第八話 「大荒れ」
今日は金曜日。
月曜に陽川による絶交宣言、水曜に中野とのカラオケと陰山さんとのいざこざ、木曜に上沢との一騎打ちがあった。
今週は、ほぼ毎日イベントが起こっている。
しかも、ゲーム内で起こるような楽しいイベントならばいざ知らず、これらのイベントは、全て俺の神経を擦り減らすようなものだ。
流石に今日は特別何も起こらないだろう、と楽観視していたのだったが、それも外れることとなった。
昨日中野に予言され、嫌な予感はしていたのだが、本当に中野の予言通りになった結果だ。
まず、朝からイベント盛り沢山である。
朝、俺が学校に来ると、俺の椅子がなくなっていた。
見ると、周りの連中は戸惑う俺を見て忍び笑いをしていた。
クラスの連中は、運動不足気味の俺を気遣い、空気椅子をさせようとしたのだろう。なんて優しいクラスメイト達なんだろうか。
しかし、そんな優しいクラスメイト達に頼っていたら、いつまで経っても俺は立派な大人にはなれない。だから、俺は丁重にお断りし、後ろの席の椅子をわざわざ俺の机の前に持ってきて座った。
すると、後から学校に来て、それに気づいた後ろの席の女子が泣き出した。人の助けを借りずに生きていこうとする、俺の漢気に感動したのだろう。うん、そうに違いない。
流石に申し訳なくなり、椅子を返そうとすると、俺に話しかけられたと言ってまた泣いた。
みなさん、俺をなんだと思ってるの?ゴキブリ?
そんな訳で、HRが始まる前から一悶着あった。
その後も、俺の脇を通るたびに俺の机を蹴ってきたり、授業中に紙飛行機を当てようとしてきたりするような奴らがいた。
しかし、俺は机を蹴られたら脛を蹴り返したし、飛んできたけれど当たらなかった紙飛行機も、わざわざ拾って投げ返し、命中させた。
リア充共は幼い時に友達と遊んでいたのだろうが、俺はもちろん友達がおらず紙飛行機でずっと遊んでいたため、百発百中である。
ただ、俺はやられたらやり返し、小さな報復を楽しんでいたが、それでも疲れるものは疲れるし、これがいつまで続くのかと考えると気が滅入った。
「浮かない顔してんな、お前」
「あ?」
そいつは、昼休みに昼飯が食い終わり、机の木目をじーっと見ていた俺に話しかけてきた。
昨日のこともあり、俺に話しかけてくる可能性のある人物は二人に増えたが、そのどちらにも当てはまらないようだ。
中野は、ぼっちというすぐに狙われる立場から俺に接触できないだろうし、陰山さんは俺のことを『お前』だなんて優しく呼んでくれない。
それじゃあ誰だ?と、顔を上げると、そこには見知らぬ女子がいた。
「お前誰だ?」
「はぁ!?あたしの名前も知らないん?そりゃ、いじめられるわ」
は?こいつの名前を知らないといじめられるのか?
「それより、にゃ、何の用だよ」
「なんだ?お前、あたしみたいな可愛い女子と話して照れてんのか?」
こいつ、性格悪っ。あと、完全に俺の嫌いなタイプだ。なんというか、どことなく陰山さんに似てるし。
「ちなみに、あたしは中上黄花。それにしても、お前も大変だな。陽川の奴に目をつけられるなんてさ。あいつが嫌いって言ったら、あいつのご機嫌とりをしている奴ら全員がお前の事を嫌うからなー」
なんだ、同情か、こいつも。
「どっか行けよ。用はないんだろ?」
「いや、用はあった。でも、もう終わった。陽川がどんな人間を嫌うのかが知りたかっただけだ」
「は?リコーダーを盗む人間だろ?」
いや、俺盗んでないんだけどね。
「いや、多分そうなんだけど、一応その性格も確認したくてな。お前みたいな奴だったら、言っても大丈夫だろうから言うけど、あたしは陽川が嫌いだ。いつまでも学校の女王をさせてやるつもりはない」
「だから、陽川が嫌いな俺がどんな奴か知って、弱味でも握ろうとしたのか?」
怖い。怖すぎる。
いつもの陽川と中上の関係性は知らないが、表面上はそこまで嫌いあってはいないだろう。それなのに、裏ではこんな風だ。
怖い。女子怖い。というより、リア充怖い。ぼっち最高!
世界中みんながぼっちになれば、戦争どころか喧嘩すらなくなるのに。そして、全員が孤独死する。
「ん?お前思ったより頭は回るのな。まあ、そういうことだ。っと、鳴っちまった。席戻んねーと」
チャイムが鳴り、中上は慌てた様子で自分の席へと小走りに向かう。しかし、何か思い出したかのように立ち止まり、引き返す。そして、俺の耳に口を近づけ、
「お前、昨日みたいなことはしない方がいいぞ?上沢への言いがかりもそうだけど、中野をずっと見てたんだってな。あいつもそれなりに人気があるし、今日こんだけ荒れてんのもお前が中野をずっと見てたからだろうからな」
それだけ言って、中上は立ち去る。
なるほどな。陽川と上沢、ついでに中野のファンが俺をいじめてるわけか。めんどくさ。
というより、なんであいつらにファンなんかいるの?直接嫌いだと言ってくる陽川、リコーダーを盗む上にずる賢い上沢、ぼっちで性格キツい中野……。
こいつら、人畜無害な俺よりも、いじめられるべきでしょ?
お前ら、見る目ないの?
そうクラスメイトに脳内で暴言を吐いていると、なんとなく、視線を感じた。
後ろを向くと、こちらをじっと見つめる中野と目が合った。
目配せし、『中上と何を話してたの?』と問いかけてくる。
いや、知らんけど。アイコンタクトなんてしたことないからよく分かんないけど、そんな気がする。
だって、俺と目が合うと、誰でもすぐに目を逸らすし、その上『あいつ誰?目、合ったんだけど。私に気があるんじゃない?キッモ。無理なんだけど』とか言ってくるし、アイコンタクトなんてしたことない。
いや、俺も無理だし。大体、なんで好きでもない奴に振られないといけないんだよ。自意識過剰すぎるんだよ、リア充って奴らは。
俺とか、話しかけられて最初にすることが、周りに人がいるか確認することだぞ?それで、大体の場合周りに人がいて、俺じゃなくてそいつに話しかけてることに気づく。
相変わらず、中野から視線を感じるが、中上曰く中野を見つめたせいで俺への対応が更に悪くなったらしいので、とりあえず無視する。
そのまま、少しして五時間目が始まったが、その間も俺は机の木目を見続け、飽きたら眠り、起きたらノートを取る、を繰り返した。
その内に五、六時間目は終わり、担任が来て終礼が始まるまでの待ち時間となった。
「ん?」
お得意の脳内会話をしていると、目の前が暗くなる。顔を上げると、見慣れない男が目の前に立っていた。
いや、見たことはある。しかも今日。確か、俺の机を蹴ったから脛を蹴り返したら、クリティカルヒットしたらしく、床に転がって呻いていた奴だ。
今度は何の用だ?と思い、睨みつけると、
「お前、陽川さんのリコーダーを盗んだあげく、昨日は中野さんのストーカーをしていただろ!」
ん?陽川の話は、事実ではないけどそう疑われているのは知ってる。でも、中野のは何の話だ?
というか、クラス中が俺たちを見ている。心の底からやめてほしい。
また注目を集め、また俺の知名度が上がり、また俺への扱いが酷くなる最悪な悪循環が始まる。
「とぼけるなよ。昨日お前が、帰り道に中野さんを追いかけるのを見たぞ、俺は」
ああ、そのことか。え?でも、それは中野が追いかけろって言ったから、ストーカーでもないし、俺のせいでもない。
というより、こいつ陽川と中野の両方が好きなの?二股は良くないよ?痴情がもつれた挙句、首を切られるという俺並みに最悪なスクールデイズを送ることになるよ?
「何とか言えよ!」と言って、男は、俺の胸ぐらを掴む。
最悪だ。
月曜日からずっと、ろくな目に遭ってない。
今までの一年と少し、高校内では名前も覚えられずに無視され、悲しいながらも楽な生活をしていたというのに、もうただのいじめられっ子だ。
どちらがマシかは言うまでもないだろう。
「どうなんだよ!この変態が!」
そいつはキレて、俺の胸ぐらを掴んで引き寄せ、拳を振り上げる。
そして俺は、左腕をそいつの股間をいつでも殴れる位置に構えておく。
やられたら、やり返す。
自分からやりにいかないだけ、俺はこいつよりも紳士的と言えるだろう。
キャー!紳士の俺、格好いい!
「やめなさい」
冷たい声が、俺と俺を殴ろうとしていた男の両方を止める。
向くと、そこには陽川白乃が立っていた。
なんでいるんだ、こいつ?
「陰山君を離しなさい。それと、陰山君は私についてきて。話があるの」
と、陽川は一方的に告げて、背を向ける。
「いや、終礼は?」
「そうね……。下田君、私たち体調が悪いから保健室に行くって後藤先生に伝えてくれるかしら」
俺を殴ろうとした男は、下田という名前らしい。
だが、ルビを振る必要すらないどうでもいい男だろうし、名前も覚える気すらない。
「それじゃあ、陰山君、付いてきて」
もちろん、俺には陽川に付いていかないという選択肢もあった。だが、下田(衝撃的すぎて名前覚えちゃったよ。俺の脳内が汚れたんだけど、どうしてくれるの?)が騒いだせいで、クラス中が俺の周りに注目している。
その中で、視線を一身に浴び続けるのは、地獄だろう。
それに、リコーダーの件も、いじめの件も、そろそろ陽川と直接話さないといけないとは考えていた。
何より、また昨日みたいに失敗しても、明日明後日は土日だから、まあいいや、という考えもあった。
だから、俺は付いていく。
俺のこの地獄の一週間を作り出した、元凶の背中を追う。
ブクマと評価ありがとうございます。
明日は、用事があるので、一時台に投稿できないかもしれません。ですが、必ず明日中には投稿しますので。




