第十一話 「デート」
土曜日。夜の七時を少し過ぎた頃。
俺は、スマホが震え続けるという慣れない状況に戸惑いながらも、俺はスマホを手に持ってみた。
画面に表示されるのは、数字の羅列と、そして二つの電話マークのボタン。
もしや、これが噂に聞く電話というやつか、と思いながら、電話を受け取る方だと思われるボタンを押してみる。
それにしても、誰だろうか。大方、父親は母親だと思うけど。
『あのー、もしもし?』
「な、中野か?」
『ええ。そうよ』
「そ、そうか……」
『……』
「……」
ちょっと待て。
この電話をかけて来たのはどっちか。中野だ。
なら、この沈黙の責任は俺ではなくて、中野にあるはず。てか、電話の沈黙って気まずすぎる。
それよりも、あれ?なんで中野が俺の電話番号知ってるんだ?
そうか、この沈黙を壊すためにも、そこを聞けばいい。
「なぁ」
『ねぇ』
声が重なった。
レディファーストなんて言葉もあるわけだし、ここは譲っておこう。
「何だ?」
大体、向こうは何か用があって電話してきたわけで、さらに俺の方の話はあまり重要でもないし。
あれ?でもこいつが何で俺の電話番号知ってるのかって、結構重要だったりしない?
『あなたから先に言っていいわよ』
「いやいや、お前から」
『いえ、あなたから』
「いやいやいや」
『でも、あなたが』
「あぁ!もういい!俺が聞きたかったのは、何で中野が俺の電話番号を知ってるのかってだけだ」
『なんだ、そんなこと?赤音ちゃんに聞いたのよ』
「あー、なるほど」
でも、あれ?俺って陰山さんと電話番号交換してたっけか?家族とこのレベル、俺そろそろヤバイ。
「で、お前の聞きたいことって?」
『ねぇ、黒人君。あなた、明日暇よね』
俺は、その言葉だけで何か嫌な予感がしたが、ここはまあ正直に答えておく。
「お、おう。暇、だな」
『なら……明日、私と付き合ってくれない?』
ん?は?え?
どういう意味?付き合うっていうと、もしや……いや、明日って言葉がついてるからそう意味ではないはず。
危ない危ない。危うく、変な勘違いをするところだった。
多分、付き合うっていうのは、そのままの意味で明日一緒にどこかへ行くとかそう意味だろう。
あれ?でもそれって、もう変な意味での付き合ってる方々がやる行為では?あ、でもリア充は付き合ってなくても出かけたりするのか。
ん?でも中野は陰キャだし……。
『明日、買い物に付いて来て欲しいのよ』
と、長々と思考したが、結局はそういうことらしかった。
『あ、でも、デートとかそういうわけじゃなくてね!ただの荷物持ちとして。来るわよね?』
いや、ただの荷物持ちとしてって言われて行く奴いないだろ。
「いや、行かない」
電話を切るためほボタンらしきものを押して、俺は通話を終了した。
世の男たちは、あんな風に誘われて荷物持ちに行くのだろうか。大変そうだな。
他人事みたいにそう考えて、俺はなんとなくゲームでもやるか、とアプリを開く。
ちなみに、陽川については、考えても何も出てこなかったので一旦休憩中である。
何も考えずに、ただゲームをやっていると、ドカドカという音が下から聞こえてくる。
「なんだ?」
その呟きから、数秒と経たずに、ドン!という爆音と共に部屋が揺れる。
何事かと思い、その音の発生源であるドアを見やると、ドアの向こうから声が聞こえてきた。
「おい!何を断ってんだ!なんであんたみたいな陰キャが、緑姉のお誘いを断ったのかって聞いてんだよ!ほら!今すぐかけ直して、『すみませんでした。デートに行かせて下さい』って謝れー!」
壊れるんじゃないか、という勢いでドアを蹴り続ける陰山さんは、そう叫んでいた。
「は、はいいいぃぃぃぃ!」
俺は、続く陰山さんの怒号を聞きながら、震える指で中野に再び電話をかけたのだった。
◇◇◇
そして、日曜日。
ここはどこかのショッピングモール。集合場所である入口に立つ中野は、なんだか綺麗な服を着ていて、なんだかとりあえず目立っていたので、すぐに見つけられた。
多分、ここでリア充ならば、シャツがどうとか、ズボンがどうとか分かるのだろうが、俺には、ただ凄い目立ってるということしか分からない。
少しだけ遅れてる、ということもあり、少し駆け足で中野がいるところへと走っていく。
「あ、やっと来たのね。五分遅刻よ」
スマホを見ながら時間を確認した中野は、淡々と俺にそう告げた。その声は、少し棘がある。遅れたことに怒っているのだろう。
しかし俺にも言い訳がある。
「陰山さんにな、そんな服で行くとか侮辱してるのかって怒られて、一から全部着替えさせられた」
「そういうこと。道理で、まともな服を着ていると思ったわ」
「あー、そうですかー」
「行くわよ。今日のあなたは、ただの荷物持ちだからね」
「はいはい」
その後、俺はストーカーであるかように中野の後ろをついて行き、次々に渡される荷物をただ持ち続けていた。
正直な話、面倒だ。
ゆっくりできると考えていた日曜日なのに、なぜか買い物に付き合わされる羽目になっているし、しかも中野は買い物にえらく時間をかけているため、俺は暇を持て余している。
なぜか買う商品を一回一回見せてくるため、座っていることもできない。
かなり疲れる。
まあ、でも、しかし、あまり居心地が悪いようには感じなかった。
というよりも、柄にもなく、楽しいだなんて思ってしまっていたりする。
懐かしいような、楽しいような、嬉しいような、寂しいような……そんか気がしたのだ。
いや、今に限った話ではないのかもしれない。なんだか、中野といるとこう感じることが多い気がする。
なぜそう感じるのか、それは分からない。ただ、あまり知りたくはなかった。
「フードコート、行きましょうか」
突然、中野がそう話しかけて来た。
いや、突然な話でもないか。ただ十二時まであと少しだからご飯を食べよう、という当たり前の話だ。
「ああ。行くか」
俺は、先程同様ただずっと中野の後ろを歩き続ける。多分、中野はフードコートへと向かっているのだろう。
俺は、こんなショッピングモールなんかに来ることがほとんどないから、どこがフードコートなのかはよく分からない。
しかし、たまには来るのだ。そのたまにとは、大体において陰山さんのお使いだ。そして、その時は間違ったものを買って叱られるまでがセットである。
その後、完全に満席状態であったフードコート付近を五分近く歩き回り、ようやく二つの空席を見つけた。
そして、席についてからそれぞれ注文をし、食べ物を席へと持ってくる。
よし食べよう、としたその時、中野は身を乗り出して、こう言ってきた。
「今日あなたを呼んだのは、確かに荷物持ちのためでもある。でも、もう一つ、理由があるのよ」
「そんな気はしてたけど。それで、その理由は?」
「あなた、陽川さんについて色々何かしているでしょう?」
「いや、まだ何もしてない」
「いずれ、するでしょう?」
「かもしれないな」
「それなら、何をするのかじゃなくて、どんなことをしたいのかだけ、教えてくれる?」
「何でだ?」
「何か、取り返しのつかないことになりそうだから」
そう、彼女は悲しそうな微笑みを浮かべて、言ったのだった。
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日曜日のデート回は、あと一話続きます。




