【7:清楚がビッチになった理由】
7:僕の好きな人が清楚系ビッチだった件について
【7:清楚がビッチになった理由】
「マユミさんは先輩のセクシー女優なんだけど、すごく童顔で若く見えるの。」
確かに、丸顔に丸くて大きな目が童顔に見せていた。
「ヒメさんは、何歳なんですか?」
マユミを見たことがない入江は、ヒメの年齢の方が気になったようだ。
「えっと、38歳よ。」
ヒメは、恥ずかしそうに答えた。
「マユミさんは、何歳なんですか?」
僕の見たマユミは二十代後半くらいに見えた。
「40歳じゃないかしら。」
「えっ……。」
僕と前畑は、一緒に驚いた。
「セクシー女優を始めてから今まで、私の方が出演料が高かいから、彼女に嫌われているの。」
ただの僻みじゃないか…。
「ただの僻みじゃない!」
僕の心中を、ジュリが声にしてくれた。
「私は胸が大きい分、報酬がよかったから…」
ほほう…。
僕は、思わずヒメの胸を見た。
ツヤツヤとした白いシャツに覆われた胸は、今日もでかい。
「私が生まれたのって、お母さんが20歳のときでしょ?」
「そうよ、結婚するはずだったんだけど…色々あって。」
僕はそれ以上、詳しく聞かない方がいいだろうと思った。
他のやつらも、大人しくしていた。
「これでわかっただろ、前畑。ジュリさんのことは、もう諦めろよ。」
「は~い」
謝るでもなく、前畑は適当に返事をした。
三島も腹が立ったのだろう、柔道の技で前畑を床に転がすと、素早くソファに登りボディプレスを食らわせた。
「ゴフッ…!」
全身筋肉のアメフト部は、さぞ固くて重たかっただろう。
前畑は腹を押さえたまま、しばらく動かなかった。
ふぅ…と息を吐くと、三島はヒメの隣に座り、手を握った。
「もう大丈夫だよ…。」
普段の三島からは想像もできないような、優しい声だった。
お前、本当に母親狙いなんだな。
「ありがとう…」
握られた手を放そうとするも、三島ががっちりと掴んでいる。
ヒメは、赤面したままモジモジし始めた。
何これ…両想い?
入江はこの状況に耐えられないのか、ドリンクのグラスを持って前畑をまたぎ、部屋の外へと出ていってしまった。
「ねぇ、松坂君。」
「はい」
ジュリがこちらを向いて話しかけてきた。
「三島君がお母さんを口説いているんだけど、どう思う?」
「いいんじゃないかな?精神的な支えとして。」
「そうかな?うーん、でもなぁ…。」
同級生が母親を口説いているんだから、複雑な心境だよな。
三島は僕が思っていたより真面目で、前畑は僕が思っていたより問題のある人物なのかもしれない。
入江は…考えているようで考えていない気がする。
「そういえば…」
僕は気になっていたことを口にした。
「ジュリさんは、どうしてセクシー女優になったんですか?」
ガチャリと音がして、入江が戻ってきた。
三島とヒメが、手をはなして座り直す。
「お金を稼ぐだけなら、キャバクラとかもっと別の方法があったでしょう。」
「…そうだね。」
僕は、腹をくくって答えを待った。
「でも私、お酒が飲めないし。」
えっ…そんな理由?
「キャバクラなら、何かあっても接客業として扱われるんじゃ…」
「それはわからないけど、OBが来店してお金落としてくれるから簡単だよって言われた。」
うーん、ますますキャバクラでいい気がしてきた。
「きっと、私のせいなの…ごめんなさい。」
ヒメが申し訳なさそうに謝った。
「そんなことない!」
ジュリが否定した。
「セクシー女優ってね、ほんの一握りの女優以外は稼げないの。」
こういう仕事は、大金が手に入ると思っていたが、どうやら違うようだ。
「他の仕事も掛け持ちしていたけど、生活は苦しかったわ。」
「親からは、経済的に支援して貰えなかったんですか?」
僕は平気だったし、三島もそう見えたが、前畑と入江はうんざりした様子だった。
「両親だって、経済的に余裕があるわけじゃないの。好景気のとき働いていた親世代でないと、多くの支援は望めないのよ。」
ヒメが言っていることはよくわかった、しかし実感は湧かなかった。
これは、おそらく僕の価値観が現実より遅れているんだろう。
「お母さんは悪くないよ。」
ジュリはそう言うと、フライドポテトを口に運んだ。
ジュリはマイクを取ると立ち上がり、寝転がったままの前畑を蹴った。
「………。」
前畑は無言のまま、モゾモゾと巨体を動かすと立ち上がってソファに座った。
「私がセクシー女優をやっているのはね…」
ジュリはマイクの電源をいれると、告白した。
「拘束時間が短いからよ。」
シーン…
「えっ…、そういう理由?」
「そうよ」
「そうだったの?」
ヒメも知らなかったようだ。
「勉強する時間が欲しいし、資格も取って自立したい。」
ジュリは本気で言っていた。