表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
いつか見たあの日に  作者: 夜霧ランプ
2/5

届かない心を

 小学校三年生になると、楓ちゃんのお母さんが、車の免許を取りました。楓ちゃんは毎日車まで送り迎えしてもらうようになって、学校の嫌な奴等から「お嬢様」と呼ばれるようになりました。

 楓ちゃんが二年生から学校に来た理由も、楓ちゃんが昔大怪我をした理由も、全然知らない奴等が、唯自分達が気分が良くなるためだけに、楓ちゃんを罵るのが、僕は気に入りませんでした。

 だから、僕は楓ちゃんを罵る奴等を、殴りました。まだ、言葉での説得なんて出来る年齢じゃないし、大体、こっちが言葉で説明しようとしても、誰かを罵る事で頭が気持ちよくなってる奴等は聞く耳なんて持ってません。

 だから暴力に訴えました。殴り返されるときもあったので、どのように体を鍛えて、人間の体のどの部分を殴れば「効果的な痛み」を与えられるかを勉強しました。

 ある日、殴り負けてボロボロになって帰った時、お母さんは、僕が外で「喧嘩」をしていると知って、ショックを受けていました。

 お父さんが、「殴るだけの理由があるのか?」と聞いてきました。僕は、黙ったまま、頷きました。

 僕は、お父さんの許可で、格闘技と言うのを習うようになりました。だけど、その技術は「喧嘩」に使ってはいけないと師範から言われました。

 その時から、ずっと思っていました。体が強くなって、どんな奴からでも楓ちゃんを守れるようになったら、「格闘技」は辞めようって。実践できない技なんて、覚えてても仕方ないですから。


 僕が体を鍛えるようになってから、楓ちゃんは明るくなりました。女の子の友達ができて、仲良くしゃべるようになりました。一緒にお弁当を食べたり、一緒に遊んだりするようになりました。

 僕は、楓ちゃんを罵ってくる奴等が、楓ちゃんに近づかないようにさせていましたが、楓ちゃんの友達もその協力をしてくれました。

 頭の中がハイになってて、誰彼構わず因縁(いんねん)って言うのを付けようとしてくる奴から、楓ちゃんを遠ざけてくれたんです。

 そんな楓ちゃんの友達の中で、僕の事を知っている子がいました。「幼稚園の時、楓ちゃんと仲良かった子、居たよね。陸君って言う男の子」

 僕が近くにいる事を気づかないくらい、その時の楓ちゃんとその女の子は内緒の話をしている風でした。

 楓ちゃんはどうやら、僕の事が嫌いみたいでした。だって、こう話してたんです。

「昔ね、私の具合を直してくれる、神様みたいなおじいさんが居たんだけど、陸はその人と私が関わるのをやめさせたの。手を引っ張って、無理矢理おじいさんから引き離した。それから、自分のママと私のママにおじいさんの事を話して、私が二度とおじいさんに会えなくなるようにしたんだ。私が毎日車の中に詰め込まれて家と学校を往復してるのも、そのせい」って。

 楓ちゃんのお友達は、少し不思議そうな顔をしたけど、「そっか。その、陸君は、元気なの?」って聞きました。

「知らない」と、楓ちゃんは言いました。「あんな奴の事、思い出したくない」

 僕は唇を噛んで、目線を伏せました。だけど、僕はその頃、もう、僕が楓ちゃんを守ってあげるんだって決めていたので、僕が楓ちゃんを責めるべきじゃないって思いました。


 昔読んだ絵本の中で、言葉が喋れないばっかりに王子様にフラれて海の泡になって消えてしまう人魚の話を読んだのを思い出しました。

 性別を逆にすると、僕と楓ちゃんの間柄はそんな感じかも知れないって思いました。

 僕は「お姫様」に声をかける事を禁止された「人魚」で、僕が声をかけることが出来ない事を知ってて、楓ちゃんは僕の近くでも堂々と僕の悪口を言うようになってしまったんです。

 だけど、僕は海の泡になって消えたりしないって、決心を新たにしました。楓ちゃんの知らない所で、見ていない所で、楓ちゃんを悪く言う奴を全部黙らせているのは、僕なんですから。

 僕は、自分は騎士なんだって思いました。尽くさなきゃならない「姫」のために、命と一生を捧げる決意をした、中世の欧州にいた騎士なんだって。


 中学校に入って、一年目。僕は、僕の名前を出さずに、楓ちゃんに手紙を送りました。僕からの手紙だってバレたら、読む前に破り捨てられちゃうって思ったんです。

 水色の便箋に、青いペンで「はじめまして」から書きました。

「はじめまして。三河(みかわ)楓さん。突然、こんな手紙を机に入れるなんて、失礼だとは思うけど、気味悪がらないで読んで下さい」

 そう書き出しを始めて、僕は自分が心にしまってたことを綴りました。

「三河さん」を守りたいと思ってること。好きだとか恋をしているとかなんて言う言葉じゃ、置き換えが利かない気持ちを抱いていること。「三河さん」の生活が、静かで穏やかだったら良いと思ってること。

「三河さん」の関心が引きたいわけじゃないけど、僕みたいな奴が居る事を知っててほしいこと。

 楓ちゃんはそれを読んで、便箋みたいに真っ青になりました。そして、僕の手紙を、友達と、先生に見せました。

 先生は、楓ちゃんの所に変な手紙を出したのは誰かについて、「みんな、目を閉じなさい」と言いました。そして、「三河さんに手紙を出した者は、手を挙げなさい」って言いました。

 僕は、教師と言う生き物が、本当に頭が悪いんだと思いました。薄目を開けてる奴は必ずいるし、手を挙げる奴なんて居るわけないんです。

 そんな風に、教師達の「ストーカー探し」はしばらく続きました。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ