリス聖女を除いては……

彼女の目の前には、巨大なベアトリス聖女が山のように立ち塞がっている思いが沸き立っています。


 聖女達にはその相手の技量は言わずとも会ってみればわかるものです。 

それが無意識的な序列を自然に作り出していくのです。

その差がわずかであっても、キラ聖女にはそれを乗り越えるものが無いことが、そしてそれがわかることが焦りと悔しさをその心に生じさせているのです。

そのことは向上心の表れとも言えます。

しかしそれが得てして人より上に立ちたいという思いになり、聖女本来のあるべき姿から逸脱していくことに気がつかなくなり、上に立ちたいという欲が間違いを起こしてしまうものなのです。

そしてその姿が、聖女の本当の姿から遠くなっていくことがわからないのです。

キラ聖女にもベアトリス聖女にも、本当の聖女の姿を持った聖女達が迫ってきていることに気がついていないのです。


その帰る馬車が王城へ向かう途中で、反対方向から一台の馬車が病院のほうへ向かってきます。

なんの馬車かしら?と一瞬思いはしたようですが気にも止めずに、すれ違い離れていきます。

しばらくしてその馬車は病院の前で止まりました。


「到着しました」という御者の声に引き続いて、馬車のドアが開けられます。

そしてその馬車のドアが開けられると、思いがけない人達が降りてきます。

一番はトリー聖女(見習い聖女の服装)です。

降りる聖女に手を添えているのは、連絡係のメラノ家デント執事

彼女が降りると、次にトリーが手を差し伸べたのはアンナ聖女、ベル聖女、サンディ聖女、ノル聖女に順々に手を添えて馬車より降ろしていきます。

東地区の四聖女が病院に降り立ったのです。


「さあ行きますよ、患者の皆さんが待っています」

アンナのその言葉を先頭にして病院に入ると、そこには病院付きの聖女や、今回の競技会の各地区の連絡係の人達が残っていました。

彼女たちの姿を見た人たちは、驚きの表情を見せながら道を空けました。

それはそうです。朝始まるときは、東地区の聖女達は競技会はもう復帰不能で棄権だろうと噂していたのです。

聖女が昨日あれだけ体力を枯渇させてしまうと、一週間は動けないくらいであるのは当たり前なのです。その常識が覆ったわけですから、驚きは当然なのです。

そんな驚く人々の注目の中をしっかりした足取りで進んでいく姿は、まさに威風堂々たるものでした。

そうして東地区の控え室に入っていきました。


 控え室で聖女達が待機していると、待合室の外に急ぎ足でやってくる足音が聞こえ、ドアの前で止まりドアをノックする音が聞こえます。

「どうぞ」と答えると、そこには今回の競技会の病院責任者であるナターシャ聖女が立っていました。

「失礼いたします。東地区の聖女様、今日はお越しいただけないのでは無いかと思っておりました」

「本日は来られたということは、競技会の治療を開始されるのですね」と述べて

「昨日は緊急の治療をおこなっていただき本当にありがとうございます」

と深く頭を下げました。

そして一息ついてゆっくりと言葉を選びながら意を決して話し始めます。

「本日の治療について、始める前にお伝えしたいことがありますので、急遽うかがいました」

その顔には苦しい表情が見て取れます。


(予想どおり、やっぱり来ましたね)

「どのようなことでしょうか?」とノルは答えます。

「昨日の重傷者の治療についてですが、みなさん4名で行われました。結果は非常に良好な結果を得られました。ありがとうございます」

「しかしながら今回の競技会の立場として、今後は1名ずつで治療をおこなっていただきたいとの意見を伝達するようにということでお伺いしました」ナターシャ聖女はそのように話すのです。


「聖女の役目はまずは苦しむ者を救うことがその本文です」(昨日のアンナの受け売りですが)

そのようにノルは返答しました。

そしてナターシャ聖女はここから意外な事を話し始めます。

「そのことはよく存じております。実は昨日の重傷患者は実は私の弟なのです」

「この競技会が行われると聞きました。弟の容態は私たちの力ではもう手の施しようも無く、身体はジリジリと弱るばかりでした」

「弟はもう直らないものと諦めておりましたが、もしかすると少しでも良くなるかもしれないという一縷の望みで、患者として参加させていただきました」

「しかし昨日驚くほどの結果が出て私としては、助けていただいてありがとうというこの感謝の気持ちをお伝えすると同時に、このようなお願いを伝えるのはとても心苦しく思っております」

「また昨日の治療については、4人で行なわれましたし、競技会開催前でもありましたので、評価対象にできない事もお伝えしなければなりません」


それを聞き「よくわかっております」とアンナは静かに答えました。


ナターシャ聖女の心に、競技会からの指示を言わなければならない。しかし自分だけが良くなったという事実、もしかするとこの4人なら他の人たちもなんとか出来るのではないかという、他の患者の望みが出ている事、それらが心の中にわき上がってきている事実との板挟みで苦しんでいることを、アンナは察していました。


「競技は一人一人で行ないますので心配ありませんからと、その様に皆さんにお伝えください」

「昨日の治療はあくまで緊急処置です。競技会で評価されなくても当然とおもいます」

アンナがその様に告げると、伝えに来たナターシャ聖女はほっとしたような顔をして、

「ありがとうございます」と言い一礼しました。

そして

「では本日治療を開始されるということなので、係の者に準備させるように手配いたします」

そう言うと待合室から出て行きました。

「では私たちも参りましょう」とアンナは三聖女と控え室を出て共に病室に向かいます。


 まずは定石通り症状の軽い患者から、一人一人で治療を行ないます。


挿絵(By みてみん)


患者は症状が軽いので良くなっている人も多いのですが、担当の医師がベルに対象患者の患部をしめしています。

これがカルテで、なんとかなる部類の病気だとは思いますがと話しています。


挿絵(By みてみん)


ベルは、その示された患部に軽く手を置きつつ、そしてうなずきながら、医師とまた話し始めました。


挿絵(By みてみん)


「あのなにかi痛みが無くなったみたいなんですけど」と急に患者が話し出します。


「なにもまだしていませんけど」とベルは答えたのですが

「でも何か悪いところが無くなったような?」と言うのです。


挿絵(By みてみん)


その言葉に驚く医師が質問していきますが、どうも症状が消失しているようです。


「この治療の場合、自分なら1時間は掛かるはずで体力も相当なくなるはずなんですけど」

当のベルは何が起こったかわからない驚きの表情をしているのです。


サンディもノルもすごい治療スピードが上がっているのです。このスピードは最強クラスです。

(最強クラスは普通の聖女より数倍の力があります)

「なんか、よく分からないけど治ったってことで良いのかな」と担当医師は首をかしげています。

「治ってよかったですね」とベルは患者と話しています。

聖女達が治療していた人は全員ほぼ快方に向かっています。

そして残りの対象軽傷者をアンナとサンディとノルもどんどん治していきます。

四聖女とも同じです。とても疲れているはずなのに


「すごい早さですね、これはベアトリス聖女やキラ聖女に次ぐ、いや同等程度の力じゃないでしょうか」と担当医師は驚きをかくせません。

「一応今日の治療については遅くなりましたがこれで終了します。明日もありますのでよろしくお願いします」このアンナの言葉で、東地区の一日目の治療は終了しました。

「宿舎の王城まで馬車を用意しますので、聖女様は御準備ください」

今回の競技会の進行係の聖女がそのように告げてきました。


挿絵(By みてみん)

挿絵(By みてみん)

挿絵(By みてみん)

「私達ってこんなに力があったかしら?」

「たしかに周りのみんなより早く治療できることから、東地区代表としてこの競技会に派遣されたんだけどなにか???」

馬車に乗ったサンディ、ノル、ベルは車中で話し始めます。


挿絵(By みてみん)

「おかしい!?」

そうして3人は同時に、アンナの顔の方を向きます。

馬車はガタゴトとゆっくり進んでいきます。

ようやく3聖女は、自分たちが変わり始めていることに気がついたみたいです。



挿絵(By みてみん)


「限界まで力を使ったからですよ、使えば使うほど能力は上がると書いてありましたから、

いままでこれほど死にそうになるまで使ったことがありましたか?」

「そしてあのことも続けているでしょ」アンナはそう答えるのです。

「たしかに気絶するくらいやったことはありませんね」

「あのことも続けていますけど」

「そうでしょ」アンナはニコニコしながらそう答えたのです。

(これで女神様の時代の頃の聖女レベルになったみたいね)


(でも間違いなく帰ったらクロノ司祭からなにか言われそう。でもこれ以上になると、あれが必要になるわね。)

アンナはそう思いながら、馬車は宿舎に帰還しました。






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