酒場にて
酒場にて
一番の難所のこの森をなんとか通過できたので、護衛の人達は無事を祝って一杯飲んでいます。
軽症の人もやっぱり酒には目がないので、こっそり飲んでいます。
「飲んでると聖女様にぶったたかれるぞ」
「トリーは怖いんだからな」とケルンは注意しましたが
「軽症、軽症、一杯だけ」
「女が怖くて酒がのめるか」
「ケルンはトリーの肩をもつな、惚れてんのか」
などともう酔っ払っています。全く困った人達です。言うことを聞きません。
「けが人は一杯だけだ、寝室に連れて行け。後は直ってからだ」
どうしようも無いので飲ませて休ませ、そしてケルンはクロノ司祭と話し出しました。
「すまない、安心して怪我人も気が大きくなってる」
「しょうが無い、明日は腫れるかもしれないな」とクロノ司祭は心配しています。
「まあ一杯で止めたから」とケルンは謝ります。
クロノ司祭もしょうが無いという顔つきです。
「ともかく、一番の難所はこれで通過できたから、あとは二日くらいで王城につくだろうね、気が大きくなるのは わからないでも無い」
ところでという事で、あの場面の話になります。
「あの矢、音が出る矢だか」
「ああ、それは信号矢とでも言う矢で 音で知らせる為のもんだ」
「なぜそれがそこに?」
「出発するときにアンナから、その矢をもらえないかと言われたんだ」
「それで」
「もしかするとこの矢が役に立つかもしれないからって」「そういうことで、渡したんだ」
「そうか、アンナはわかっていたのか」
「それにしても見事だったな 狙い違わず本体を突くとはね」
クロノ司祭は感心した表情で、ケルンをほめます。
「ああ必死だったよ、的が大きかったのも助かった」
「吸い込まれるように矢が飛んでいったよ、自分が撃った矢じゃない」
そう言ってケルンはハッとします。
前日のアンナの言葉を思い出したのです。
(あなたの弓はあなた以外の、そう神様が射ることがわかるようになります)
呆然としているので、クロノ司祭から「どうしたのか」と問われるので、
先日言われたことを話します。
「神様が射るって。そう神様。そういうことか」
ケルンは何度も復唱します。
「たしかに自分が撃った矢じゃない」
そんな話をしていると、商人のルーツが割り込んできます。
「神様ですか、あの情景をみましたから、それを姿絵に描き写したいんで その矢笛とセットにして売りたいんです。お願いします」
さすがに商人です。もう儲けのネタを見つけたようです。
「絵は矢をつがえる聖女です」
「おいおい矢をうったのは俺だぞ」
「ケルンさんじゃ絵になりませんよ」
「聖女様ブームに絶対なる」
「魔物のお守りの絵と笛をセットにしてと 旅人だけじゃ無く、魔除けとして売り出そう絶対受ける」
頭の中にパチパチと計算機が回り始めています。
「おいネタはこっちなんだからもうけの一部を廻せよ」とケルン
「よく存じておりますって、クロノ司祭さまを通して教会に利益をまわしますからよろしくお願いします」
まあ教会も財政が苦しいので、少しでも寄付は歓迎なのです。
「よし明日からその手配だ、まずその噂を広めないと」
「見出しは魔をはらう聖女現る!!!!!アルテミスの再来か!!!!」
やれやれ、大変な事になりそうです。
一番の危険が去った安心もあり
ルーツは、酒場の人達に今日起こったことを、大げさに話し始めています。
「魔物に襲われた馬車の上で、聖女様が矢で魔物を追い払ったんですよ 凄いでしょう」(事実ですが)
「へーーー」
「聖女が祈り、神の加護が奇跡を起こしたのですよ」(そうなんですけど)
「はぁ」
「魔物達は、あの光を見て恐れをなしたのです。そして、きいいいーーーンという矢を射かけると一目散に逃げていったのです」
「おお、すげえ」
「魔物が逃げると同時に、天空から一条の光が射し込み、聖女様をホントに祝福するかのように照らしたんです。」
「ほう、ほう」
「その光に包まれた聖女様は本当、女神様と言ってもいいよ」
「いや神様ってホントにいるんだと思った。あのままじゃみんな魔物にやられていたからね」
「みんなもそう思うだろ」
「まったくそうだ」「魔物を一発の矢でやっつけてしまうなんて、あり得るか」
(いつのまにか、魔物をやっつけたことになってしまっています)
「考えつかない」「そうだそうだ」
「聖女様は我らの守り神だ」
(どうも守り神の女神様にされてきています)
酒の勢いもあり、周りの町の人を巻き込んでその場は大盛り上がりです。
「どういう方かその姿を一目見たいので、その聖女達が泊まっている宿にこれから行きたいんだが」
だんだんと大事になってきました。
「おい待ってくれ、聖女様は教会で休まれている」
「お疲れだから、休ませてあげないと、明日にはみんなの前に出ていただくから」
「教会に来てくれ、みんなに祝福をもらえるようにするから」クロノ司祭は町の人に取り囲まれています。
合わせてほしい、ひとめみたい、家族をつれて明日は来たいからなどなど、もう大変なことになってきました。
みんな力のある聖女様を見たことがなかったので、そのほんとの姿を見たいという気持ちで一杯なのです。
女神様が現れた様相を呈してきました。
朝になります。その様な夜の酒場の事など、教会の宿泊所の聖女達は何も知らず、まだベッドの中で寝ていました。
コンコン ドアを叩く音が聞こえます。
町の司祭様が「朝食の準備ができたから食堂に来るように」と言われます。
アンナ達は眠気で眼をこすりながら、身支度をして食堂に向かいました。
昨日の疲れが残っていたので、トリーなどはあくびをしながら、歩いていきます。
町の司祭様の後ろをついていくと、さあたいへんです。
教会の周りは黒山の人だかりです。
出発の準備に来たケルンは
「なんじゃこれは!」
「聖女様が教会に来られるそうで、みなさん集まっているようです」
「聖女様は教会に来られて、皆に祝福を授けてくれるそうです」
「はあ??」「聖女様が?」「なにそれ?」
「なんでも、魔物に襲われているところを、その聖女様が救ってくださったそうです」
(矢を撃ったのはオレなんだが)
「はあ?」「なにがなんだか」
「とにかく、みなさんがお待ちになっているそうなので急ぎましょう」
聖女達が急いで向かうと、そこにはクロノ司祭がいて、集まった人達に話しています。
「皆さん申し訳ありません。このようなことになってしまいまして、聖女様達はご休息中なので、
私が代わりに話をさせていただきます」
「なにかたいへんなことになってきているわね」とベル
「どうしたらいいんだろう」ノルが
「う~ん」サンディは言葉がありません。
「聖女様は魔物の襲撃の際に、矢を射かけられたそうです。その矢は魔物に突き刺さり、魔物は恐れを為して逃げていったそうです」
「それで魔物が逃げたあと、天空から一条の光が射し込み、聖女様をホントに祝福するように照らしたそうです」
「聖女様」「ああ、女神様」
「聖女様は魔物を退治され、私達の命を救い、さらに天よりの祝福を与えて下さったのです」
「ああ、もうだめ」「そんなの耐えられない」
「恥ずかしくて死にそう」「私は、もう死んでいるかも」
「もう、なにも考えられない」
「こんな素晴らしい出来事が起こるなんて、まさに奇跡です」
「ああ、もう」
もう、教会のまわりに集まった人達は大騒ぎです。
聖女様に恋焦がれていた人達ですから、もう歓喜の渦です。
「聖女様はやっぱり神様が遣わしてくれたんだ」
「きっと聖女様は、この国の守護神に違いない」
「もう、この町にずっと居てほしい」
と、まあ、いろいろです。
クロノ司祭は、集まった人達を落ち着かせようと、話をつづけます。
「そこで、聖女様がお疲れのところ、大変恐縮なのですが、出発の前に皆さんに祝福を授けていただきたいとお願いしたところ、快く引き受けてくださいました」
「おお、ありがとうございます」
「聖女様、万歳」聖女様の信者が増えていきます。
クロノ司祭は、集まった人々に、聖女様がどんな方かを詳しく説明します。
まず、とても美しく、慈悲深い方であること。(だいぶん盛ってる)
魔物に襲われそうになったとき、その魔物を一撃のもとに倒したこと。
(倒したんじゃ無い、追い払っただけ)
また、魔物を追い払ったときに、天空から一条の光が射し込み、聖女様をホントに祝福するように照らしたこと。
「大事になってきましたね」とアンナ
「これはルーツのしわざですね。あのアジテーター商人」とトリーは怒っています。
ルーツはどこで手に入れたのか、もう聖女の木札を売り始めています。
聖女達は、もう出発しなければならないのですが、来てもらった人々に手をとって
「帰りにはまた必ず寄りますから」といって、一人ひとりに女神様のご加護がありますようにという言葉を添えてみんなの手を取ります。
(もはやアイドルグループの握手会のようです)
集まったみんなは、手を握り返してもらえて感激です。
聖女様の手は、すべすべつやつやです。
皆は、自分の手に聖女様のぬくもりを感じてもう胸がいっぱいです。
「ああ、幸せすぎる」
聖女様の信奉者がどんどん増えていってしまいました。
聖女の祝福が一通りおわると
聖女達は、馬車に乗り込み、すぐに王都に向けて出発しました。
「また寄ってください聖女様」
「道中気を付けて、聖女様」
などと見送りの言葉に送られるようにして
5日目の旅が始まります。