宿舎にて
3人の体調が少し戻ってきた様子が見えたことから、まずは病院から宿舎に馬車でもどることになりました。これなら、なんとか馬車に乗り込むことができる様です。
もう他地区の聖女達は、ずっと前に病院から引き上げています。
「体力も戻ってきたようだから、なんとか宿舎まで帰りましょう。遅くなっています」
アンナがそう言うと
「さっきのような状態ならもうバタンキューで、病院に入院しかなかったですけど、これなら大分回復して帰れそうです。」ベルの声にも元気が出てきています。
「トリーさんありがとう。これならなんとか帰れそうです」とノルも大丈夫みたいです。
ほめられたトリーは、笑顔でうれしそうに立っていました。
(本当にこの先みんな良い聖女になるでしょうね)とアンナのこころにその言葉が響くのです。
病院の人たちの助けもあり、病院から帰りの馬車に、アンナとトリーと、ベル、サンディ、ノルの
3聖女達は乗り込むことができ、馬車は動き出します。
その馬車の中で
「これならあともう少し回復すれば、治療を続けられそうです」
「あの状態なら、もうそれだけで競技会を棄権するしかなったでしょうね」
ノルも体力が回復してきたので希望が出てきました。
「競技会も大切ですけど、ここに居るのは苦しんでいる人達ですからね。それをなんとかできる力を持ったものが聖女ですから」とアンナは話します。
「アンナって本当に苦しむ人の事を考えているのね」とベルはアンナに感心しています。
「ホントに鬼教官みたい」とサンディは茶化します。
元気になり、少し冗談を言う余裕がでてきたようです。
アンナはその言葉に微笑んでいます。
アンナのこころには昔のあのときの事が、映像のように流れ、それを話し始めます。
(その本人が話すのですから間違いありません。)
「言い伝えによると、どのようなお気持ちで女神様がおられたかです。女神様ははじめは遠くからこの地にやってきた方だった様です」
「そのときは私たちと同じように平凡な普通の方だった様です。そのような状態でありましたが、それは望まれていたことだったようです。平凡で平和な生活を一生続けることが望むならできた、とのことでした」
「しかしあるとき大変な事件が起こりました」
「周りの自分を助けてくれていた人達が次々と倒れ傷ついていきます」
「その中で、ただその時、人々が苦しみ、傷ついた姿をみて、逃げることもできた様ですが、その生命の危機にあった中で逃げず踏みとどまり、秘されていた力を解放することを望まれたという事です」
「みんなの苦しみを少しでも和らげたい、助けたい」
「その心はただ苦しむ人達を助けたいという、その一心しか無かったとのことです」
「深い友愛の心といつくしみの心を持ち、人々に楽を与えたいと」
「苦しみをともにする心を持ちまた、苦痛を取り除いてあげたいと」
「それを決意したときから、ただそのことだけで歩んで行かれたと書いてありました」
(まったく、ズーーーと大変だったんだから、ほんと、そこまで考えてはいたかな、なんだけど)
3聖女とトリーは、アンナが話す物語を、馬車の中でただ無言で聞き入ることしかできませんでした。
話がおわるころ、馬車は宿舎の前についたようです。
「アンナ様、3聖女のみなさん、がんばってください」とトリーは再度励まします。
「ありがとうトリー聖女」とノルが答えます。
「まだ見習いですよ、トリーと呼んでください」トリーはこだわっています。
「はいはい ありがとうトリー」ノルはにっこりして話しました。
話す両者にはニコニコとした雰囲気がながれていきます。
「本当に、一緒にいてくれて良かったです」
「これならなんとか続けられそうです」
ベルもサンディも本当にトリーに感謝です。
(トリーの回復薬だけでなく3聖女も本当は変わりだしているのです。)
アンナは立ち上がり、馬車のドアをあけ下りていきます。3聖女達もトリーのささえを受けながら
馬車をおります。宿舎には案の定クロノ司祭が待っていました。
聖女一人一人を手に取って、馬車から助け降ろしくれます。
みんなを降ろすとアンナに小声で、
「なにをやらかしたのですか、噂になっています。ルーツが知らせてくれました。他地区の聖女様達は病院の視察を終えられて、早々に帰られましたが、4人の聖女様達が重体の患者を競技会が始まる前に一番に直されたとか。それも4人で全力で一丸となって、ぶっ倒れるほどに、アンナ様」
と、もう半分確信犯とでも言うか、あきれたというか、ものすごく心配したような顔で詰問します。
「それも4人合同では選定の趣旨に合わない」との声をその4人の中の1人の聖女様が
「競技会よりも聖女の役目は人を助けることですよ」と言ったとか……
「はい わたしです」アンナは頭をさげました。隠しても無駄です。
クロノ司祭はもう諦めた様な顔で、アンナ聖女が無茶されたのは間違いないと思っていました。
「でも、このことは相当話題になっているみたいで、あれは誰だと担当医師聖女をはじめ、審査員の間で報告が飛び交っており今日の一番の話題となっています」
(あの弓の聖女の時からも、アンナ様はホントに無茶されるかたですから)
「でも他のかたもこの先何か一言あるみたいですけど」(まずい話は先送りに……)
「食事もありますし皆さん疲れているようですから、その件については明日じゃいけませんか、
おなかもペコペコですから」
クロノ司祭もアンナにそう言われて、3聖女達も2人の話が終わるのをまっていましたので、どうぞこちらへとみんなを宿舎の食堂へ案内します。
「もう聞いていますので、お食事の後お会いできますよね」とクロノ司祭は会いたいみたいです。
「それはもちろんかまいません。 じゃあ一緒に行きましょうね」
(それでよろしいですね、はい)(もう面倒ですから)
(ご飯が先です)とアンナは思いました。
一同食事をして、それぞれ部屋に案内されました。
クロノ司祭は本日のまとめをする様です。
(確かに目立ちすぎましたが、たしかにあの結果をみれば仕方ありませんし)
今回は特別の様ですね。ともかく今日、倒れるくらいの治療をしてしまうと、これ以降の競技会の参加が出来なくなるところでした。
競技会が始まる前に、棄権退場で競技会不参加、最下位決定という不名誉な事態に陥るところだったからです。
(東地区のとりまとめ役のクロノとしては、やはり競技会の事を心配しているのです。)
(でもまだこの時点では、聖女達がトリーを含めて、変化していることに気がついていません。)
クロノ司祭は(まあ動けるくらいみたいだし、思ったより元気そうだから良いでしょう)と思っています。
宿舎にいる他の聖女様は本日はもうお休みになっております。競技についての話は明日しましょうか、しかしこの件、教会や後援のメラノ侯爵になんと報告すべきか、クロノ司祭はアンナのやらかしてしまった事をどう収拾すべきか困惑しています。
クロノ司祭は宿舎の自室にいましたが、そこにメラノ家のデント執事、護衛ケルン、連絡係ルーツなどが集まって来ています。
まず手始めに冒頭、クロノが発言します。
「今日の事態はみんなご存じとおもいます。先ほど聖女様に出会ったようすでは、一番おそれていた競技会続行不可能という事態はなんとか避けられたみたいです」と報告しました。
続いてデント執事がその状況について発言します。
「病院で待機していましたが、多くの聖女様達が帰られた直後にこの事件が起こりました」
「聖女様達が倒れたという話を聞き、大変心配しましたよ」
「自分は今日は留守番だったけど、何か起こるだろうとは思っていた。けど、それが今日とは」
「やっぱりやらかしたのはアンナ様か」とケルンはやっぱりという顔で話します。
「あの後、他地区の連絡係達の噂では、東地区は今後参加続行は出来ないんじゃないかと早速うわさが出ていたようですね。ルーツさん」とデント執事は話を続けます。
「そういう噂が出まわっています」「おそらく明日一気に広がると思います」
「ともかく聖女様達には休息が必要です。明日出ていっても使い物にならないでしょうし、この際一日は休息に充てたいと考えています」クロノ司祭は聖女達を心配しています。
「でも帰ったときの様子は、疲れていたようですが思ったより元気だったのが、唯一の救いです」
「作ったものが役だったわけか?」とケルンが突然発言しました。
「作ったモノというと?」
ケルンは説明します。
「実は王城に到着すると、トリーから必要なモノがあるから、早急に資材を集めるように言われたんだ。ルーツが王城については、どこに何があるかよく知っていたので助かった」
「ルーツと一緒に王城の店を駆け回ったんだよ」とケルン
「それでバタバタしていた訳なのか」
クロノ司祭はケルン達がバタバタしていた理由に納得がいきました。
「ベントさんにもあちこち声をかけていただいたよ」とケルンは忙しい状況を報告します。
「それだけじゃない。今度は作るから手伝えと命令されて、こき使われたよ」
「翌日は開会式があるから自分は行くので、作成状態を監視するように言われて、休ませてくれない」「ずっとつきっきり」
「作ったモノはなにか白く、ぐつぐつ沸き立っていて、それを時々かき混ぜろなどと、それを作っているトリーは、聖女というより、魔法薬をつくる魔女みたいだったよ」
その状況を説明するのです。
「これが役立ったのか」とケルンは納得しました。
「開会式の前に出来たモノを壺に入れて、トリーが持って行った」
「持って行くときアンナ様もトリーとやってきて、そのできばえにうなずいていたよ」
「火を前にして、そこに掛けられた鍋をのぞき込こんで何か話していた。あの二人の聖女の顔は火に照らされて、あれだけみたら変なモノを前にしての二人の魔女の会談に見えたよ」
ケルンの説明を受けてデント執事は、
「この出来事は逆に面白いことになりそうですね。他地区はもう東地区はだめだと思っているでしょう。明日休めばよけいそう思うでしょう。しかしそれで出ることができれば、相手には衝撃でしょう。そしてその薬ですか、秘密の武器ですね。これでメラノ侯爵にもおもしろい報告ができそうです」
そのようにしてその日の秘密会談が終わりました。
(聖女達が変化し始めていることには、周りの男達はまだ気がついていないのです。)




