第十九話 「居場所」
「はぁー。で?何で私を呼び出したん?」
不機嫌そうな声が響く。俺はその声に少しびびりながらも、返事をした。
「陰山さんが家では話を聞かないからだろ」
一昨日の一件の後、俺は誰にも会わずに手ぶらで家に帰った。
中野との会話で、作戦が上手くいったことは分かったが、その作戦の効果がどれだけ出てるのか、それはぼっちの俺にはわからない。
例えば、ツイッターにあげてもフェイクだと言われるかもしれない。他にも、中上がその後も暗躍して結局陽川はぼっちのままかもしれない。
そんな懸念があったため、俺は一昨日の夜、勇気を振り絞って陰山さんに話しかけたのだ。
だというのに、返ってきたのは『今忙しいから後で』というぶっきらぼうな声だけ。
そして、その後十時頃にまた話しかけると、『眠いから明日』と言われ、昨日の朝に話しかければ『学校行くから帰ったら』と返された。
昨日の夜と今日の朝も同じような感じだった。
そこで、俺はあまり人目に付かないようにHR前のこの時間に陰山さんの所へ向かい、そして屋上の扉前までやって来たのだった。
「はぁー、まあいいけど。それよりさ、話すんなら、ここよりも屋上の方がいいんじゃない?」
「あー、でもそこ開かないから」
俺がそう言ったにも関わらず、陰山さんは屋上の扉を開けようとする。うん、やっぱり開かないようだ。
「あれ?今、開きそうだったんだけど。ま、いっか」
と言って、陰山さんは座り込む。
「それで、あんたは何が聞きたいの?HR始まるし、話があるなら早くしてくんない?」
「お、おう。それじゃあまず……俺が立てた作戦は成功ってことでいいんだよな?」
「ま、そだね。私はやれって言われたことは全部やったし、あんたも予定通りの会話を陽川さんとしてたしね。成功なんじゃない?」
「あ、そういえば、陰山さん、俺から盗んだ三千円って……」
「あ、あれね。フェイク用の体育館履き入れ買うのに使った。文句ないでしょ?」
陰山さんは、文句あるって言うなら殺すぞ、という目で俺を睨んでくる。
「いや、でも確かあの袋って三千円もしなかったような気が……」
「確か、千円。でもさー、私がタダ働きする訳ないっしょ?残りはお給料」
まあ、いいか。
最初に三千円要求された時は、全額が給料だと思っていたのだ。そうでなかっただけ、まだマシ……なのか?
「もう話は終わり?」
「あ、ちょっと待った。作戦は成功したんだよな。それで、その続きはどうだったんだ?」
「続きってゆーと?」
「この学校の生徒がそれを信じたのか、ツイッターでも広まって世間も信じたのか。陽川は元通りになったのか……」
「質問多すぎ。でも、生徒は信じたと思う。ついでに、先生とかも。一昨日から、ラインとかはその話で持ちきり。私も大変だったし」
「あー、俺の妹だからか?」
「そう、不本意にもね。でも、私たちが兄妹っていう誤解は、ちゃんと解いたけど」
いやいや、誤解じゃなくて事実だから、それ。
「でも、この前の上沢を嵌めた時に、二人で呼び出しくらったりしただろ?それでも、兄妹じゃないって誤魔化せたのか?」
「ま、ね。私と同姓同名のあんたの妹が、この学校にいるってことにしといた」
「いや、そんなの信じるわけが……」
「信じるんだよ、みんな。最低人間のあんたへのイメージと、人気な私とのイメージがそんだけかけ離れてるってこと」
言われて、納得する。
確かに、今やいじめっ子の最低人間となった俺と、学校人気四位の陰山さんが血の繋がる兄妹とは誰も思わないだろう。
「で、これで終わり?」
「あー、ちょっと待って。ツイッターと世間の話をまだ聞いてない」
「あー、確かに話してない。てか、それは自分で確認できるでしょ?」
「いや、俺はそういうのも苦手だからな」
「あっそ。で、ツイッター?前よりも信憑性の高い動画だったし、青海先輩が上げた一昨日の会話はかなり炎上した。まー、世間的にも成功ってことでいいんじゃない?」
「そうなの、か」
思った以上に簡単に行きすぎて拍子抜けした。
「悪口とかの悪い噂の方が人気になるって聞いてたから、少し不安だったけど」
「はぁー、呑気だなー。それは、悪口の対象が陽川さんからあんたに移ったってことだけど?」
「そういう理由か……」
「それで、今度こそ終わり?」
少しの苛立ちを混ぜた声で、陰山さんはそう言ってきた。
しかし、今を逃せば次に話してもらえるのはいつか分からない。機嫌を悪くしてでも、今聞いておくべきだろう。
「あと二つだけ、頼む」
「はぁー。早くしろ」
「お、おう。一つ目は、中上のことだ。あいつは、どうなった?」
「中上?んー、今はなんとも言えない。でも、多分これからどんどん権力は落ちてくとは思う。あんたと中上が協力して陽川さんを追い詰めたってデマまであるくらいだから」
うわ、最悪だな、そのデマ。でも、今はまだ中上は落ちぶれてないけど、これからそうなるってことか。
あいつに対しては、全く同情はしないけどな。
「で、もう一つってのは?」
「ああ、中野の話だ。何で、陰山さんは中野に手伝わせようとしなかったんだ?あいつ、俺の作戦に怒ってたみたいだから結果的には良かったんだろうけど、陰山さんは最初からそうなるって分かってたのか?」
「ま、大体は。それに……もし、中野先輩があんたの手伝いをしてたら、中野先輩は一生自分が許せないだろうし、あんたが傷ついた時の怒りと悲しみはどこに向けんの?」
「は?どういうことだ?」
「だから、自分も手伝ったからあんたのことだけを責めるわけにもいかないでしょ?」
まだ分かんないの?って目で見てくるが、分かるわけもない。
「だから、そんな行き場のない怒りと悲しみが生まれるくらいなら、最初からあんたには手伝わせないで、堂々とあんたを糾弾できる立場にいさせてあげた方がいいっしょ?」
「へ、へー」
何を言ってるのかこれっぽっちも理解できなかったが、取り敢えず適当に相槌を打っておいた。
「あ、私からも一つ質問させて」
「あー、いいけど」
「あんたは、どんな感じ?一昨日の件で、一気に嫌われたんしょ?」
「まーな。正直、殴られたりするんだと思ってた。でもな、今は殴るのさえ嫌だってそんな雰囲気が生まれてるな」
「はぁー。スクールカースト最底辺……いや、カースト外に落ちたってわけね。しかも、最上位の陽川さんには嫌われてる、と」
こうして言葉にされると、本当に笑えない状況なわけだな。
「まあ、なんとかなるだろ」
「ならないっしょ」
「おい、不吉なこと言うな」
「私、もう戻るから」
そう言って、陰山さんは一人階段を降りていく。
でも、陰山さんにはああ言い返したけど、多分俺はこのまま底辺の更に下に、ずっといることになるんだろうな。
中野には嫌われたみたいだし、多分俺はこれから誰とも話すことはなくなるだろう。
しかし、その考えは早速裏切られることとなる。
陰山さんと話した日――金曜日から、土日を挟んだ月曜日。
その昼休みに俺は、一番もう関わりがないだろうと考えていた人物から話しかけることとなった。
「陰山君、先週の水曜日のあれって、もしかして私のためにやったの?」
彼女は――陽川白乃はそう言ってきたのだ。
前回と今回は、消化回になってしまいましたが、次回から再び話が動き出します。
感想と評価とブクマありがとうございます。




