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カースト最底辺ぼっちの俺が、カースト最上位の彼女に嫌われた結果  作者: 男子校でも恋がしたい!
第二章 陰山黒人は犠牲を払う
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第六話 「陽川白乃の本質」


「おい、陽川」


 教室の扉に手をかけたまま、俺は彼女にそう呼びかけた。

 それを受け、彼女は俺の方を振り向く。その驚いたような顔は、俺が話しかけたことについてなのか、はたまた俺がいたことについてなのか。

 後者だとすれば、俺どんだけ影薄いのよ。


「どうかしたの?」


 と、陽川は小さな声で問いかけてくる。


「いや、あの、お前……」


「何か用があって話しかけたんじゃないの?」


「いや、特に……何か用があったわけじゃない。ただ、気付いたら話しかけてた」


「そう」


 とだけ短く返し、陽川は再び前を向いた。とはいっても、彼女の前に何かがあるわけではない。

 誰か立っているわけでもないし、本を読んでいるわけでもスマホをいじっているわけでもない。


 授業終了からの数時間、俺が見ている間はずっとああして前を見ていたが、前を見て何をしているのかは分からない。

 多分何か考え事をしているのだろうが、それならば何について考えているのか……。


「ねぇ、いつまでそこに突っ立っているの?」


「え?あ、ああ」


 そう言われたので、俺はドアを閉め、再び教室内の自分の席へと戻る。


「え?あ、教室に戻ったのね」


 そう言ったということは、陽川は俺が外に出ていくと思って言っていたのか。いや、実際外に出るのがあの場面に置いて普通だったろう。

 しかし、俺は出なかった。特別、陽川に話しかけることもないのに、なぜか俺は外に出なかった。自分でもなぜこんな行動を取ってるのか分からない。


 暫くの間、沈黙が教室を支配する。


 その間、陽川は真っ直ぐと前を見据え、俺はやることもなくぼーっとしている間に眠くなり、船を漕いでいた。


 すると、突然ガタン、という音がして目が覚める。

 これがアニメであれば、鼻から出てる風船らしきものが弾けてる描写があるだろう。それにしても、あの風船みたいなの何なの?鼻水?寝てる間に鼻水を出し入れとか、カオスすぎない?


 音がした方を見ると、陽川が立ち上がっていた。鞄を持っているのを見るに、帰るのだろう。


「ごめんね。起こしたかしら」


「いや、別に構わんけど……。帰んのか?」


「うん」


「なら俺も……」

 と言って、俺も立ち上がり鞄を持った。


 それにしても、俺は何をしてたんだろうか。ただ何か漠然とした苦しさに駆られて陽川に声をかけ、その後ずっと教室にいた。

 自分でも自分が理解できない。それに、これではまるで中野の言う通りストーカーだな。


「ねぇ、陰山君、あなたどうして私に関わるの?」


 陽川は、こちらを見ずにそう問いかけてきた。


「自分でもよく分からない。ただ、なんとなく」


「そう」


 とだけ言って、陽川は立ち去ろうとする。

 これでいいのだろうか。いや、これでいいに決まってる。俺が陽川に関わる理由はない。

 陽川の立場がどれだけ変わろうと、結局俺は被害者で彼女は加害者。別に、俺が気に病む必要はないのだ。


 でも、彼女は謝ったじゃないか。

 あの日、彼女は既に周りの人間と気まずくなっていたはずだ。それでも、ちゃんと謝った。周りにどう思われるか怖かったはずだ。それなのに、ちゃんと謝ってきた。

 それならば、俺はどうするべきなんだ?


 なんて熟考している内に、陽川は既にドアに手をかけている。


 所詮は陽キャ同士の争い。俺のような陰キャには関係がない。なら、もうどうでもいいんじゃ……


 そう思考を放棄しようとした時、頭の中に声が響いた。『また、繰り返すのか?』


「おい、陽川!」


 ドアにかけた手が止まる。そして、陽川は俺の方を振り返った。


「どうかしたの?」


 先刻した会話と全く同じ。しかし、今度の俺は止まらない。あれを繰り返すのは、あの子への冒涜だ。俺が見捨てたあの子への。


「お前!なんで中上なんかの言いなりになってんだ?」


「私が、中上さんの……言いなり?」


「なってるだろ。いや、なってるかは知らん。聞いただけだから。でも、今のお前は前のお前と違うだろ?なんか、こう、積極性がない、というか……」


「積極性がない?」

 首を傾げ、陽川はオウムのように言葉を繰り返す。


「だって、そうだろ?お前には友人が山ほどいた。でも、そいつらに自分から全然話しかけてないだろ?話しかければ、また前みたいに戻れるってのに」


「それは……。そんなこと、ないわ」

 陽川は、顔を背けてそう言った。そして、そのまま言葉を続ける。

「それにしても、あなたはどうして私にそんなことを聞くの?」


「とりあえず、話せよ」


「はぁー。強引ね。まあ、いいわ。誰かに話したかったし。あなたを壁だと思って話すとするわ」


 陽川は、自分の席ではなく、ドアから一番近い席に座った。

 てか、壁ってなんだよ、壁って。


「それで?何が聞きたいの?」


「お前が、どうして中上の言いなりになっているのか」


 陽川は、一度ふーっと息を吐き出した。


「私はね、生まれた頃から怒られたことがなかった。やることなすこと、全て正しかったから」


 お、おう。なんだこいつは。いきなり自画自賛か?


「だからね、あなたの言い分も聞かずにあなたを犯人だと決めつけてしまったわ。私が、自分が間違ってないと思い込んでいたせいで。それは、本当にごめんなさい」


 陽川は、顔を伏せたままで再び謝ってきた。何か言うべきかと迷ったが、何か言い出す前に、陽川は再び言葉を紡ぎ始めた。


「でもね、それから、あなたが私のせいで傷ついてから、自信がなくなったの……。私の間違いであなたが傷ついた。それなら、私の今までの行いは本当に全部正しかったのかなって」


 陽川は、これまで否定されたことがなかった。そして、自分が正しいと思っていた。だからこそ、自分の間違いが一つ見つかったことで、その行為だけでなく自分自身が間違っていると感じてしまったのだ。

 だとしても、なぜそれが中上の言いなりになることに繋がるのか。


「だからね、中上さんの言う通りにするのは楽だったのよ。自分が正しいのかどうか毎回考えずに済む。何より、自分に行動の責任が問われない。だから、こうなってしまったの」


 なるほど。つまり、こいつは自分のせいで俺が傷ついたという事実に耐えられなくなり、中上の言いなりになるという楽な道を選んだわけか。


「ねぇ。それにしても、どうしてこんなことを聞いたの?」


「え?」

 急に冷たくなった陽川の声に、背筋が凍る。


「同情しているの?あなた、同情が一番嫌いだって言っていたのに?」


 これを言われるのは二回目だ。

 一度目は、自分よりも酷い目に遭うだろう上沢を引き止めた時……。


「いや、俺は……」


 何も言い返せない。

 同情。それがさっき俺が話しかけた理由ではないのか、そんな気がしてならない。


「もうやめて」


「え?」


「私も、同情されるのは嫌よ。だから、もうそんな気持ちで私に話しかけないで?あなたみたいな陰キャに同情なんかされたくないのよ!」


「は?」


 なんでいきなりヒステリックになって叫び出したんだ、こいつは?

 俺が呆然としている中、陽川は鞄を持って廊下へと出て行った。帰ったのだろう。


 は?俺は、何か間違ったことを言ったのか?

 陽川の態度の変わりっぷりは異常であった。途中まで素直に彼女の話をしていたのに、いきなりあれだ。

 意味不明すぎる。トイレ行きたかったのかな?


 もしかしたら、俺にあんな話をしていることに途中で後悔したのかもしれない。あるよな、途中で我に帰って死にたくなること。

 それにあの話を聞いたところで、やはり俺にできることはないな、と思ってしまった。なにせ、俺は彼女の言う通り陰キャなのである。


 ならば俺のすべきことは、これまで通りただ何もしないこと……


 その時、俺の頭の中にある声が蘇った。片時も忘れることのなかったあの声が。


『だって私、黒人君に迷惑をかけたくないから』


 儚げな笑みを俺に向けてそう言った、彼女の声が蘇った。


 ああ、違う。そうじゃない。

 陽川白乃は途中で後悔してヒステリックに喚き散らしたわけではない。


 あの子も中々に人気者であったが、あの陽川白乃という女は、全国区での人気者である。

 あの子が俺にだけ迷惑をかけたくないと考えていたのに対し、その上位互換である陽川白乃ならばどう考える?


 俺は、中上の言いなりになっている理由だけを聞き、それだけを知った。だから、俺はなぜ友達との関係を保とうとしていないのかを陽川に聞きそびれた。


 彼女は、陽川白乃はどう考えたか。


 安藤緑が俺だけに抱いていた『迷惑をかけたくない』という思いを、陽川白乃は、全国区の人気者は一人だけではなく、全ての友人に抱いたのではないだろうか。


 陽川は、俺のように他の誰かを傷つけることを恐れた。そして、友人全員と距離を置いたのではないだろうか。


 さらに、俺のような友人とも呼べるか怪しいような人間にも、自分と一緒にいることで危害が及ぶのではと話している最中に考え、それを恐れて最後に突き放したのではないだろうか。

 それにしても、一緒にいることで危害が及ぶと言った時のコナンっぽさは異常。


 今まで俺が考えてきたことは、安藤緑と陽川白乃の本質が同じだという仮定に基づいている。だから、これが真実だという確証はない。


 でも、もし真実ならば……


 俺に、彼女を放っておけるのか?俺は、再びあの子を見捨てられるのか?


 その疑問に、答えが出ることはなかった……



◇◇◇



「いやー、これは張ってた甲斐があったな。このままじゃ、あの陰キャに何か行動されるかな」


 隣の教室で聞き耳を立てていた中上黄花は呟いた。


「そろそろ、次の行動をするとしますか……。陽川、あんただけは絶対に蹴落としてやるからな」


遅くなりましたー。ごめんなさい。しかし、明日はもっと遅くなるかも。最悪、更新できないかもしれません。できるだけ頑張りますが……。


ブクマと評価と感想ありがとうございます。あと、誤字報告じゃんじゃんお願いします。一応、書き終えてから確認はするのですが、たくさん見落としているようなので……。


ちなみに、分かっている方は多いと思いますが、中野は両親が離婚し、苗字が変わっています。元の苗字は安藤です。

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