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カースト最底辺ぼっちの俺が、カースト最上位の彼女に嫌われた結果  作者: 男子校でも恋がしたい!
第一章 陰山黒人はスタートラインに立つ
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第七話 「美少女にだってぼっちはいる」


「こっぴどくやられたみたいね」


 後ろから声がかかる。

 俺は、振り向かなくても誰が話しかけてきたのかはわかった。大体、俺に話しかけてくるような人間というだけで、一人に決まるのだ。


 つまり、陰山さん。

 と思いながら、振り向いたらそこに居たのは中野だった。


「あ?中野だったのか……」

 あれ?普通に間違えちゃったよ。人間観察は、俺の数少ない特技だってのに。というか、なんでこいつここにいるんだ?

「それより、いつからいたんだ?」


「えーと、黒人君が上沢に教室で話しかける所から、ずっと」


 え。それ最初からどころか、始まってすらいない所からなんだけど。

 怖い。


「それよりも、『中野だったのか』って私以外にあなたに話しかける人間がいるみたいな言い草ね」

 まるで、俺と話す人間が一人もいないみたいな言い草だな、おい。うん、実際同じようなもんなんだけど。


「いや、一人だけな」


「へ、へぇ。誰なの?いえ、別に、興味はないんだけど」


「陰山さんだ」


「はぁ?」

 アホみたいにぽっかり開けられた口、文字通り点になっていて、それでいて可哀想な人を見ているかのような憐んでいる目。


 いや、そんな目で見るなよ。妹を陰山さんって呼んでるのは確かにヤバイけど。しかもその理由は、名前で呼ばれると汚れるから、とかいう可哀想すぎる理由ではあるけど!


 なんかさ、今思ったんだけど、人の不幸と幸福はプラスマイナス0みたいに言われてるじゃん?

 もしそれが本当なら、俺この先の未来どうなるの?え?石油とか掘り当てるの?それとも猫型ロボットが引き出しから出てきたりするの?

 そんなことでもないと、俺の場合マイナスが勝つよ?


 あと、そんなこと言ったら陽川白乃にはこの先どん底の人生が待ってるよ?でも、そんな未来は想像に難い。


 結論。この世は理不尽である。


 そうして、俺がこの世の真理に辿り着いた時、中野はようやく俺の言葉の衝撃から逃れ、言葉を絞り出した。


「あなた、『陰山さん』っていう架空の人物を自分の頭の中に作り出してるの……?」


 あ、そういう風に勘違いしてたのね。まあ、実際同じようなことやってはいるけどね、脳内会話として。それに、それが唯一の趣味なんだけどね?

 さっきの目は、俺の待遇じゃなくて俺の頭を憐んでいた目なのね。どっちでも嬉しくないけど。


 まあ、そりゃあ自分の妹を陰山さんって呼んでるとは思わないよなぁ。


「違う違う。陰山さんっていうのは、俺の妹だ。俺は、妹にそう呼ばされてるんだよ」


「あ!そういうことね。赤音ちゃんのことなの。ついに頭が壊れたのかと思ったわ。それにしても酷い呼び名なのね。ナニをやらかしたのよ」


「何で俺がやらかした前提なんだよ。あと、これは15歳未満も見れるから、ナニはちゃんと漢字にしようね?」


「15歳未満?何を言ってるの?やっぱり頭が壊れたのね?」


「壊れちゃいない。……それより、お前、昨日も思ったんだけど、なんで俺に詳しいんだ?」


「へ?」

 え、いや、あの、とか言いながら中野が慌て出す。やはり、こいつは俺の情報を集めているのか。


「ほら、お前昨日俺の住所をさも知っているかのように言ってきただろ?それに今も、赤……陰山さんのことを知ってたよな」


「いや、違う!違うの!べ、別に、十年ぶりに再会した幼馴染に忘れられてたから猛アタック中とか、そんなんじゃないのよ!?」


 は?なに言ってるんだ、こいつ?

 大体なんだよ、その漫画やアニメで使い古され、もうテンプレと化しているそのネタは。それに、そんなことが現実にあるわけないでしょ?

 この子、お馬鹿ちゃんなのかしら。


「俺が言いたいのは、お前が『陰山を自殺させる会』の会員なのかってことで……」


「は?頭大丈夫?いやいや、聞くまでもないか。うん、狂ってるね。死んだ方がいいよ」


 嫌悪とか恐怖のような負の感情すら感じられない無表情。そして、そこから繰り出される猛毒が塗ってある言葉のナイフ。

 いや、刺さったら即死だよ、これ?


「じゃ、じゃあ、何で俺のこと詳しいんだ?」


「何が、じゃあ、なのか分からないんだけど……。理由、だったわよね?それは、それはと言うとね……」

 何かを考えているかのように、中野はうーんとこめかみに手をやっている。そして、そうだ!という風にぽんと手を打つ。

 お前、今考えただろ。


「そうよ、私、赤音ちゃんの親友なの。放送部部長だし、彼女すごく友達多いし、私とも友達なのよ」


「はーん。だから、俺の住所も知ってたと。まあ、お前もリア充みたいだし、陰山さんと友達でも確かにおかしくはないな。あいつ、高二の友達が凄い多いらしいし」

 放送部部長は関係あるか?と思いながらも、筋が通っている話ではあったので、納得はいった。


 ん?こいつは、リア充。そして、こいつは上沢が俺の机にリコーダーを隠しているのを目撃している。

 ん!?何でこんな簡単なことに気づかなかったんだ?


「中野!お前、上沢の犯行現場見たんだよな!」


「え、えぇ。あなたの机に隠しているところはね」


「お前、リア充だよな!」


「あの、前から気になっていたのだけど、あなたのリア充の基準は何?彼氏持ちっていうことなら、私はリア充じゃないわよ」


「いや、そういう判断方法じゃない。だって、リア充はリアル充実の略語なんだろ?それなら、リアルが充実している奴は、付き合ってなくてもリア充だろ」


「まぁ、確かにそうかもしれないけど……」


「それに、あの陽川白乃にも彼氏はいないんだろ?あいつがリア充じゃないって言うなら、リア充は絶滅危惧種だぞ」


「まあ、いいわ。あれ?何の話だった?」


「中野がリア充って話だな。それで、お前がリア充で友達が多いなら、今日みたいな回りくどい方法は取らなくていいってことに俺は気づいたんだ」


「どういうと?」


「お前もリア充なら、それなりに発言力があるだろ?なら、お前の友達にお前が見たことを話してくれれば、全ては一件落着……」


「無理よ」


「なんでだ?確かに、リア充の中のリア充の上沢相手だと厳しいかもしんないけど……」


「そういう問題じゃないわ。私、友達いないので」


 なに、こいつ『私、失敗しないので』風に言ってるの?全く格好良くないよ?


「いやいや、でもお前学校第二の美少女なんだろ?それなら、友達がたくさんいるんじゃ……」


「えぇ、確かに私は学校第二の美少女。そして、確かに前は友達がたくさんいたわ。でも去年、わらわら虫みたいに私の周りに湧いてくる男共にイラついて、本気でキレたら、そこから要注意人物扱いされて、一歩どころか五歩くらい距離を置かれてるわ」


 そこで、フッと憂うような目をして、『私って罪な女ね』風に、髪を手でバサッとやる。

 語彙力がないから、髪の毛をバサッとやるの正式名称は知らない。取り敢えず、とても偉そうであると記しておく。


「まあ、だから友達関係のことは私に期待しないでね?私が悲しくなるだけだから」


 確かに、今日ずっと中野を観察していたが、誰一人として中野に話しかけていなかったな。

 俺みたいに無視されていたり、嫌われているわけではないみたいだが…….敬遠されている、という言い方が一番ふさわしいだろうか。


「それじゃあ、結局振り出しに戻ったわけか」


「そうね。いえ、もしかしたら、振り出しよりも手前に戻ったかもしれないわ。あなたが上沢を呼び出して何を言っていたのか、上沢は多分話すわ。そして、上沢のファンの女子も一定数いることを考えると……明日は荒れるわよ」


 はぁーと、俺は深いため息をつく。


 しかし、それにしても頼りにならないな、こいつは。

 目撃しているとはいえ、それを話した所で証拠がなければカーストの差により、上沢に揉み消される。その上、上沢は普通のリア充よりも頭が回るときた。

 ぼっちが二人いたところで、どこにかなるのか?


 いや、考えるのはやめよう。中野が言うには、明日は荒れるらしいが、明日は明日だ。明日考えればいい。

 早く帰って、早く寝たい。欲を言えば、陰山さんとも会いたくない。


「俺は帰る。じゃあな」


「あ、なら私も」


「そっか。お前もぼっちだもんな」


 自分の事は棚に上げ、中野をぼっちだと嘲笑う。

 我ながら、俺はいい性格をしていると思う。


「黒人が私の唯一の友達だったのに、勝手に忘れちゃったんでしょ?」


 中野がごにょごにょと呟く。聞こえない。

 な、悪口か。直接言われるよりは陰口の方がマシだと考えている俺でも、目の前で言われると普通に怖くなる。

 大体、目の前で言う陰口って陰口なのか?


 そんなことを考えながら、俺は教室を出た。まだ外は明るいが、電気のついていない旧校舎は薄暗い。

 鞄のことを思い出し、二年D組の教室へと歩き出す。


「あ、待って、黒人君!あ、でも二人で歩いている所見られたら私いじめられるわね……。私、先帰ってるから、後で追いついて」

 と、言って中野は俺と反対方向に歩き出す。


 え?なんでこいつ最後の最後まで俺の傷をえぐってくの?

 俺といるだけでいじめられるって、そんな情報知りたくなかったよ?


 やはり、あいつは『陰山を自殺させる会』の会員に違いない。

 そう結論付けて、俺はフッと笑った。



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