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【5:白いビキニ】

5:僕の好きな人が清楚系ビッチだった件について


【5:白いビキニ】


「前畑?」

全員がポカーンとしていた。

「どうよ?」

「毛深いな…」

腕毛やすね毛だけでなく、胸毛や腹毛まで生えていた。

「ちゃんと履いてるよ!」

前畑は黒いブーメランパンツを指差したが、ほとんど腹の肉が覆い被さっていた。

「全裸だと思ってないから。」

エヘヘ…と言いながら、前畑は自分の腹毛を撫でた。

「かっこ良くない?」

汚い、と思ったが言わなかった。

そのかわり、無表情で首を振った。


すると、入江がズカズカと前へ出てきた。

「お前、何でここに居るんだよ?」

「お前こそジュリちゃんから離れろ!」

「俺はボディーガード兼マネージャーみたいなものなんだよ!」

「僕はジュリちゃんの恋人になるから!」

「何だと?」

「ヒッ…!」

入江が拳を握ると、前畑はそそくさとスタジオの奥へ逃げていった。


「あー、どの子かな?」

奥から監督が出てきた。

ヒメとジュリが「彼です。」と入江を指差した。

「君かね、男だらけの撮影会をしたいのは。」

入江はギクッとしたがすぐに言い返した。

「俺はジュリがセクシー女優だって、言いふらしてません!」

「もう私につきまとわないで。」

ジュリが怒り顔で言った。

「さっきのパンツ男みたいな変な奴も寄ってくるし、俺みたいな人材が必要だと思うんです!」

「要らないよ。本当に、男だらけの撮影会やる?」

「いいえ…」

入江は、言いふらしたのが自分じゃないから大丈夫だとでも思っていたのだろうか?

ともかく、アーーーッ!な展開は免れたようだ。

その後、アメフト部の先輩達がやって来て、最初に監督へ謝りに行っていた。


「ねぇ、松坂君…」

「アッ、ハイ。」

今日は出演予定のない、佐藤ヒメが話しかけてきた。

「よかったら、連絡先を交換してくれない?」

「いいですけど…」

僕がまごついていると、ヒメが巻き髪を揺らしながら首をかしげた。

「どうして、僕なんですか?」

ヒメはフフッと笑って、少しだけ考える仕草をするとこう言った。

「入学式の時、娘のことをチラチラ見ていたでしょう?」

「えっと……。」

母親の前で「はい、そうです。」とは言えない。

「そのあと三島君と話していたら、あなたがやって来た。ジュリに近づこうとしているって、すぐにわかったわ。」

「………。」

「でも、監督はマッチョの男優を欲しがっていたから、あなたとお友達は帰されるって事も、よくわかっていたの。」

それで手紙とお金を用意してくれていたのか。

「傷つけてしまって、ごめんなさい。あなた達はただ、巻き込まれただけなのに。」


うーん…つまり連絡先を聞いてきたのは、罪滅ぼしがしたいとか?

僕の脳内に、突如下着姿の佐藤ヒメが現れ、胸を前腕で持ち上げながら「松坂君……。」と、囁いてきた。

「幻滅されたと思ったけど、今日も来てくれたでしょう?」

「ハッ!」

僕は、我に返った。

「そうですね…。」

三島に頼まれたからだけど…。

「泣くほど傷ついたのに、入江君を説得してくれて…」


黒歴史!

理由が理由だし、小さい頃から泣き虫というわけでもないのに、人前で泣いたとか…恥ずかしい!

僕が、真っ赤な顔で広角をひきつらせていると、ヒメは優しく微笑んだ。

「ジュリのことも、悪く言わなかった…性格のいい人だなって思って。」

ショックは受けたけど、ジュリが悪いとか、悪口を言ってやろうとは思わなかったな…。

だからといって、自分は性格が良いんだとも思わないけれど。

とりあえず、僕はヒメと連絡先を交換した。


「見て、どうかな?」

ジュリが水着姿で、僕に近づいてきた。

「可愛いじゃない、良かったわね。」

正確には、母親のヒメに近づいた。

「どう…かな?」

僕の感想が、求められている!?

「カッ…カワイイ…!」

両肩を上げて、鼻の穴を膨らませた僕はそう言った。

「ありがとう」

彼女は笑ったが、変な人だなと思われていそうだと強く思った。

フリルの着いた白いビキニがよく似合っている。

僕から離れるとき、水着がピッタリフィットしたお尻にドキッとした。

三島のピチピチTシャツとは大違いだ。


ヒメは監督の側に移動し、撮影が始まった。

僕は、離れたところから恐る恐る見ていた。

海の家をイメージしたセットで、ジュリ以外の水着女子が2人いた。

かき氷を胸にこぼしてイチャイチャし始めた。

合宿という名の乱痴気騒ぎのようだ。


三島が、ピチピチTシャツを脱ぎ捨てた。

お前、このためにそのTシャツを着ていたのか…。

離れていたのもあるが、カメラマンがいて、よくは見えなかった。

いやらしい声が聞こえると、さすがにドキドキしてきた。

「ちょっと止めて、カット!」

監督の苛立った声が、それを遮った。


「動きすぎて画角に男優が入りすぎ!君は映りすぎても映らなさすぎてもダメなの、分かった?」

「ハイッ、すみません。」

ダメ出しされるのか…嫌だな。

僕の気持ちと下半身は、すっかり縮こまってしまった。

しばらくすると、前畑がやって来た。

ブーメランパンツは、出演用の衣装だったのか…。

マッチョ達が「誰だお前?」とか言ってるから、部外者が乱入してきたという展開なのだろう。

「………?」

しばらく静かな時間が流れ、スタジオはどよめき始めた。


「はい、ちょっと止めて。」

監督がそう言うと、前畑はスタジオの端によけてパンツを下ろした。

僕は、またしても尻の下にもうひとつ尻のある尻を見る羽目になった。

「前畑さん、勃ち待ちでーす。」


これは、気まずい。

監督はお茶を飲みに行くし、皆は雑談をし始めた。

そのうち「ガンバレー」とか「出すもの出せよ~」とか言われ、前畑の心と下半身は折れてしまった。

シャワールームから笑い声が聞こえるなか、前畑はパイプ椅子に座ってうなだれていた。

僕は、肩甲骨が全く見えないツルツルの背中をペチペチと叩いた。


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