【9:好きな女の子が僕の部屋にいる】
9:僕の好きな人が清楚系ビッチだった件について
【9:好きな女の子が僕の部屋にいる】
「へへへへ~」
男二人が、僕の反応を面白がっている。
「女子がいるなら、事前に言っといてくれよ!」
「見られちゃまずいものでもあるの~?」
「うるさい!」
入江のからかいを無視して、洗面所へ走った。
洗濯物を全て洗濯機に入れ、蓋を閉めて隠した。
次は寝室にダッシュして脱ぎっぱなしの服がないか探した。
特になかったのでベッドを整えて、少しでも部屋がきれいに見えるようにする。
あとは消臭スプレーをカーテンに…
「それをするには、もう遅いんじゃないかな?」
荷物を台所において、三島が僕に言った。
やつの言うことは正しい、こういうスプレーは気化するときに臭いを分解するからだ。
ならば、せめて換気を…!
僕は閉まっていたカーテンと窓を勢いよく開けた。
「普通にきれいな部屋だな。」
入江も勝手に部屋に入り、買った食材を出し始めた。
「眩しいよ松坂、西日がすごい。」
三島の言葉に、僕はレースのカーテンだけを閉めて、玄関に走った。
ジュリは、ずっとその場で待っていた。
「ごめんね、汚いところですがどうぞ。」
「お邪魔します。」
「邪魔するなら帰って~!」
「親父ギャグはやめろ。」
「これって親父ギャグなの?」
「知らない」
僕と三島のやり取りを、ジュリは笑いながら見ていた。
「すごくきれいな部屋だね。」
「引っ越して数ヵ月で、そんなに汚くなるかな?」
すると、急に入江と三島が口笛を吹き始めた。
「お前らの部屋、汚いの?」
「先輩が家に来るからなぁ…」
「お客が多いと部屋が汚れるよね。」
「そうか、大変だな。」
「私も何か手伝おうか?」
荷物をいたジュリが、台所に声をかける。
「いいよ、いいよ、座ってて。」
「じゃあ、お皿を出すね。」
「あ、お茶どうぞ。」
僕は、500mlペットボトルのお茶を食卓に置いた。
ジュリは100円ショップの紙コップや紙皿を取り出した。
「こういうお皿、売ってるんだ?」
深めの紙皿に、陶器のどんぶりのような青い模様が描かれている。
「あんまり紙っぽくないよね。」
「さすがに四人分の食器はないと思ったんだけど…」
三島が電子レンジのボタンを押しながら言った。
「確かにないな。」
「ご飯が炊けてる!」
「お前らがたくさん食べると思って炊いておいたぞ。」
「本当に手伝わなくていいの?」
「いいよ!」
ジュリは諦めたように笑うと、僕のとなりに座った。
スキニーパンツが太ももやお尻を強調させていた。
逆に、上半身はふんわりとした水色のトップスだ。
「これ、聞いてくれる?」
ジュリはスマホから何かの録音を再生した。
それは、前畑からの電話だった。
「うちの親父はお袋が介護士だから結婚したんだ。親の介護をさせるためにな!お前だって性行為が好きでセクシー女優になったくせに嫌がるとは何様だ!」
その後も、おかしなことを長々と叫んでいた。
「何だこれ。」
「私、前畑君に連絡先を教えてないのに…」
「僕じゃないよ?!」
「ならいいんだけど、本当に監督に言ってそういう作品に出て貰おうかな?」
「僕の前では普通なんだけどな…」
そんなことを言っていると、三島が菜箸とボウルを持って近づいてきた。
「お皿出して~。」
「はい。」
「これ食べながら待っててね。」
三島はレンジで温めたブロッコリーに胡麻ドレッシングを混ぜたサラダを盛り付けた。
ジュリは素早く割り箸を渡してくれた。
「ありがとう」
「俺もちょっと食べよう。」
台所から三島が出てきて、一緒に食べることになった。
「ジュリちゃんの作品、売れてるらしいね。」
「ングッ…!」
「そうみたいだね」
ブロッコリーをのどに詰まらせそうな僕と違い、二人はのんびりと会話した。
「そんな目で見るなよ、松坂。」
そう言いながらブロッコリーを咀嚼する。
「出演料が上がるといいな。」
完全にビジネストークだ。
僕は深くうなだれると、気持ちを割りきる努力をした。
「出来たぞ~!」
今度は入江が鍋とお玉を持って近づいてきた。
「いい匂いだな。」
「肉じゃがだ~。」
「お前、肉じゃが作れるの?」
「すごいだろう!」
「うん、すごい。」
一人暮らしの食卓に、四人分の食事がぎゅうぎゅうに並んだ。
紙コップに入った、インスタント味噌汁で乾杯した。
前畑が掛けたジュリへ嫌がらせの電話を、皆で聞いた。
「お前が何様だよ。」
三島が冷たく言い放つ。
「俺は、ちょっとわかる。」
「え?」
入江の発言に、ジュリの顔が強張った。
「俺も、セクシー女優やってるなら性行為が好きなんだろうって思ってたから。」
その言葉に、全員が箸をとめた。
「そうなんだ…仕方ないとは思うけど、やっぱり悲しいな。」
「僕も、ジュリさんがセクシー女優だと知ったときは泣いちゃったし…。」
「いや、あれはしょうがないよ。」
「お前、あのとき泣いてたの?」
入江が大笑いし始めた。
「違う、僕が勝手に期待して、勝手に幻滅しただけだから!」
知らなくても良いやつにバレてる!
「かわいそう…」
三島は笑いを我慢して、肩を震わせている。
「ごめんね、泣かせちゃって。」
ジュリが真剣に謝ると、男二人は大爆笑。
「やめろよ!これじゃあ、僕が一番かわいそうに見えるだろ!!」
開けっぱなしの窓から、夜空へ僕の叫びがこだました。