第十話 「居間」
はぁーー、と深く、深くため息をついた。
場所は自室、ベッドの上。時刻は夜の十二時だ。
昨日は色々とあった。本格的ないじめが始まり、そして陽川とも直接話した。
結果わかったことは、俺はリコーダーがなくとも陽川に嫌われていたということと、陽川が上沢は犯人ではないと信じ込んでいるため、真実を暴くのは難しいということだけだ。
そんな最悪な状況で、味方は、味方と呼べるかも分からない、自称美少女なぼっちが一人。
今日一日、アニメや漫画を嗜みながら、少し考えてみたものの、正直俺が何をしようとどうにもならない気がする。
それに、これ以上このことについて考えていても、気が滅入るだけだ。
とはいえ、他にやることなんかあるはずもない。
夜中なのだから寝ればいいと思うだろうが、今朝(?)の起床時間が十二時なので、流石にちっとも眠くない。
そんな時、リア充な高校生だったら、友達に『今暇?』とラインを送ったり、一緒にゲームをしたりするのだろう。
だが、断じて俺はリア充な高校生ではない。だから、ラインを送る友達もいなければ、一緒にゲームをする友達もいない。
一人でやるゲームもあるじゃないか、と思うだろうが、そういうゲームは大体がやり込みすぎて、飽きてしまっている。
ちなみに、俺の部屋にあるゲームはかなり多い。任天堂のスイッチなんて、発売してすぐに買った。
理由?そんなの早く遊びたかったからに決まってるでしょ?
本当だよ!本当だから!いや、別に、ゲームをいっぱい持ってたら周りの話についていけるかも、なんて思って買ったわけじゃないんだからね!
まぁ、いいや。そんなわけで、俺の部屋にはゲームがあるが、俺がやりたいゲームは今ない。
さらに、下からは陰山さんの笑い声が聞こえてくるため、下にも降りられない。下に降りたとしても、居間に入ることはできないんだから、何もすることはないんだけどね。
暇だ。
そして、暇だとどうしても学校のことを考えてしまう。そして、学校のことを考えると、全てのことにやる気がなくなり暇になる。そして、暇になると……
これぞまさに負のスパイラル。
いや、このままだと本当に鬱になって自殺しかねない。だから、気分転換しようと思ったが、それならば何をするべきか、とまた新しいことを考えなければならなくなる。
候補としては四つ。
寝るか、アニメを見るか、漫画を読むか、ゲームをするか。
うーん、と唸りながら考えている間に、ふと喉が渇いて、床に置いてあったペットボトルに手を伸ばす。
しかし、それには何も入っていなかった。
そうか、さっき飲み干したのか。
となると、暇つぶしのためではなく、やらなくてはならない事が一つできた。
はぁーー。
そうして、俺は二度目のため息をついたのだった。
◇◇◇
俺は、足音を立てないように気を遣いながら、階段をゆっくりと降りていった。
下には、一匹の猛獣が暮らしているが、尻尾を踏まなければ襲いかかっては来ないはず。
なぜ猛獣の住む下に向かうのかというと、喉が渇いたからだ。
居間に入ることができない俺が、どうやって水分を補給するのか。それは、一階の廊下に置いてある水が入った2Lペットボトルを上に持っていくという方法でだ。
たまに、わざわざ外に出てコンビニに買いにいくことはあるが、それは本当にたまにだ。
ぼっちというのは、大体の場合、インドア派だ。外に出ると、イチャつくカップルだったり、遊んでいる子供達が目に入るから。そして、それを見るたびに虚しくなるから!
もちろん、この俺もその例に漏れず、インドア派だ。
しかも、下に降りるのも危険なため、俺は下に降りる回数を減らそうと、学校帰りに一本ずつペットボトルを上に持って上がってはいる。けれど、昨日は色々あってそれどころではなく忘れていた。
だから、予備のペットボトルが部屋になかったのだ。
しかし、陰山さんがいるからそれを我慢しようとしたのだが……喉の渇きは、意識すれば意識するほど渇いて感じるもので、どうしても我慢できずに降りてきたのだ。
無事に陰山さんには気づかれずに階段を降りきり、廊下を忍び足で進む。
陰山さんの話し声は、まだ居間から聞こえて来る。大方、中で友人と電話でもしているのだろう。
俺は、そのまま2Lペットボトルを掴み、すぐに引き返す。
すると、ガチャッという音がして、中から人が出てくる。
誰か?勿論、陰山さんである。ちょうど電話が終わったようだ。タイミングが悪すぎる。
「……」
「……」
数秒間見つめ合い、俺は逃げるようにそそくさと歩き出した。
そして、階段を二段ほど上がった後、
「……………………ちょっと、待ちなさいよ……」
「なんだよ……」
呼びかけてくる陰山さんに、俺は俯いて小さな声で答える。
「あぁ、もう!こんな事したくないってのに!ほら、あんた入りなさい」
「はぁ?どこに?」
「チッ」
と陰山さんは、わざとらしく大きく舌打ちをし、居間の中を指差す。
「入れ」
「あ?俺が入ると、部屋が汚れるんじゃなかったのか?」
三年前に陰山さんが俺に言ってきた、俺が居間に入ってはいけない理由三箇条(ちなみに、一つしかないから、どこが三箇条なのかは知らない)の中の一つを思い出して言った。
「汚れる。でも、しょうがないわ!私の方が嫌なのよ、あんたを入れるなんて!だから、愚図愚図言ってないで、さっさと入れ」
「お、おう」
俺は居間に入った。実に三年ぶりの居間だ。三年間この家に住んでいたというのに、だ。
三年ぶりだが、中はあまり変わっていないようだ。というより、俺の記憶の中の景色と何一つ変わっていない。
それにしても、どういう風の吹き回しだろうか。陰山さんが俺を居間にいれるとは。
「座りなさい」
俺は、言われた通りに無言で椅子を引いた。すると、
「違うわ。あんたは床よ」
あ、はい。そうですか。まあ、そうだよね。逆に、陰山さんが急に俺に優しくしてきたら、ついに俺は明日殺されるのか、とか覚悟しちゃう所だよ。
ということで、俺は言われた通りに床に正座する。
「それじゃあ、話してみなさい」
「え?何を?」
「はぁー。馬鹿なの?陽川さんのことに決まっているでしょ?ほら、話して」
「全部?」
「全部」
「何で聞くんだ?」
「あんたが陽川に嫌われていると、仮にも妹である私が被害を受けるのよ。だから、あんたと陽川の仲を私が取り持ってあげるわ」
仮じゃありませんよ?血、繋がってますよ?
「あんたのためじゃない。私のためよ!他でもない、私のためにね」
時刻は、既に十二時を回り、日曜日に突入した。
そして、長い一日が始まった。
危ない!一時台に投稿できないところでした!
ブクマと評価、ありがとうございます!




