幕間 「陰山黒人はまだ知らない」
「好きです!付き合って下さい!」
少し風の強い屋上、俺と彼女の他誰もいないこの場所で、彼女の声はよく届いた。
今日は一学期最後の日だ。
しかも、時間的には既に終業式は始まってると思う。それなのに、なんで俺と彼女がこんな所にいるのかというと、俺が体育館に向かおうとした時、彼女に引き止められ、屋上に来いと言われたからだ。
屋上に自由に来ることができる人間、つまり相手は陽川白乃である。
つい二ヶ月くらい前までは、学校のトップに君臨する彼女とは一生話すことはないだろう、と考えていた。多分彼女もまた、俺と深く関わるとは考えていなかっただろう。
それなのに、今はこうして告白までされている。本当に、何が起こるのか分からない。
俺は、深く考えるのを止め、目の前の告白をしてきた相手を見つめた。
今日こうなることは、前々から分かっていた。だってそんなこと、彼女の行動や言動に気を付ければすぐに分かることなのだ。
そして、それに対する答えもまた、俺は前々から決めてあった。
夏服となり、少し露出度の増した服を見るのは少し緊張するし、目のやり場に困るが、それでも告白の返事をする者として、やはり相手をちゃんと見て答えないと不誠実だと思う。
だから俺は彼女を見つめて――
「お断りさせていただきますっ!」
「えー?やっぱりダメー?なんかさ、変な間があったからいけるかなーって思ったんだけど……」
「駄目に決まってるだろ。大体、これ何回目だよ?」
「十七、かな?」
平然とそう答える彼女に、俺は深い深いためいきを吐いた。
そう、以前の学校一の美少女兼ヒエラルキーのトップに君臨する王たる陽川白乃から告白されるのはこれで十七回目なのだ。
最初に告白されたのは、確かあの日。
あの、陽川が校庭で叫んだ次の週の月曜日。その昼休みに、彼女は最初に告白してきた。
しかも、クラスメイト全員がこちらを見つめる中でだ。その十分程前、屋上の扉前で告白すればいいものを、わざわざクラスでやるという暴挙。
その時の中野の顔は今思い出しても笑えるが、その時の俺には中野の顔を笑う余裕なんて微塵もなかった。
しかし、それから幾度となく告白を受ける内に、もう既に慣れの境地に達している。
しかも、顔だけは学校一と評されている陽川からの告白のだ。
なんだかもう、そこら辺の人から告白されても何も感じない気がする。
凄いイケメンのウザい人の台詞っぽいけど、ただ単に感覚が麻痺しただけである。
それにしても、今は陽川は顔だけは学校一と評される人となったのだ。
周囲の目も気にせずに俺に何度も告白したり、校庭で叫んだりした上、その前のいじめ騒動もあったため、彼女のカーストは落ちてしまっている。
しかし、だからといって陽川がみんなから嫌われたという訳ではないらしい。
陽川曰く、何の欠点もない人間から、普通の可愛い女の子へと認識が変化しただけだという。
自分で自分を可愛いというのはどうかと思うが。
そんなわけで、今の陽川は、女子から恋に頑張る女の子として温かい目で見守られているらしい。
そのため、俺も他の女子からは好意的に接しられているのだが、男子は違う。
俺たちのアイドルをよくも、と怒る男子は十や二十ではなかった。しかし、そういう輩は陽川のおかげで殆ど消えたと思う。
陽川が言うには、『そうなる覚悟の上で告白したんだから、その責任は私が持つ』んだそうだ。
「もういいよな?今からでも遅くない。終業式行かないと」
「あー、ちょっと待ってよ、黒人!屋上で二人きりの状況での告白があと三パターンあったはず……」
なんて言いながら陽川は、手帳をめくり出した。
俺に告白する時にはいつも持っている手帳だ。焼いてしまおうかと考えたのも、一度や二度じゃない。
「いや、しなくていいから。それに、そんなに告白されたら、勢いでOKしちゃいそうだし」
と言ってから、俺は自分の失言に気づいた。
勢いでOKしそうなんて言ったら、こいつは調子に乗って本気で何回も告白するに違いない。
昔の学校一の人気者であった頃の陽川ならしないだろうが、今のキャラ変もかくやという状態の陽川なら本当にやりかねない。
「うーん、そっか。なら、やめとくか」
「ん?」
予想とは違う言葉に、少し驚いた。
「お前なら、もっと告白してやる!とか言いそうなもんだけど……」
「うーん、そんなことないよ。だってさ、勢いでOKされても嫌じゃん?私に、本気で好きになってもらわないとね!」
蠱惑的な笑みを浮かべて、陽川は俺の胸をドン、と叩いた。
「終業式行こっか」
「ああ、そうだな」
先を歩く陽川の後ろ姿を見ながら、俺はほっと安堵の息を漏らした。
これで、陽川の告白というストレスからようやく逃れられる。そして、待ちに待った夏休みだ。
「黒人、夏休みの予定とかある?」
陽川は、振り返ってそう聞いてきた。
「いや、ないな。予定もないし、まずどっかに行く気もさらさらない」
「あっそ。まあ、赤音ちゃんに手伝ってもらって勝手に連れてけばいっか」
「本当にやめろよ、そういうの」
「本当に、黒人は赤音ちゃんに弱いよねー。もしかして、シスコン?」
「はぁー」
「あー、ごめんって黒人!そんな生ゴミな目で見つめないで」
「それだと俺が生ゴミなんだけど……」
そんなどうでもいい会話をしながら、屋上の扉を開け、階段を降りていく。
するとそこには、
「黒人君と陽川さん、あなたたちどこ行ってたのよ」
「中野、なんでここにいるんだ?」
「あなたたちを探してたのよ」
中野は、そう少し不機嫌そうな声を出した。
「ごめーん、緑!」
陽川はそう謝ったが、何に謝ったのかはよく分からない。
「まあ、いいわ。行きましょう?」
「お、おう」
それから、三人で話しながら終業式に向かった。
終業式では、校長先生の子守唄を聞き、立ちながら眠っていた少し前の俺からしたら、考えられないリア充っぷりだ。
でも、俺はまだ知らない。
こんな関係が、いつまでも続くわけがないことを。
シリアス展開はやめて、ラブコメに走ったのか。
この話を読むとそう思えるかもしれませんが、そんなことはありません。
三章は二章以上のシリアス展開になるかもです。
陽川のキャラ変については、批判などもあるかもしれませんが、元々決めていましたし、こうなる前提で最初から書いていました。
ブクマと評価と感想をありがとうございます。




