第十五話 「ぼっちだってたまには勝つ」
「君は、陰山赤音……。と、いうことは……もしかして、君は陰山君の……!」
入ってきた陰山さんの方を見て、上沢は驚きを露わにした。やはりトップカースト、陰山さんのことは知っていたらしい。
「そう、妹。不本意だけど」
「なら、君も僕のことを嵌めたのか……?」
「まあ、そうなるかなー。ま、私は私に被害がでないようにしただけだけどねー」
「それよりも、その手に持ってるのは……」
上沢は、陰山さんが手に持つ物を指差した。それは、マイクである。
「あ、これ?みど……じゃなくて、中野先輩に頼まれたから、言われた通りにしただけ。まあ、私放送部の部長なわけで、多少の融通はきくし?」
「な!て、ていうことは、つまり……」
「今までの会話は、全て全校放送で流されたわけよ、上沢君。陽川さんも、他のあなたの友達も、全員が全てを聞いていたわ」
中野が、陰山さんと上沢の会話に割って入る。それは、まさしく愛する人からの死刑宣告である。
「そ、そんなわけない!だって、ここには聞こえていないからな。嘘なんだろ?脅しているだけなんだろ?」
「ここは、旧校舎だから聞こえないだけよ。黒人君、窓を開けて」
従わない理由もないわけだし、俺は中野に言われたままに窓を開けた。
「あなたの悪事は、学校中が知ったわ」
『あなたの悪事は、学校中が知ったわ』
校庭を挟んでいるため微かだが、新校舎で放送される声が、少し遅れて聞こえてくる。
それを聞いた上沢は、ハハハ、と自嘲げに乾いた笑い声を溢した。
「その通りみたいだね。僕は終わったってわけか」
『その通りみたいだね。僕は終わったってわけか』
「えぇ、そういうことになるわね」
『えぇ、そういうことになるわね』
「まあ、自業自得かな」
『まあ、自業自得かな』
「そうね。って、黒人くん、うるさいから窓閉めて」
『そうね。って、黒人くん、うるさいから』
ピシャリと、俺は窓を閉めた。
「というより、赤音ちゃん、放送止めて」
「わかった」
陰山さんは教室の外に出て行った。中野に言われた通りに、放送を止めに行ったのだろう。
なぜだろう。陰山さんは、中野には従順なようだ。
「僕は教室に戻るよ」
上沢は、重い足取りで歩き出し、陰山さんの後を追うように教室を出ようとした。
「おい。でも、今戻れば……」
今戻れば、上沢は大変なことになる。
そう、元々ぼっちだった俺とは比べ物にならないような、苦痛を受けることになるだろう。
少し前ならばそうなっても、ざまぁみろ程度にしか思わなかっただろうが、真犯人が別にいると分かった今は、同情くらいする。
「君は優しいんだな。でもな、俺は元々こうなるべきだったからいいんだ。それと、同情なんかするなよ。同情されるのが君は嫌いなんだろ?それなのに、同情するのは矛盾しているぞ?」
「確かにそうだが……」
自分でも、おかしなことを言っていることは分かっている。だが、少し前の俺と今の上沢の状況は、とても似通っている。だからこそ、見て見ぬ振りはできない。
「僕を嵌めた犯人は確かに別にいる。でも、君を嵌めたのは他ならぬ僕だ。僕は、報いを受けるべきなんだよ」
「ああ、それもそうだな。なら、存分に報いを受けてくればいいさ」
上沢自身が、そうしたいと言うならば、そうすればいいのだろう。さっきの懺悔を聞いて分かったことだが、彼自身は俺を嵌めたことを深く後悔している。
上沢は、その重い足取りのままで、自分の居場所へと帰って行った。もう消えてしまっているかもしれない、自分の居場所へと……。
「それじゃ、放送は止めたから」
と、そう言いながら、陰山さんがこの教室に戻ってくる。
「そう。やっと終わったのね」
中野は、大きく伸びをして、そう感慨深げに呟いた。
「考えてみれば、あの陽川に嫌われた日から丁度一週間か。長いようで短かったな」
俺は、そう言って床に座り込んだ。今日は緊張のしすぎで疲れた。もう、家に帰って休みたい。
この後の、五、六時間目は、今の出来事でとても注目されるだろう。その事を考えただけで憂鬱だった。
「あ、ごめん。私、そういうの言わないから。なんか、振り返る的なそういうやつ?パスで」
陰山さんは、スマホ片手に興味なさそうにそう言ってくる。
「あっそ。ああ、そう言えばさ、中野」
さっきの流れで、軽くスルーされていたが、少し気になったことがあったのだ。
「何?」
「さっきの、本当か?」
「さっきのって?」
「だ、だからさ。あ、あれだよ」
「あれって?」
中野は、キョトンとした顔で、首を傾げる。
「お前が告白したのが、俺だったっていう、あれ」
恥ずかしいことを言っていることは分かっている。自分でも言ってて、なんだこいつ、と思っている。
しかし、それでも聞かずにはいられなかった。中野は確かに言ったのだ。あの告白は、上沢にしたのではなく、俺に向けてしたのだと。
「え、あ!あのことね。あ、あれはね!あれは……嘘に決まってるでしょ!ほら、上沢もファンがそれなりにいるらしいでしょ?」
中野は、突然慌てだし、よく分からないことをまくし立てる。
「お、おう。だから?」
「だ、だからね!だから、私が偽の告白をして、彼の心を弄んだことになったら、私がいじめられるわけ。だから、元々彼に告白していないことにしたのよ。そこで、丁度近くにいたあなたを使っただけよ」
「あ、ああ。なんだ、それだけか」
ということは、結局あの時の中野は、誰にも告白をしていなかったわけだ。そりゃそうだ。これは上沢を嵌める作戦なのだから。
それにしても、あの告白が演技なのだから、大したものだな。
「えぇ、それだけよ」
「はぁー。緑姉のバカ」
「あ?陰山さん、何か言ったか?」
陰山さんがボソッと呟いたのを聞きつけ、俺はそう聞き返した。
「何も言ってないし。てか、勝手に喋んなし。あんたのせいでどれだけ私が迷惑を受けたと思ってんの?こんな放送部の機材まで使わせて。顧問に絶対怒られるんだけど!」
「わ、悪かった、陰山さん」
「は?ごめんで済んだらポリ公はいらないし!」
いや、そこは警察でいいだろ。ポリ公にしても文字数変わらないんだし。大体、ポリ公っていつの時代のヤンキーだよ。
「ま、まあまあ、赤音ちゃん。機材を使うように頼んだのは、私なのだし、許してくれると助かるわ」
甘いな、中野。陰山さんはこれくらいで、許してくれるほどいい人じゃないんだ。
「みど……中野先輩がそういうならいいけど」
あれ?陰山さんが中野にデレたぞー?
「それにしても、今日がまだ月曜日というのがまた災難よね。これから一週間、色々なことを聞かれるわよ、私たち」
「まあ、俺からしたらクラスの奴らにいじめられるよりは、そっちの方が楽だからな。月曜日で丁度よかった」
中野は告白の件もあり、色々と面倒なことに巻き込まれるだろう。だが、俺の場合は別だ。
元々、あいつらは俺をいじめるためだけに近づいたわけで、俺とは関わりがなかったのだし、それにあいつらも多少の罪悪感を俺に抱えているだろう。
しかし、プライドが無駄に高いリア充共は、俺に謝ることもできない。だから、勝手に気まずい思いをして、勝手に距離を取るのだろう。
経緯は少し違うが、結局は元通りだ。俺の目標は、灰色の高校生活に戻ることである。その目標は、十分達成できたと言えよう。
「なら、俺は戻るぞ。昼飯も食わないとだしな」
「あ、それなら私も」
「私も戻るわー」
と、三人共それぞれ動き出そうとしたその時、
『高校一年A組陰山赤音さん、高校二年D組陰山黒人さん、中野緑さん、校長先生がお呼びです。至急、校長室まで来て下さい』
と、呼び出しがかかったのだ。
それを聞いた途端、俺は顔を青ざめ、陰山さんはなぜか浮かれだし、中野はといえば、深く深くため息をついたのだった。
その後、校長室に呼び出された俺たちが、校長直々に勝手に学校の物を利用したことで、これから四日間の停学になると言い渡されるとは、その時の俺は知る由もなかったのである。
第一章の本編はこれで終わりです。
次回から二話続けて、中野が主人公のおまけ話をいたします。
その後、第二章が始まりますので、お楽しみに。
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これからも、どうか読み続けて下さい。




