【6:カラオケボックスプロレス】
6:僕の好きな人が清楚系ビッチだった件について
【6:カラオケボックスプロレス】
ジュウジュウ……
帰宅した僕は、焼肉のたれで味付けした野菜炒めをかき混ぜていた。
今日は、色んなことがあったな。
「前畑さん、勃ち待ちでーす。」
…うん、そういう映像を観るときは「これくらい自分にも出来るわ」と思っていたけれど、実際は全然違うな。
ざらざら……
僕は、白ごまをパッケージから直接ふりかけた。
大皿に盛り付けると、炊きたてのご飯と一緒に食卓に並べた。
野菜と安い牛肉を大きな口で頬張った。
「………。」
今なら、三島のライムを読めるかもしれない。
咀嚼しながらメッセージを読む。
きちんと読んでみると「ゴメン」とか「怒った?」というメッセージがたくさん届いていた。
多少は見たくない内容もあったが、グロテスクな内容は特になかった。
あと、確かに「他のやつらには秘密だよ」と書いてあった。
ピロリン♪
佐藤ヒメからライムがきた。
要約すると、皆で集まらないかというものだった。
そのなかには「前畑が子どもの父親になると騒いでいる」ことや「入江がプライベートでジュリにつきまとっている」ことを本人たちに詳しく聞きたいので一緒にいて欲しいとも書いてあった。
ヒメは味方を増やしたいのだろうと思ったが、自分には関係ないとは言いたくなかった。
僕は「わかりました」と送信した。
日曜日の昼、仕事のために借りる人も多いカラオケボックスの一室で、事情聴取が始まった。
まずは入江からおこなったのだが、マネージャーになるというのは、どうやら本気だったようだ。
「枕管理?」
枕管理というのは、女優が逃げないようにマネージャーが恋人のように振る舞うことらしい。
「何で、そんな考えになるんだよ?」
三島が入江にプロレス技をかけながら聞いた。
「いつでもヤれるし、マネージャー報酬貰えるかもしれないし、ジュリちゃんに寄ってくる男を追い払うのも気分がよかったからです、イテテテテ!」
どうやら、先輩達が「ジュリはセクシー女優だ。」と噂を広めたことも、好都合だとしか思わなかったようだ。
しかし、ジュリに相手にされず失敗。
入江は意地になって、ジュリの講義にまでつきまとったそうだ。
「すみませんでした、ァイテテテテ!」
「………。」
ジュリは無言で怒っていた。
おそらく、本気で怒っているだろう。
「フンッ!」
「三島、もう離せって…ギャアアアア!」
入江の身体からミシミシって音が聞こえたけど、気のせいかな…?
僕の向かいのソファで、入江が寝たまま動かなくなった。
「次は前畑君かな?」
三島は腰に手を当て、胸筋をピクピクさせた。
前畑は激しく首を振った。
「前畑は、どういう考えだったんだよ?」
「え、えーと…僕は純粋にジュリちゃんが好きで、子どもができても結婚するし…」
「何で子どもができるの?」
「え?」
それ聞くの?みたいな態度で口ごもる前畑。
「もしかして、三島さんがいるから可愛い子ぶってるの?」
ジュリがうっとうしそうに言った。
「いや、そんなことないよ?」
「三島、やっていいよ。」
「ハイッ、喜んで!」
嫌がる前畑を三島が掴んで太い腹を締め上げた。
「ジュリに見せて貰ったんだけど、結婚したらとか子どもができたらとか言っていたわ。」
「僕にも、ヤるとか子どもを作るとか言ってましたね。」
「最低」
「そ、そこまで言ってな…」
「三島」
「フンッ!」
「ぐえええええ……」
前畑はひとしきり絞られた後も、ずっとヘラヘラしていた。
「でも、入江君よりはいいよね?」
その態度は、僕たち全員をイラつかせた。
「あ?」
入江は、もう起き上がっていた。
前畑は入江と目を合わせないようにしながらへへッ…と笑っていた。
「前畑君の方が、犯罪者予備軍に見える。」
ジュリは、はっきりとそう言った。
前畑は、ジュリを見ながら舌をチロチロ出したかと思うと、小さく舌打ちをして目をそらした。
僕は、入江だけが悪く言われて、自分だけが許されると思っているような態度の前畑に、腹が立った。
「どうして子どもができるなんて話しになったのかしら…」
「僕が保存した、ライムの内容を見てください。」
「………どういうこと?」
ヒメは、訝しげな顔で聞いてきた。
「ええと…。」
僕は、思っていたことを話した。
「私が妊娠したのは、仕事のせいじゃないわよ?」
「でも、そう聞きましたよ~?」
前畑が、ゲスい笑顔で言った。
「三島君」
ジュリがそう言うと、再び三島が前畑を締め上げた。
「ムンッ!」
「うぐおおおおお~~……」
僕はヒメの方へ向き直ると、前畑がマユミという人から話を聞いたことを説明した。
「あぁ、マユミさんね。」
ヒメは納得の声をあげると、自身のことについて語り始めた。