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アンナの旅  作者: mega
13/61

困惑

 会食が終わり、部屋へ引き返す通路を歩きながら、引率のクロノ司祭は、「立派でしたよ」と聖女達をほめます。

部屋に戻るとベル達三聖女はほっとしました。

緊張して、何も話すこともできず、ほとんど座っているだけのような感じでしたから。

「ふぅ……」

「さすがに疲れましたね……」

「でも、楽しかったですわ!」

「うん!特に最後のお菓子はおいしい!」

「そうですよね、うまくできたみたいだし」

三人はそれぞれ感想を言いあっています。

そして、今日一日の思い出を振り返りながらベッドに入ります。

「じゃあ、寝ましょう」

三聖女達には良い夢が見られそうです。


 聖女達を送り届けると、自室に下がる前にクロノ司祭は、別棟のケルン達の宿舎に向かいます。

明日の事についてケルンと打ち合わせです。

ケルンが宿舎の入り口に入ったところで座って待っていました。

「みんなの具合はどうだい?」負傷者のことをクロノ司祭は心配しているのです。

「良いところに泊まらせてもらったよ」

「夕食に軽く一杯出たし、皆ご機嫌だ」と答えます。

「負傷していた者たちの具合は?」

「あのときの処置が早かったので、熱もでていない」

「これなら大丈夫だ。聖女様のご加護だな」

「それはよかった」とその声で怪我を治療した立場として負傷者も大変な事にならず安堵しました。


さてということで

二人は椅子に座り直して、ひそひそ声で会食の内容をケルンにこっそりと話します。

(まわりにはこの二人しかいません)

「メラノ侯爵がわれわれを後援してくれることになった」とクロノは小声で話します。

「そりゃすごいな」

「メラノ侯爵といえば、相当有力な貴族だ」

「ルーツもメラノ侯爵の話はよく聞いて知っていたよ」

「こちらでも使用人達の話をそれとなく聞いてみたが、若いながらあちこちに配慮できる切れ者との評判で、使用人たちの受けも良いようだ」

ケルンは知り得た情報を話しています。


「ただ単なる会食という訳では無いだろうというのはわかっていたが」

「今回の競技会は思った以上に面白いことになりそうだ」

「ただそうとう苦労しそうだがね」とクロノ司祭は話します。


「やっぱり決め手はアンナ様か」

「ああ、そうだ」

「王城についたら色々調べることが多くなりそうだ」

「動いてくれそうなのは」

両名同時に「ルーツ」と言う声がでます。


「ルーツのやつ、儲けの匂いを嗅ぎつける力は一級品だ、王城にもコネがある」

「メラノ侯爵に取り入る絶好の機会と考えているみたいだ」

「油断ならないね」とクロノ司祭は苦笑します。

「さっそく自分を使ってくださいと言い出してる。腕力はだめだが、口はそうとうなもんだ」


「王城はコネもないから、助けてもらうことになるな」

「後援すると言うことは、勝てよという事だから変な成績は出せないな」

「教会関係はある程度動けるが、それ以外はつてがないから」

このような二人の話の中で夜は更けていきます。


さてそのころ

見習い聖女であるトリーは、アンナと部屋にさがりました。

トリーは終始ニコニコとしています。

特に自分が仕える主人が、立派な人と思われたことがうれしいのです。


就寝のために正式な聖女服から着替えながら

アンナはトリーに話しかけます。

「食事の最後に出たお菓子おいしかった」とご機嫌なようすです。


「本当に美味しかったですね 見たことも無いものですねやはり王城地区です」

とトリーも同じ意見です。

「これからもっとおいしい物が食べられるかな?」とアンナは言います。

「そうですね」とトリーは答えます。

(こういうところは以前のお嬢様とかわらないわ)


そしてトリーは意を決して、アンナに話しかけます。

「お嬢様、今日の会食はご立派でした」

「ホントにこの旅を出発して、驚くことばかりです」

「お嬢様は全く変わられて、まったく別人のようにさえ見えます」

 アンナの目をじっと見つめて、話します。


「変わった?そうかもしれないわ………」と言ってニコリと笑います。

(この笑顔は昔のままのような気がする)


「私が私でないみたいでしょ」とクスリと笑うので、トリーは少しドキリとしました。

「失礼な事をもうしますが、ホントにそう思います」

「そう、そうよね」


アンナはトリーの手を取りそしてトリーの胸に顔を埋めます。

そして

「トリー、わたしにもわからないのです」(思いがけない言葉です)

「ただ言葉が、わたしでない言葉が自然に流れてくるんです」

「そしてこのようにするようにと 身体が自然に動いていくんです」

「怖いのです」

その身体は、その言葉とともに震えているのです。


挿絵(By みてみん)


「私はもっとかわっていきそうなので怖いんです」

トリーはアンナの身体を両手でぎゅっと抱き、そして言います。

「大丈夫です。わたしはお嬢様の味方です」

「どんな方であっても、どんなにかわられても私はお嬢様についていきます」


「ありがとうトリー」

アンナは少し落ち着いたようで、手を伸ばしてトリーから身体を離しました。

「ほんとにトリーがいてくれて良かった」

アンナは話すことができて、すこし安心してきたようです。


「さあ お嬢様、明日は王城に着きます。遅くなってきましたので休むことに致しましょう」

「一緒に休みましょう」

そう言って、昔そうであったように一緒にベッドにはいりました。

横にトリーがいてくれる為か、アンナはホントに安心したように、すぐに寝入ってくれました。


 トリーは思います。

(お嬢様もホントに苦しんでられたんだわ、でも寝ている姿は前と何も変わらない)

(末娘の忘れ物の多い甘えんぼさんのお嬢様)

(でもその方が、私を聖女として見出していただき、ケルンの弓、そして今日の会食と)

なにか大きなうねりがやってきていることを感じざるを得ませんでした。

その様な考えが頭をよぎる中でトリーも眠りにつきました。

そうして長い5日目が終わりました。


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