聖女とは
終わった。
それと同時に、4人の聖女達はグラリと倒れていきます。
お下げ髪のサンディはがっくりと膝を付き、そしてゆっくりと床に崩れ、倒れ伏します。
ベルもノルもうずくまり、アンナだけは壁の端にてをつけなんとか倒れるのをささえています。
「大丈夫ですか」と一緒に付いてきたトリーはサンディに駆け寄り、助けおこします。
アンナもうずくまり、ベルとノルの肩をだきます。
「もうこんなことって.......」とベルの声は消え入りそうです。
それを見ていた担当聖女や医師が、倒れ込む聖女達と患者の周りにあつまってきています。
担当医師からは患者に症状が安定し、好転の兆しが出ているとの声が出ています。
緊急処置が間に合ってくれたとの声も聞こえます。
「流石に選ばれた聖女様達はすごい」との声も上がりました。
「一人ではだめだから4人の力技で結果を出すなんて」
「これじゃあ力を比較できない」とも別の聖女から声が上がります。
そのような声にアンナは支えられた身体でこう答えました。
強くハッキリと意志のこもった声で
「聖女は苦しむ人を助けることが一番なんです。それが女神様が最も望まれていることなんです」
その言葉に周りの聖女達は次の言葉を失い、ある聖女ははっとした顔をしたのです。
競技会よりも、もっと、そうです。もっと大切な事があることに気がついたのです。
「でも わたくし達にはできなかったことを、あの4人は成し遂げたのですよ」
「でもそれはわかるけど、 4人でって考えられないわ」
「もし同じことをやれといわれて、できるか聞いてごらんなさい」
「それは違うでしょ」と口では否定しても、その結果に感嘆するばかりの他の聖女達です。
担当医師は
「あの4人の聖女の緊急治療は素晴らしいです。 あれが無ければ患者は助からなかったでしょう」
「正直驚いています。患者は安定しています。まだ症状は心配されるので経過をみていく必要はありますが、これまでの症例を振り返ると、このようなケースでは完治する確率が高いんです」
主任医師は「そんなにか、それは凄いな」
疲労困憊した4人の聖女達は、トリー達に支えられて東地区の控え室に引き取ることになりました。
すぐに立つこともできないほど体力が枯渇していたからです。
(実はアンナも疲れたような顔をしていましたが、そこまでもありません)
お付きのトリーや病院の担当聖女達に支えられて、4人の聖女は東地区の部屋に運び込まれます。
東地区の控えの部屋にある椅子にドサリと座り込むや、もう動けません。
「いや~疲れた、もうだめ」
「もう動けないよ」
「ほんと疲れたわ」
「でも本当にアンナってすごいのね。こんな事を思いつくなんて」と3聖女は口々に話します。
「これもこういう方法があると伝承にありましたから」とアンナは答えます。
「これも残された伝承の技なのね」そういうサンディの声には力がありません。
しかし、3聖女はあのことで本当の力が現れてきているのに、気がついていないのです。
本当はその積み重ねによって彼女達が変化しているのです。
3聖女の協力それが無ければ、アンナだけでは無理だったのです。
このような会話の中、トリーが部屋を急ぎ足で出て行きました。
そしてしばらくしてドアをノックする音がしました。
コン、コン
「どうぞ入ってください」とノルはか細い声で答えます。
そう答えると、ドアを開けてトリーが飲み物を運んで来ました。
「トリー あれを取ってきてくれたのね」とアンナはトリーを見ました。
「はいそうです。念のために用意してきたものがあります」
これもメラノ侯爵の根回しのおかげです。
「トリーさんがそばにいてくれるだけでも、心強いです」ベルは疲れた小声で言います。
「ええ、昨日からトリーに準備してもらってきたものがあります」アンナは伝えます。
その言葉を聞きながらトリーはなにか準備を始めています。
「でも皆さんの治療を見ましたけど、流石に聖女の力はすごいものだと思いました」
驚嘆した顔でトリーはそう言い終わると、みんなの前に用意した飲み物を並べていきます。
「皆さん相当力を使われるようですので、念の為準備するようにと言われて、お持ちしました」
「これってポーション(回復薬)?激マズなんですよね」
「身体が焼けるようになるし、あまり効かないし、使いたくないです」
「これって私もあまり意味がないので、できるだけ使わないようにしてるんです」
と3聖女はもう拒否の姿勢です。
そこに並べられたのは白色の飲み物です。
それを見たアンナは、(出来ているようね間に合ったわ)
「まだまだ明日があります。回復しないと次にかかれませんから、飲んでみましょう」
もう結構という顔の3人を前にしてアンナはトリーに微笑んで、ウインクしました。
「この薬は、アンナ様からの指示で改良して作られたもので、全く違うモノです。ひどいことにはならないときいています」とトリーは話します。
「でも……」とベル
「実は前にこれを使ったことがあるんですけど、それほどひどくはなりませんでしたよ」アンナは説明します。
「この飲み物の色は白で全く違っていますね」ノルは興味を示しました。
「わたしの薬はこの色で無いとだめなんです」アンナは続けて話します。
「それも伝承にあったものなのですか?」ノルは問います。
「伝承では पायस とそのように残されていました。でもその作り方はよくわからなかったのです」
でも、もう結構という顔で躊躇している3聖女を前にして、アンナは薬の一つに手を伸ばして、一気に飲んで見せました。
「苦いとか痛むとか言うこともありませんよ、当然ですけど。ほら、それと共に力が蘇ってきます。どうですか、なんともないでしょ」
ゆっくりと立ち上がり、手を広げて大丈夫なことを、3人に微笑みながら見せてみます。
今の状態では、普通なら立ち上がることすら無理な状態が、何時間も続くはずなのです。
まあそれならという事で、サンディはおずおずとアンナの薬に手を伸ばして、少しずつ口にいれました。
たしかに、味は全く違うし、という事でさらに飲んでみた。
特にサンディは疲労困憊状態だったのですが、
「ファー!こんなことって、力がどんどん蘇ってくるわ」驚いた顔をして、そのくたびれた表情にパーと生気が蘇ってきます。
てきめん身体の中にその力が増えてくることが感じられたのです。
「こんなに早く回復するなんて、もっと時間がかかるはずなのに、痛みも、不味くも無い」
狐につままれたような顔をしてサンディは答えます。
「これが本来の薬なんです」
ノルもベルもその姿を見て、目の前にある白い液体が入ったコップに手をのばしゆっくりと飲み始めました。
「おいしい!」
「本当においしい、ありがとうトリー聖女」
「本来はこういうものだったんですね」
「ここにきて、いろいろなものを得ることができました。ありがとう」ベルとノルは言います。
しかし彼女たちはじつは本当のことに気がついていないのです。
彼女達の力は本来の力の発現の上に、この一連の行為によって増強され、最強クラスに近い力になっていることに。
彼女達はこの競技会出ることで、良い嫁ぎ先などを見つける事も考えていました。
聖女の力が強いことは、この世界では引く手あまたになることを意味しています。
しかしその能力を向上させることは容易ではなく、またどうすれば良いかについては長い年月の間に失われてしまっていました。
しかしそれがアンナが教えることで本当の聖女の力が3人によみがえり始めそして、あのアンナの協力させる力によって、治療が可能になったのです。
そしてトリー聖女は見習いではありますが、遠からず十分に競技会にもでられる素材になっていることに、本人も周りの3聖女もまだ気がついていません。
大変なプレゼントがアンナ(実は女神の化身)から与えれていることを、もう少したてばわかることになります。