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第7話 プロフェッショナル 雑用の流儀

 クラン解放戦線に所属する錬金術師兼雑用係である“グレイ”の朝は早い。


 起床した後すぐさまリーダーから頼まれている非効率クエストや未受注の雑用クエストを受注し、片付ける。

 クエストの種類はまちまちだが、街に住むNPCからのクエストは優先的に受注する。

 彼は戦闘メインではない為、パーティーでは足を引っ張る可能性がある、それ以上に戦闘行為を彼は禁止されている。


 だからこういった誰かに押し付けられやすいクエストを彼はやって新規クエスト内容報告やクエスト達成による街の貢献に努めている。

 それは、『ゲーム』世界とは言え閉じ込められた以上は街のNPCとも上手くやっていかないと、何が起こるかわからないからだ。

 特に他の街へ行けない序盤の今だからこそ、こういう事を彼は積極的にやっていく。



 たとえそれがどんな内容であろうとだ。


 そう……どんな………内容………だろうと………


「だからね。あたしゃ向かいのハナさんに言ったんだよ。もう若くないんだから、無理するなって。そしたらハナさんは何て言ったと思う?「こんな傷大したことないんだから心配し過ぎよ」って言うのよ。だけどもうハナさんも若くないじゃない?なのに無理するもんだから膝を痛めて怪我をするのよ。そのことをあたしゃ心配しているのに、もうボケちゃっているのよ。だから無理して診療所に行く羽目になってしまうのよ。それ聞いた時にあたしゃビックリしちまって大慌てで診療所に向かってハナさんを見舞いしたのよ。そしたら凄い元気そうにしてて、また仕事しようとするのよ。だからね………………」


 (もう………これで47ループ目に入ったんだが………いつ………終わるんだ………)


 現在俺が受注している超非効率クエスト『スミさんの話相手』は、1時間以上もの間このおばあさんの話し相手をするという単純なものだ。

 報酬は50ゴールドがもらえる。


 この世界の貨幣単位は、『ゴールド』で統一されているらしく、三食食べて宿で一泊するとかかる費用は、約120ゴールドである。

 この世界は『ゲーム』らしくモンスター討伐するとドロップアイテムだけが残り、そこにゴールドも混じっている。


 クエスト報酬でもゴールドは貰えるため、平均クエスト報酬は、討伐系が1000程度、納品系クエストが300程度,雑用クエストが50程度となっている。

 この中で雑用クエストの報酬が低い理由は簡単だ。

 このタイプのクエストだけ街の外に出る必要がない、つまりモンスターと戦わないからである。

 

 もしも、『ゲーム』であれば、普通にモンスターを狩っていれば自然とお金も溜まり負けてもデスペナルティを受けるだけだ。


 しかし『デスゲーム』であれば、命の危険性がないということで街に引きこもっているプレイヤー達は、生活費のためにこぞって参加する。


 そのため、毎日雑用クエストの一定数は消化されるのだ。そう一定数、全てではない。

 現在地獄を見ているこの様な非効率クエストは誰もやりたがらない。

 そういうのが溜まると街のNPCの態度が変わるらしい。

 これは、シンの要約データに記されていた。

 

 だからこそ、俺は受注しているのだ。

 このクエストの不味い所はいつ終わるかはおばあさんの気分次第、1時間かからないで終わるときもあれば、朝から晩まで同じ話を聞き続けなければならない。


 (………あ、今60ループ目入ったな)


「だからね。あたしゃ………おや、もうこんな時間かい!年寄りの愚痴を聞いてくれてありがとね。あんたはよく来てくれるからあたしゃ嬉しいよ」


 (そうですか‥‥次回からはもっと早く終わって下さい‥‥)


「そうだ!いいもんあげるよ。若いの」


 そう言って渡されたのは、小さなお守りだった。


「あたしには、もう必要のないものだからあんたにあげるよ」


「クエスト達成しました」

「称号:«愚痴聞きのプロ»を獲得しました」


 アナウンスと共に受け取ったお守りには、金色のヘビと黒いヘビが絡んだ紋章のような物が縫われていた。


「あたしが子供の頃に助けてもらった恩人から貰ったもんだよ。大事にしてよ」

「恩人?」

「小さい頃ね、森で迷子になった時その人から貰ったのさ。『()()()()()()()』。どんなに迷ってもこれを握れば必ず帰れるってね」

「へぇ‥ありがとうございます」


 おばあさんにお礼を言いアイシャに報告するためにギルドに戻る。

 ギルドのテーブルを借りて解放戦線のメンバーが集めてきた情報をまとめていたので、反対側に座ると、


「お帰り~何か面白い事でもあった?」


「まぁ、変な称号とアイテムは貰った」


 それを聞いたアイシャは目を丸くし、


「何々!どんな物もらったの?もしかして雑用クエストマスターとかそんな奴?」


「いや、そんなんじゃないんだけど………何というか」


 そう言いつつ先程の出来事を話すと、彼女は腹を抱えて笑いながら、


「あっはっはっは!!!おっかしい!涙でちゃうよ!この二週間ずっと愚痴聞きに行っただけはあるよ。それで愚痴聞きのプロって、しかも大した効果もないんでしょう?」


「そうだよ、もらったお守りも特に効果なしって書かれてたし。ただのもらい損だよ!」


 アイシャは涙をぬぐいながら、


「でもこれで、明らかに効率の悪い雑用クエストを10回近くこなすと何かが起こるって仮説は得られた。もっと他のクエストで検証したら何かいい効果の物が貰えるかもよ?」


「まぁ、それはそうかもしれないけどさ」


「と、いうことであんたは別の非効率雑用クエストをやりなさい。最近、引きこもりから解放戦線に入ってくる人達が増えたから、そっちに行かせるわよ」


「やっと、あれから解放かぁ………次は何のクエスト?あれ眠くなるだけなんだよね」


「ならよかったわね、今度は体を使うクエストよ。『街のどぶさらい』報酬35ゴールドで推定拘束時間6時間の大物よ」





 あっ……………死ぬわ、これ


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