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カースト最底辺ぼっちの俺が、カースト最上位の彼女に嫌われた結果  作者: 男子校でも恋がしたい!
第二章 陰山黒人は犠牲を払う
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第十四話 「頼み事」


「やってくれるか?」


「正直、あなたの言ってることは信用できない。何より、あなたはその計画っていうのの全部を話してくれてない」


「ああ、そうだな。その通りだ。俺とお前が会うのは二回目だし、何より一回目の印象はお互い最悪だったはずだ。その上、俺はこの計画を全部話すこともできない」


「それを知った上で、あなたの言う通りに行動するかどうか決めろっていうのね?」


「その通りだ。やってくれるか?」


 目の前の黒髪の少女は黙り込んだ。


 今は、火曜日の昼休み。場所は、昨日と同じく屋上の扉の前だ。

 そして相手は、以前俺の胸ぐらを掴んで怒鳴り、生徒手帳を落としたあの少女だ。

 昨日ある作戦を思いつき、生徒手帳からクラスを知って、彼女を呼び出した。


 何で昨日作戦を思いついたのに呼び出したのが今日なのかって?いや、作戦を細かいところまで考えてただけだし!別に怖かったわけでも、前に胸ぐらを掴まれたのがトラウマになったわねでもないから!


「……ねぇ、最後に確認していい?」

 長い沈黙を破ったのは、彼女の声だった。俺は、首を縦に振った。

「これは、絶対に白乃のためになるんだよね?」


 難しい質問だ。

 いや、勿論、この作戦は陽川のための作戦だ。とはいえ、この作戦で本当に救えるのかどうかと言われると、少し疑わしい。

 なにせ、この作戦は前とは違い俺一人で考えたものなのだから。そして、自分を完全に信用し切れるかと聞かれれば、頷き難い。


 だとしても、ここは頷くしかない。今は、一番信用ならない人間を信じるしかないのだ。


「ああ、この作戦は、絶対に陽川のためになる」


 そう言うと、黒髪の少女は、うんうんと何度も頷いた。そして、口を開く。

「分かった。やる」


「ありがとう」


「何で、あなたが感謝するのよ?感謝するべきは私でしょう?だから、ありがとう。そして、よろしくお願いします」

 と言って、彼女は俺に頭を下げてきた。


 え。なんだか、いきなりそんなことをされると照れる。

「あ、あの、お、おう。こ、こっちこそよろしく」


 と吃りながらも言い切って、俺は頭を下げた。

 え、何これ?告白し合って晴れて結ばれた二人、みたいな絵面になってるんだけどー?


 その後、彼女に先に行ってもらい、俺は少ししてから下へ降りていった。


 これで、一つ目の準備は完了した。

 後は、陰山さんと中野だけだ。前者は少し難しいかもしれないが、後者は快諾してくれると思う。


 この作戦の大体は、中野と黒髪の子にかかっていると言っても過言ではないだろう。

 いや、もちろん俺も陰山さんも大きな役割を果たすのだが、前提としてあの二人の行動が上手くいかなければ成り立たない。


「あ、すみません」

 俺は階段を降り切った時に誰かにぶつかりそうになり、謝った。考え事をしていて、注意力が散漫になってしまっていた。


「いえ、別に……ってあんたか」


「ん?げ、陰山さん」


「いや、『げ』ってなんだし」


 俺がぶつかりそうになった相手は、陰山さんだったのだ。

 どうしようか。陰山さんにも頼み事はあったが、家ではなくここで話してしまおうか。

 ここで話せば、少なくとも蹴られることはなさそうだし。いや、どうだろう。蹴るかもしれないな……。


「あのな、話があるんだけど……」


 嫌そうな顔をするか、殺さんばかりの顔をするかだと思っていたが、予想は外れて陰山さんは少し呆れ顔だった。


「やっぱりか……」


「は?」


「ねぇ、それって中野先輩にも頼むの?」


「お、おう。え、何?俺が何を頼むか知ってるのか?」

 陰山さんには俺の作戦について一言も話していないはずだ。それとも、知っていると言うのだろうか。


「まあ、さっきある先輩に会って。それで、あんたが陽川さん関係の何かをしてるって」


 ん?どういうことだ?

 さっきの黒髪の子が、陰山さんに自分から話したって言うのか?俺も誰にも話すなとは言っていなかったが、こういうのは普通は話さないだろ!


「あ、違うし。あの先輩が自分から話してきたわけじゃなくて、私の方から聞いたの」


「どうして?」


「あんたと先輩が一緒にいるのが見えたから、何かあったのかとついて来たの。あ、先輩にね」


「あっそ。でも、それじゃあまるでストーカー……」


「あ?」

 陰山さんは、半眼で睨みつけてくる。怖い怖い怖い。

「ああ、もう!話がズレたし。で、あんたは中野先輩にも手伝わせるの?」


「ああ、そのつもりだ」


「なら、私があんたを手伝う条件は、中野先輩にそれを頼まないこと、それだけ」


「は?中野に頼み事をしたら、お前は手伝ってくれないのか?」


「そう言ったでしょ?」


 いや、待て待て待て。

 どうしたらいい?中野がやってくれるはずだったことは、前提条件だ。それがないと成り立たない。

 しかし、陰山さんが手伝ってくれないなら、中野だけが何をしても無意味だ。


 どうすればいい?どっちを取ったって、この作戦は上手くいかないぞ。


「中野先輩に頼むはずだったことは、私じゃできないの?」


 そう言われて、少し考えてみる。

 考えてみれば、できないことはない。しかし、とても難しい。なにせ、これは同じクラスでないとかなりやりにくいのだ。

 クラスが違うどころか、学年が違う陰山さんには無理だろう。


 ならば、同じクラスの中野以外の人は?

 まず俺のクラスの中で、俺が名前を知っているのが陽川と中野と上沢と中上だ。無論、中上と陽川は論外。そして、中野が無理になった。

 なら、上沢か?だが、あいつに頼むのは……


「おい!私ならできる。だから、任せろ」

 そう、いつになく男らしく言ってくるのは、俺の妹(?)である陰山さんだ。


「できる、か?」


「できるし」


「任せるぞ?」


「任せるし。てかさ、なんであんたがそんなに上から目線なわけ?」


「お、おう。悪い」


「まあ、これについては家に帰った後で」

 とだけ言って、陰山さんはくるっと回転し、どこかへ歩いていってしまう。


 不安要素はあるが、なんとかなりそうな気がする。


「あ。そう言えば、何で中野に頼んじゃダメなのか聞くの忘れたな……」



◇◇◇



 少し前から、そんな気はしてた。


 最初におかしいと思ったのは、木曜日。

 私が、陽川さんの話をあいつにした日の夜。なんでか知らないけど、あいつは一晩中なんかの作業をしてた。


 静かになったタイミングを見計らい、入ってみると、あいつの机の上には、なんかよく分からない黒く塗りつぶされた紙があった。

 不気味で不思議だったけど、また中二病にでもかかったのかな、程度に考えていた。


 でも、金曜日にはなぜか神妙な顔で、さらになぜか鞄も持たずに手ぶらで帰ってきた。気になったけど、別に大したことでもなさそうだったから話しかけなかった。


 そして、土曜日。

 緑姉から電話がきて、あいつの電話を教えてって頼まれた。

 そう頼んだ緑姉の声は、どこか不安そうで私も不安になった。


 そして、昨日にも、何か変化がないかどうか緑姉に電話をされた。なんか、昨日の朝、あいつと中上が二人で話していたらしい。


 私も何かおかしいと思っていたから、今日の昼休みにあいつの話を聞こうと思ってた。

 でも、なんでかあいつはパンを買いに行くわけでもなく、他のクラスへと向かった。


 そして、あいつはある先輩を連れて屋上の方へと向かっていった。

 幸運にも、その先輩は私とちょっとした関わりがあったから、少しだけ話を聞くことができた。これ以上は話せないって言われて、あまり聞くことはできなかったけど。


 でも、少し聞いただけで確信した。

 ――あいつは、自分を犠牲にしようとしている


 だから、私はあいつが降りてくるのを待ち、緑姉にあいつが頼み事をする前に、それを阻止した。


 緑姉ならば、作戦の全貌を聞かなくても、あいつに協力するだろう。そして、それがあいつにとっては望ましいはずだ。

 でも、それでは駄目だ。


 あいつは理解できてない。自分も経験者だというのに、理解できていないのだ。


 ――好きな人を自分で傷つけることが、どれだけ辛いのか、あいつには理解できていない。


次回から、合唱コンクール当日です。

当日の話は、結構長いですかね。


感想と評価とブクマ、ありがとうございます!

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