【3:おたんちん】
3:僕の好きな人が清楚系ビッチだった件について
【3:おたんちん】
ゴールデンウィーク中に、親友がおかしくなった。
食べ終わった学食のラーメンを眺める。
向かいの席には、誰も座っていない。
「はぁ…」
今日は、楽しそうな男女グループにも腹が立たない。
僕は、放置していたライムを開いた。
三島のは無視して、前畑が送ってきたメッセージを読んだ。
どうやら、ゴールデンウィーク中あの雑居ビルへ行って、色んな人に話を聞いたらしい。
まず、彼女の報酬が数万円であること。
セクシー女優の報酬は、上中下のように百万円以上、五十万円以上、五万円以上に分けられており、彼女の報酬はとても安い。
安いなら、どうしてこの仕事をしているのかと聞いたら、母親もやってるし好きでやっているんじゃないかと言われたそうだ。
次にその母親だが、20歳のときに彼女を産んだシングルマザーだって話だ。
その妊娠っていうのが、セクシー女優の仕事が原因らしい。
ここからがおかしいんだが、前畑はなぜか娘のジュリもそうなると思っていて、マッチョ達にその役は渡さないと意気込んでいる。
最後に、もうすぐジュリの次回作「ヤりサーの夏合宿」の撮影が開始されると書いてあった。
「なんでだよ……!」
僕は、前屈みだった上半身を椅子の背もたれに放り出すと、おでこをペチンと叩いた。
どうしてそんなA=B、B=Cみたいな考えになったんだ。
この場合は、セクシー女優の仕事で母親が妊娠した。
だから娘もセクシー女優の仕事で妊娠する!という考えだ。
早く前畑を止めないと!
僕は、ラーメンのどんぶりが乗ったトレーを返却口に返すと、学食をあとにした。
「そんなこと言われてもね…」
監督は前畑をジロジロと見ながら言った。
前畑は、鼻息荒くジュリと共演させろと迫っていた。
「君みたいなタイプは、余ってるんだよね…」
監督はつまらなそうに背を向けた。
「君、太ってるけど80㎏から90㎏くらいでしょ?」
監督は鞄からペットボトルのお茶を取り出して、一口飲んだ。
前畑は、見るからにイライラし始めた。
「あれっ、新人ですか?」
しかも、ちょうど同じ体型の男優が入ってきた。
おそらく、前畑より年上だろうが、太っているため年齢が分かりにくい。
「いいや、見学。」
監督がそう言いながらペットボトルのお茶を鞄に戻した。
「あ、そうなんですか。」
太った男優は、イライラした前畑を嫌そうな顔で見ると、スタジオの奥へ消えていった。
「ほらね?」と、監督は偉そうに言った。
「大学のやつらは、ジュリちゃんとヤったじゃないですか!」
「マッチョは雇いたいから雇った、ヒメにも金を渡した。」
怒り心頭の前畑に、監督は心底面倒くさそうだった。
佐藤ヒメは、大学の入学式でマッチョな男を探して金をもらっていた。
彼女からもらった娘を想う手紙は、捨てずに家に置いてある。
良い母親だと思ったのに…。
ジュリとヤりたい前畑を止めるより、ジュリにこの仕事をやめてもらう方が楽かもしれない。
などと考えていると「どうですか!」と、前畑の大声が聞こえた。
前畑が下半身を露出し、僕は尻の下にもうひとつ尻のある尻を見せられた。
早口言葉みたいだな…。
「ちっちゃいねぇ…」
監督の言葉に、容赦はなかった。
スタジオの奥から、クスクスと笑い声が聞こえる。
「被ってるのは別に良いけど、短小だと抜けちゃうからね。」
監督が、さっきより真面目に話し始めた。
「動いている途中で抜けると気まずいし、絵にならないからね。観ている方も、ガッカリしちゃうでしょ?」
そこまで聞くと、前畑は無言でパンツを履いた。
「まぁ、大学での話は助かったよ。」
僕たちは、不思議そうに首をかしげた。
「デビュー作の新歓コンパが、結構ダウンロードされてね…いま飛ばれると困るんだよねぇ…。」
僕はゾッとした。
監督は、ジュリの心が傷ついていることに無関心だった。
彼の職業を考えれば特におかしな事ではないのだが、同じ環境に当事者がいると怒りがわいてくる。
「マッチョ君には、黙らないと男だらけの撮影に参加させるって言っておこうね。」
ハッハッハッと笑っていたが、冗談に聞こえなかった。
「マユミさん入りまーす。」
その声を聞いて、監督は「じゃあね」と言ってスタジオの奥へと進んでいった。
「あ、光くーん!」
バスローブを着た女性が、手を振っていた。
前畑がニタニタしながら手を振る。
光ってお前の名前かよ!
「よし、始めよう!」
「ハイッ!」
僕は号令と同時に、前畑の首根っこをつかんで外に出た。