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カースト最底辺ぼっちの俺が、カースト最上位の彼女に嫌われた結果  作者: 男子校でも恋がしたい!
第一章 陰山黒人はスタートラインに立つ
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第六話 「プライド」


「それじゃあ、君の物語を聞かせてもらおうか」


 上沢(かみさわ)灰悟(かいご)は、余裕の笑みを浮かべて、そう俺に語りかけた。


 中野の情報が正しければ、こいつが真犯人のはず。しかし、今自分の罪が暴かれようとしているというのに、上沢は動揺一つしていない。


 今、この旧校舎の空き教室にいるのは、俺と上沢の二人きりだ。

 空き教室に二人きり。このキーワードだけだと、高校生らしい青春の匂いがするが、無論そんなことはない。


 なぜ空き教室にいるかというと、俺が放課後の教室で堂々と上沢に宣戦布告したというのに、あろうことか上沢は場所を変えようと言ってきたからだ。

 周りからすれば、視線が集まったせいでキョドった俺を気遣っての行為に思えるだろうが、俺からすればただの逃げだ。


 本当ならば、逃げようとする上沢を臆病者と罵り、教室から逃がさないようするところ。しかし、俺はそうせずに上沢の提案を受け入れた。

 そう、実はここまでは想定通りなのだ。というか、逆に陽川たちがいる教室で俺と上沢との言い争いが始まったら困るのだ。


 この勝負は、どれだけ上沢を油断させられるかにかかっている。そして、それは俺のカーストの低さと直結している。


 俺が、どれだけ上沢に舐められているか。どれだけ俺の発言力が低いと思っているか、それで全てが決まるのだ。

 しかし、そこに全てがかかっている時点で、俺の勝利はほぼ確定だろう。


 なにせ、俺はぼっちの中のぼっち。カースト最低辺の中の最低辺だからだ。そこだけは、自信を持って言い切ることができる。

 どうだ、えへん。なんだか悲しくなってきたよ……


「早く話し始めなよ、君の妄想を」


 上沢は、余裕たっぷりの笑みを持ってそう言いのける。


「言いだろう。語ってやるよ。でも、これは妄想じゃなくて真実だけどな」


 とかなんとか、ドヤ顔で話し始めたが、本当の所、上沢がやったかどうか確証はない。俺は別に上沢の犯行現場を見たわけではないのだから。

 ただ、中野が上沢がやったと言っただけだ。中野が『陰山を自殺させる会』の会員である可能性がまだ消えていない今、この情報も嘘である可能性はある。


 もし嘘であるならば、『これが真実だ、とかドヤ顔で言ったくせに、騙されて信じさせられていただけだったことにより発生する恥ずか死』を狙ってのことだろうか。

 怖い、中野さん怖い。


「早く話しなよ」


「あ、あぁ。本当は、お前が実は陽川のリコーダーを盗んだ。そしてそれがバレそうになったから、俺の机に隠し、俺に罪を被せた。それが真実だろう?上沢灰悟」


 話してしまえばほんの数行で終わるな、これ。しかし、そのせいで俺は多大な被害を受けた。

 例えば、例えば……色んな人に名前を知られ、よく話題に上るようになったとか?いや、それじゃ良い事じゃん。


 目が合っただけでキモがられるようになった、とか?いや、それ前からじゃん。


「探偵気取りかい、君は。大体、僕が白乃のリコーダーを盗む必要がどこにある?」


 え、何こいつキモいんだけど。何、白乃とか呼んじゃってんの?下の名前で呼ぶとか、心の底から有り得ないんだけど。

 リア充アピール?そういうの、リア充同士でやってくれない?俺にやられても、キモいとしか返しようがないから。


「それに、証拠はどこにあるんだい、証拠は」


 いや、もうその言葉が証拠みたいなものでしょ?

 証拠の話をし始めた時点で、犯人の確定演出みたいなもんだぞ?コナン君、こいつ犯人です!捕まえて!


「白乃の周りの人間を犯人に仕立て上げようとして、僕を選んだんだろうけど、もう無駄だよ。君が犯人だってことは既に知られている。今更新しい犯人を作り上げた所で、誰も騙されないさ」


「俺が犯人って、その証拠はあるのかよ!」


 おい、俺が今証拠があるのかとか言っちゃったよ?

 え、もしかして俺が犯人?


「あるさ。君の机からリコーダーが見つかった。これで十分な証拠になるだろ?」


 上沢の言う通り、周りは俺のことを犯人だと信じ込んでいるし、しかも向こうには証拠まである、と。

 え?勝ち目なくね?


 さらにあいつは、トップカーストの住人だしょ?逆立ちしたって勝てない。……普通なら。


 しかし、俺は普通のぼっちではない。常に一人きり、無視されることが日常のスペシャルなぼっちだ。

 プライドなんて、とうの昔に捨て去っている。


 プライドを捨て、周りの目を気にしないぼっちだからこそ、出来ることがある。

 周りから蔑まれ、俺が何を言ったところで誰も話を聞かないだろうと確信を持たれているからこそ、出来ることがある。


 俺は、地に伏せ、頭を垂れた。要するに、土下座をした。


 本当は、俺だってこんなことはしたくはなかったが、これをしなければいけないだろうな、ということは薄々分かっていた。

 なぜなら、上沢が事実を突きつけられたくらいで、正直に自白をするような奴だとは思えなかっしな。


 そして、自白しないとなれば、俺は土下座しなければならなくなる。だから、放課後に憂鬱な気分だったわけなのだが、正直土下座くらいで事が収まるのならば安いものだ。

 さっき言った通り、プライドは既に捨てているのだから。なんか、この言い方格好いいけど、要するに自分にそれほどの価値がない自覚があるってだけだな。まあ、それでもプライドの塊みたいな奴よりはマシだよな。


「な、何をしてるんだよ」

 いきなり土下座した俺に、上沢は目に見えて狼狽えている。


 本当は、ここで泣き真似なんかができればよかったのだが、生憎俺にそんな器用な真似はできない。

 大体、泣き真似が出来たとしてもそれを披露する機会はないし、そもそも人との関係が薄すぎて人が泣くのを見ることも、自分が泣くこともほとんどないため、ぼっちが泣き真似が上手くなるはずがない。


「俺が何を言おうとクラスの奴らは俺の話を聞くことはない。だから、俺に本当のことを言っても害はないはすだ!ただ知りたいだけなんだ、真実を」


 自分のせいでいじめ寸前になった人間が、その上土下座までしているのだ。この状況で罪悪感を抱かない人間はいないだろう。


 そして俺が、何を言っていてもクラスの誰も信じないであろう、取るに足らないぼっちであることと合わせて考えると、多分上沢は真実を話し出すはずだ。


 そうだとしても俺に発言力がないのなら、俺が上沢の自白を聞いた所で意味がないのでは?

 それは違う。俺には秘策があるのだ。

 俺は、そっと胸ポケットに手を入れ、スイッチが入っていることを確かめた。


「顔を上げて。僕はそんな猿芝居に引っかからないから。この部屋に移動している間から思っていたけど、胸ポケットにレコーダーをいれてるよね」


「は?リコーダー?いや、そんなの胸ポケに入らないだろ」


「リコーダーじゃなくて、レコーダーだよ!誤魔化そうとしても無駄だって。さっきからずっと、レコーダーを気にしてるじゃないか」


 なんでバレた?なんで?


 こいつが、レコーダーに気づくかもしれないとは考えていたが、その可能性は限りなく低いとも考えていたのに。

 なぜなら、リア充は得てして自分が他人より優れていると考えがちだからだ。実際はさほど頭がよくもないのに他人を馬鹿だと見下し、実際はさほど可愛いくも格好よくもないのに、他人をブスだのと見下す。


 そんなリア充だからこそ、俺が、録音機で上沢の声を録音するほど頭が回らないだろうと考えるはずだった。

 なにせ、俺にはリア充に舐められ見下される要素がたくさんあるのだから。実際、舐められ見下されたせいで俺は上沢に犯人に仕立て上げられた。


 なのに、なぜ気づいた?なぜ俺を警戒した?

 こんな人畜無害で、ただ人から無視され(最近は嫌われてるけど)ているだけの人間を。自分で言ってて悲しくなる。


「あー、そゆことね。僕が、君を侮ると思ったんだよね?でも残念、君の方こそ僕を侮りすぎってもんだよ。ま、侮るも何も、僕に隠すことはないけど」


 少し考え、それもそうだ、と結論に至る。誰にも気づかれずにリコーダーを盗み、その証拠まで綺麗に隠し、新しい犯人まで作り上げた。相手はそんな奴だ。

 俺は、上沢をリア充だと一括りにして舐めすぎていたのかもしれない。


 俺が、リア充が舐めて警戒すらしていない一般のぼっちとは一味違うように、上沢も俺が蔑んでいる一般のリア充とは一味違うらしい。

 大体、高校生にもなってリコーダーを盗む奴が普通はわけがない。


「それじゃあ、僕は帰るよ。もう君に策はないだろう?ま、策なんかあっても、僕には隠すようなことはないんだけどね」


 上沢は、そう言い残して薄暗い旧校舎から出て、未だ明るい校庭へと歩き出す。



ブクマと評価ありがとうございます……ってこれ毎話言っててしつこいと思うんですけど、本当にありがたいです。

今回は、男二人しか出てこないむさ苦しい回でしたが、次はちゃんと女の子を出しますから。

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