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第17話 雷獄のサジット part【4】

「一回で終わらせる為に深く集中します。時間稼ぎはお願いします」


 軽く自分の命を知り合って間もない二人に預けた北の聖女は、その場に膝をつくと頭を下げ目を閉じた。


「『神の癒し』詠唱開始。天にましわす我らが神よ…」


 そんな彼女を守るように立つ二人の男女は互いの武器を取り出して、迫り来る二人を迎え撃つ。


「終わるまで稼ぎますよーアンナさん、手加減しますけど死なないで下さいねー?」


「義姉さんに範囲技を使わせず且つここに貼り付ける為には…インファイトしかないか…」


 背中合わせのリミアとタオは、すぐ横にいる少女の祈りが終わるまで、互いの目の前にいる人物を近づけさせるわけにはいかなかった。


「『全能の籠手(ゼノ・ガントレット)』…」


「させない、『宝石獣の武器庫カーバンクルコレクション束ねの剣(ガラド)


 タオの手には幾多もの宝石が埋め込まれた銀の剣が現れる。


「『宝石収束スピルオーバー』ガーネットtoタンザナイト」


 赤い一つの宝石が輝き出すとその他の宝石同士も共鳴するかのように光輝き銀の剣を虹の光で覆い包む。

 タオは、その剣を握りしめて飛び込むとクラリスの左腕に向けて振り抜く。


「ッ!」


 虹の光に包まれた剣の軌跡は、白銀の籠手を弾き飛ばす。


「いくら全能の籠手でも12個同時接続したこれなら打ち合える!」


 アンナと戦いながら横目で徐々に押し始めたタオを見るリミアは彼の隠していた武器に疑問を抱く。


(さっき使わなかった時点でどれだけデメリットがあるのか計り知れませんが、この際死んでも抑えてくれてればいいです)


 彼女にとっては、グレイが一番アンナが二番後は皆同じくらいにしか見てないので、タオとクラリスの戦闘はどうなろうと知ったことではない。


「御国の来らんことを、御旨ぎょしの天に行わるる如く…」


「あと半分以上ありますがこれなら行けそうでーす。アンナさん操られた方がなんか弱いですし」


 そう呑気に言うリミアは、幼少期からの付き合いである親友の拳を難なく躱していた。


「スキル…『阿修羅の構え』『雷神の構え』」


「あちゃーフラグでしたかねーそのスキルは面倒くさいんですよー」


 アンナは精神統一するように一呼吸置くと、橙色のオーラを纏い肩から左右に二本ずつ計四本の腕が現れ、先程とは桁違いの速度で踏み込んでくる。


「スキル…『パワースマッシュ』×6」


(多重発動って、それインチキスキルですよ!)


 今更になって泣き言の一つも言いたくなった彼女だが、マリアの前でそんな弱音も吐けず、冷静な顔を装って六本の腕から放たれる連続スキルに対応する。


「…我らが罪を赦し給え…」


「ッ!!」


 何とか二刀流で捌いていたリミアだったが、連続攻撃中急にアンナが向ける顔の方向が自分からマリアにズレるのが見えた。


 同じように離れすぎないよう距離を調節しながら戦っていたタオもクラリスの視線が動くのを見て気づく。


 つられて二人もその方向を向くと、祈りが終盤に差し掛かったことで、膝をつき頭を下げて目を閉じ祈りを捧げるマリアを囲うように白の魔法陣が展開されると、その円は一気に周囲の建物を巻き込んで巨大な魔法陣と化す。

 洗脳状態の二人は、この魔法陣が自分達にとって危険なものだとシャームに植えつけられているのか直ぐにマリアを倒そうと、動き始める。


「やばい、気づいてる!」


「むぅー戦い方は雑なのに最低限の危機回避能力はあるんですねー」


 この時、マリアは真剣に祈りを捧げていた為、極度の集中状態に入っていた。その為二人の声も聞こえず辺りから迫る足音すら聞こえていなかった。


 目を閉じ祈りを捧げる少女に左右から迫る死の拳。それを彼女に触れさせまいと聖女を守るように追うプレイヤー達。


「私を無視してあの子に行くって事は、背中を見せるって事はー追撃してもいいって事でいいんですよねー?」


 アンナの動きに素早く対応したリミアは、飛びつくと後ろから高く振り上げた二本の剣で後頭部目掛けて叩きつける。


 一方、タオはリミア達よりマリアから遠くで戦っていた為ヘイト移動の後動いたクラリスに対し追うではなく射抜くを選ぶ。


「この距離なら踏み込むよりっ!!」


 現れた真っ赤な弓の弦に手をかけて、燃えるよな深紅のエネルギー矢を素早く引き絞る。

 今までの彼ならここでこの武器を出すという選択肢は無かった。


「グレイ、今だから言えるよ…」


 そっと離した指先と連動して、前に撃ち出される弓矢。その一撃は、彼が描いた理想の軌跡をなぞり、寸分違わぬ精度で脚を射抜く。


「教えてくれたのが君で良かった。『宝石獣の武器庫』紅玉弓、スキル『ブレイズバインド』」


「ッ!!」


 脚に刺さると、矢は発火し業火の鎖となって少女を捕縛する。脚がもつれたクラリスはその場に倒れる。


「無駄だよ。全盛期の義姉さんでも1分は壊すのに時間が必要だったんだから」


 安心したタオがクラリスの側に来ると、彼女の左手に装備されたガントレットは今までの宝石の光とは異なり、黒く変化する。

 タオは直ぐに異変に気付く。自分の紅玉弓から炎がガントレットに向けて吸われるように飛んでいったのだ。

 更に、彼女を縛る炎の鎖もバラバラに分解されてガントレットへと吸い込まれていった。


 やがて、何事も無かった様に立つと、詠唱終了間近であるマリアに向けてガントレットを開く。


「エンチャントオブシディア、『八咫鏡ヤタノカガミ』充填完了」


「嘘ッ!?そんなスキル前は持ってなかったはずだ!」


 タオは、慌てて両者の間に割り込み切り札である白銀の剣を取り出す。


「『最期の思い出(デッド・メモリー)』」


 ガントレットから放たれたのは、吸い込まれた炎でも今まで彼女が使ってきた魔法でもなく、何処からか空間を捻じ曲げて呼び出した巨大な拳。

 だが、タオはそれをよく覚えている。目の前で彼女を殺した凶器。


「それ…義姉さんが死んだ…」


「……の鉄槌」


 絶対に止められない。この一撃は彼女の全力を持ってしても太刀打ち出来なかったあの敵の一撃。


 それでも彼女を助ける為にはやるしかない。


「くっそおおおぉぉぉぉ!!」


 近くに居たマリアを守る為に、仲間であるリミアとアンナを巻き込まない為に、そして最愛の女性の為に。


「『宝石収束』コ・イ・ヌール」


 タオの持つ剣が全てダイヤモンドに変化する。更にその変化は彼の右腕の肘までをダイヤモンドに変えてしまう。

 タオは、クラリスに向けて微笑んで言う。


「愛してるよ、だから君に『幸あらんことを』」


 笑顔と共に振るわれたダイヤモンドの剣は、放たれた拳にぶつかると、少女達を守るかのように後ろに巨大なダイヤモンドの壁を作り出し、地面を全てダイヤモンドへと変えていく。


 彼が激しい撃ち合いをする中、光輝く魔法陣の中心地点にて救いの詠唱を終えようとしている少女の姿があった。


「われらを悪より救い給え」


 少女は、最後の一節を口にする。


「アーメン…詠唱終了。術式起動『神の祈り』!」


 その瞬間辺りは白く染まる。


 次に、彼女が目を開けた時、その顔を覗いていたのはかけがえのない一人の少年であった。


「あ…タオくん…」


「義姉さん!」


 タオに強く深く抱きしめられたクラリスは顔を赤くしてしまう。昨日まで素っ気なかったはずの彼がここまで変わる心当たりは一つしかない。


「えーと…やっぱり記憶戻ってるよね…」


「さっき戻ったばかりだけどね。でも、助けられて良かった…」


「そう……て、タオくんさっきのあれって!!」


「あー、記憶あったんだ。気にしなくていいよ」


 クラリスが驚きながら目を向けたのはタオの右腕である。スキル発動後ダイヤモンドへと変化したその腕はダイヤモンドのままになっている。


「バカっ!コ・イ・ヌールの反動は部位永久石化だよ!?一生戻んないんだよ!?」 


「いやー今回は腕だったからいいかなぁって。前は使い過ぎで最後の方口で咥えながら使ってたから…」


 そんな能天気な事を言う彼を少女は怒りたかったが、それより先に言わなければならない事があった。


「あ、あのね、タオくん…私、あの時の返事なんだけど…」


「大丈夫、わかってる。でも答えは終わってから聞かせて」


 そんな二人を眺めていた親子の方も互いに再会を祝おうと、両者少しずつ歩み寄って行われようとしていた。


「おかあ…」


「ハイ、もうストップー!どうでもいい親子の方は後回しにしてさっさとグレイさんの所に戻りますよー」


 二人は抱き合う前に割り込んだ声で、はみ出していた足が止まってしまう。


「そ、そうですね…グレイさん一人で戦ってるんでした…」


「嘘でしょ!?今世紀最高のデレ見れそうだったのに!?」


「はいはい、後でゆっくりやって下さーい。そういうの一つで良いですからー」


 再会を流された二人は、モヤモヤした気持ちのままグレイの所に戻る事になる。



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