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第34話 VSうみへび座_集う狩人達

 ルキフェルの言葉は今までの常識とされていた俺の認識をまるっと覆すようなものだ。彼の場合は当たり前に規制されて俺にはノイズに聞こえていた言葉がエルミネの場合にはないらしい。


「伝えたかったことが今のってどう言うことだ?」


「だから、ヒュドラには◼️◼️◼️◼️が有効で…」


「やっぱり聞き取れない……」


「??何の話してるの?規制されないとか聞き取れないとか?」


 エルミネからしたらこちらの言っていることの方が意味不明に思えているのだろう。首を傾げてちんぷんかんぷんな顔をしていた。対してティナは聡いらしく、直ぐに状況を察してエルミネの耳を塞いだ。


「脳筋には関係ない話ですよ。あっち行きましょ」


「やかましい!脳筋じゃないわ、敢えて考えないだけよ!剣心一如!無心の境地!」


 エルミネがティナに押されて出ていく中、俺はこの事態に説明がつく仮説を思いついた。


「なぁ…もしかして、本当にエルミネは何も知らないんじゃないか?」


「いや脳筋だけどエルはそこまで馬鹿ってわけじゃないぞ?」


「そうじゃなくてさ、システム的に弾かれるのはそれをネタバレとして話しているか否かを判断してんじゃないのってこと」


「そんなのありえるのか!?人一人の精神だぞ?」


 ヴォルフは不可能だと思っているようだったが、ルキフェルはそれを否定しなかった。


「なくは…ない。あれがあいつのでまかせじゃなければ、プレイヤーの精神状態から思考まで見極めることはβ時代から出来ていた」


 それは過去にそういった機能を有する敵と戦ったと言うことだ。


「自覚したネタバレか自覚していない単語かはシステムで判断している。ユノはそこまで割り込めないかもしれない。つまり…」


「つまり、エルからヒュドラの情報を引き出すと。それには賛成だけど…それだけじゃないんだろ?」


「お前の心配からして、ヒュドラはただ数が揃えば勝てるようには思えない。勝率は限界まで上げ切って不安要素は全て切り捨てる。それには二人も必要だ」


 ルキフェルが椅子にもたれ掛かると、片手で額を抑えて悩みだす。


「意外だな、すぐに否定すると思ったよ。前はそういってたから…」


 脳裏に浮かんだのは魔王編シナリオクエスト終了直後にルキフェルが呟いた言葉だった。


「俺だってそうしたいけどさ…エルって野生動物並に感はいいんだ。絶対危ないことするって気づいてついてくる。それに…」


 ルキフェルは俺を見据えて付け加える。


「もし俺が止めたせいで皆死んだら悔やんでも悔みきれない。お前達があの夜ティナと会ったから今の俺はここにいるんだ」


 ルキフェルは聞いてるこっちが照れ臭いことを平然と言ってきた。そして、椅子から立ち上がると、覚悟を決めたようで真剣な表情に戻る。


「二人を巻き込むのは嫌だ。でもそれと同じくらいグレイ達が死ぬのも嫌なんだよ。だから…俺が止めることはしないよ」


「…そうか、ありがとな」


 そう言って話し終えた所にタイミング良く木々が踏み抜かれる音が鳴ると、先程から姿が見えなかったヒューガがひょっこりと出てきた。


「僕は何でも良いですよ?もっともっと斬りがいのある人間と出会えるなら何でもします」


「よし、私は武器製作に移るとするか。特にお前さんには使ってほしいのがあるからな」


 一方、ヴォルフは俺に対して新しい武器を作ってくれるようである。とはいえ火力を上げるなら俺以外の誰かに作ってほしいと思ってしまう。今はまだ俺以外が強くなった方が勝率は高くなる。


「俺?アンタレスあるから今は大丈夫だよ?」


 俺がそう言うと、ヴォルフはカラカラと笑い出してそうではないと言う。


「お前さん、本気で脇役に甘んじるつもりか?一度くらいは花形を演じてみたくはないか?」


「あるのか?このクラスでもそれを可能にする武器が」


「ある。どんなものになるかは想像がつくはずだ」


 俺がこの時予想したのは火力に全振りした大弓だった。

アンタレスはボス産だけあって現在でもトップクラスの性能を誇っているが、それでもシンやアイシャ達には敵わない。


そのため、毒を初手とした時の繋ぎから締めまでこなす主力武器は求めていた。

それに、今回のヒュドラは戦う前から全員が『毒』というイメージを抱いている。

倒せば毒関連の強化称号もしくはアイテムが手に入る可能性があると思えば、毒を伸ばす事以上に火力も捨て難くなる。


「お前さんが予想してるの以上のものを作ってやるさ。さてルキフェルといったか?私はヴォルフ。昔この世界に一人娘を置いてきたダメおやじだが、もてる限りの協力は惜しまないつもりだ」


「あなたもか…分かった。エルに良い工房を用意してもらえるよう頼んでみる。ティナ!そこにいるんだろ?エルごとでいいから来てくれ!」


 ルキフェルが誰もいないはずの外に向かって呼びかけると、ロープでぐるぐる巻きになったエルミネを引っ張ってティナが入ってきた。エルミネの口には猿ぐつわなどではなく強引に縄を巻き付けているだけのため、息苦しいのかティナを見る目は友人知人に向けるものではなく殺気が籠っていた。


「ん"も"も"~~~!!!ん"ん"~~!!」


「何ですか何ですか、今度は牛ですか?」


「ん"ん"~ん"、ん"ん"!!」


「えっ?『私は無能な勇者です』?よくわかってますね偉いですよ~」


 ミシミシとロープが軋み始めるが、何らかの魔法で強化されたロープはエルミネの筋力ステータスをもってしても引きちぎることが出来なかった。


「お、おい…ティナ、エルをここから遠ざけるだけで良かったのに何で…」


「ふふっ、私はルキくんの邪魔にならないようにこれをこの部屋から切り離しただけですよ。うふふ」


 何故だろう…ティナのやり口に既視感しかない……


「へぇ、あの子リミアそっくりですね」


 やめて!既視感の正体に気づきたくなかったのに!


「まぁいいや。ティナ、エルのロープを外してあげてくれ。二人に話があるんだ」


 ルキフェルに言われたからかティナは、つまらなそうな顔でロープにかけていた魔法を解除した。その直後にロープはエルミネによって引きちぎられる。すぐさまティナに殴り掛かるかと思ったが、エルミネはむすっとした顔で服についた埃を掃っていた。


「…後で覚えときなさいよ……」


「ふ~ん、今日はルキくんにべったりしよっかな~」


 臨戦態勢に入った二人に向けて話題を逸らそうとルキフェルはヒュドラの話を打ち明けようとする。


「実はこれから……」


「「行く」」


 二人は内容を聞くまでもなく食い気味に行くと答えた。俺としては嬉しいがルキフェルからすれば心配になるだけだろう。


「内容聞かなくていいのか?自分で言うのもあれだけど危険だよ?」


「「だから行く」」


 二人の硬い決心にルキフェルはこれ以上このことでいうことはないと理解したのか諦めたように呟く。


「あぁ…そうですか……」


「で、どうすんの?」


 エルミネからこの先の予定について聞かれたルキフェルは、気を取り直して説明し始めた。


「取り敢えずまずはエルが思うヒュドラを全部グレイに語ってくれ。その間俺とティナでマーロック達に適当な誤魔化しをしておく。その後、エルの権限でヴォルフ用の工房を用意して武器製作。その間にグレイにはやってもらいたいことがある」


「俺に?いいけど、どんなの?」


「それはその時に話すよ。まずはヒュドラについての情報からだ」


「よし、任せて!取り敢えず私の感想を言えばいいんでしょ?あれは燃やすとあと腐れなくてスッキリするの!」


 ルキフェルの話から推察するに、ヒュドラは炎系統の魔法が有効で他の系統でもいいけど少しやりづらくなるってことか。


「まぁ…大体あってるけど。そんな感覚でお前やってたんだな…」


「だから、この脳筋には考えるの『か』の字すら頭の中に残ってないんですよ。感覚とその場のノリで戦い抜いた人ですから」


 ティナが煽り、エルミネがそれに怒って、ルキフェルが何とか宥める。この三人は今までこうやってこの世界で生きてきたからこその関係性が微笑ましい。俺にとっての二人は…シンとアイシャが真っ先に思いつくが、特にアイシャとは獅子座戦以降連絡すら取っていない。


無事にやってればいいのだが……


 そんな思いを抱えながらβテスターの作戦会議は進んでいった。


◇◇◇◇


 一方、同時刻の『レーネ沼』では、多くのプレイヤーが集まっていた。

 ユノによる告知から既に8時間が経過しており、近場であった南側のプレイヤーはほぼ全員が到着していた。他のゲームであれば大抵のプレイヤーはレイドイベントを経験しているものだが、ヒロイズムユートピアとなると話は別になり、一度経験しているヴァルキュリアやアイシャ達が先頭に立って指揮を執っていた。


「予め決めた通りのパーティを組んで、所定の位置についてください。ポーションを作れる錬金術師は本陣で待機。単体回復のみできる神官で低レベルの人はあっちに集まって下さい」


 アイシャが指示を飛ばしていると、突然フレンド通話のアラームが鳴りだした。相手を見ると、それは南プレイヤーの一人で彼には周囲のモンスターを見張ってもらっていた。


「どうしたの?モンスターがこっちに来たの?」


「いえ、先程プレイヤーの集団を見かけました。西エリアからのプレイヤーが間もなくそちらに到着予定です」


「そう、ありがとう」


 アイシャが通話を切り、本陣へと入っていくと三人のプレイヤーが彼女を待っていた。一人は自分と同じ南から来た姉のアオイ、もう一人は中央エリア代表のプレイヤーでここでは初顔合わせとなる岩吉がんきちである。彼は中央エリアに移動したプレイヤー達を纏めてきてくれたらしいのだが、それにしては緊張していた。


「おい、大丈夫か?さっきからガチガチに緊張しているが…」


 アオイが心配そうに尋ねると、岩吉は驚いて飛び上がる。


「ひゃい!す、すみません。自分こういったことは初めてで。本当は他の人がやるべきことなんですけど誰も行かないの一点張りで」


「でしょうね~ちらっと見えたメンツがどいつもこいつも知ってる顔ばっかだったし。あの辺は兵隊気質だから作戦会議に出席とかは嫌いなのよ」


 アイシャが見かけたのはアンナと同類の卒業生たちで、どれも過去何かしらのVRゲームで話題になったプレイヤーばかりだった。そして、魔境MBOに一時期いたことがあるプレイヤーでもあった。そんな彼らがここへ来るはずがないことはアイシャも分かっていた。


「それならいいが…後、そこにいる君は妹の知り合いか?先程少し話しているのを見かけたのだが………」


 アオイが話しかけたのは、ここに来ているプレイヤーの内、東エリア代表の男だった。彼はここに来てからは一切喋らず黙々とメニュー画面をいじっていた。無論、今話しかけたアオイの問いにも無関係であった。


「………アイシャ、この男は大丈夫なのか?」


「ん?あ~なんていうか一応そこそこの付き合いだから人柄は知ってるし大丈夫。いつもやってる検算の時間だと思うから」


 検算とは何のことだ?とアオイは、疑問に思うが付き合いのある妹が言うならとそれ以上突っ込むことはなかった。やがて、検算作業が終わったのかメニュー画面を閉じた彼は顔を上げた。すると、アイシャはこのタイミングで声をかけた。


「それでも貴方がこんなところにくるとは意外だったわ。貴方いつもイベント前には集中したいって言って引き籠るじゃない?どういう風の吹き回し『ラプラス』?」


 ラプラスと呼ばれた青年は、今まで頑なに閉じていた口を開いた。


「…団長だんちょうが僕を代表にした。それだけ……」


「あっそ、それで()()は?」


「天気は晴れで迎える、開始までは雑魚モンスターのいない時間帯。後、実物見ないと断言できないけれど、ヒュドラは序盤首だけ出してくる」


「ありがとう、後は西のメンツがくれば……」


「いや、ちょっと待て!」


「どうしたの、姉さん?」


 アオイが急に声を荒げる中、何がおかしいんだと言わんばかりにアイシャは首を傾げた。それでもアオイは、納得がいかないことがあった。


「何でそんな簡単にこの男が言ったことを信用できるんだ?」


「だってラプラスは……」


 この時、アオイはアイシャが冗談抜きで言っていることがわかってしまった。姉妹の感か、それともそう断言できるほどの何かをこの男から感じとったのか、どちらにしろ噓をつくつもりには見えなかった。


「ラプラスは……予知能力者だから」



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