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第17話 口先だけの犯罪者たち

 夜の冒険者ギルドにアイシャによって集められたプレイヤー達がそろっていた。

 アイシャは、まずシンから得られた獅子座の情報を話す。


「それじゃあ、獅子座討伐についてだけど、重要アイテムはなさそうだし、このまま当初の作戦で行くわよ。後、予想以上にミュケの街がやられちゃったから、復旧班と討伐班の二つに別れて行動ね」


 アオイは、おずおずと自分達の事を聞く。


「…私達は?」


「ヴァルキュリアは、ミュケの街の復興支援に参加して。元々ミュケの襲撃クエストの為に来てもらってたわけだし」


「え、私達も…「それでいい。私達はそうする」」


 シオンの声を遮りマナロが承諾する。

 シオンは、どうしてなのかとマナロを見るが彼女は、目を合わそうとしない。


「残りは獅子座に向かう。明日の朝行動開始よ」


 会議が終わった後、アイシャ達が離れた冒険者ギルド内で、デッドマンは、ヴァルキュリアに近づいていった。


「よお!除け者。残念だったな」


「別に…私達じゃいても邪魔だって分かっただけだし」


 マナロは諦めた口振りで話すが、デッドマンはどうでもいいかのように、


「何だよ、つまんねえ。結局南エリア最強ってのもうちのガチ勢共(ランカー)が本気出してないから得られた偶然の産物って所か」


「そんな事な…「そうね、多分そう」」


 今度もシオンに対してマナロが被せる。


「私はここから早く解放されたい、でもそれ以上に()()()()()()。シオンがやろうとしてるのは、自殺行為」


「自殺行為何かじゃないよ!私達だって一昨日の大熊座との戦いでレベルは上がったじゃん。なら今度は……」


「傲慢すぎるよ…シオンはあの時何ができたの?グレイさん達の邪魔してただけじゃないの?」


「ッ!それは…」


 シオンは、言い返せず沈黙する。


「私達は足手まといから変わってない。行くべきじゃない」


「…………………」


 シオンは、何も言えない自分が悔しくて、ギルドから走り出してしまう。


「あー、今のは俺が1割くらい悪いな。あの剣士()()()()()から期待してたんだけどな、しゃあねえか」


 そのままマナロもギルドから出ようとする。


「おい、()()()()方。俺は、お前に用事があんだよ」


「何ですか?」


「んだよ、キレんなよ。お前を説得しに来たんだからさあ」


「今、言ったじゃないですか。行きませんよ、私達は」


 デッドマンは、そんな事聞いてないかのように会話を続ける。


「お前らは、獅子座に行っていいと俺は思うぜ。さっきのは、アイシャの過保護だろ。いっそ、お前らダンジョンに先入っちまえよ、事後ならあいつらもとやかく言わないだろ」


「だから、行かないって……」


「お前、ここで行けなきゃ一生行けないぞ?」


 マナロは、急に言われた言葉に思考が停止する。


「こんなにもメンバーがそろってる。一種のボーナスタイムだ、これなら勝てるかもって思考にならず、これでも勝てないかもしれないって考えるのは慎重とか臆病じゃなくて、《《呪い》》みたいに行くのを拒んでるみたいだぞ」


「だって…別に…今行かなくても…何で今なの…」


「そりゃお前、タイムリミットがあるからだよ。これ《《ゲーム》》だぜ?向こうの身体がいつまで生きてられるか、わかんねえじゃん」


 マナロは、既に今現在で一ヶ月はこの世界で過ごしている。

 これが半年、一年と続けば向こうの身体はどうなるか分からない。

 それでも彼女は獅子座にシオン達を行かせたくなかった。

 しかし、周りのメンバー達は違った。


 「私…行きたい。レベルも40近くまで上がった。新しいスキルも増えた。今ならお姉ちゃんと一緒に戦える」


 ルリに続いて、他の三人も行くことに同意し始める。

 マナロにとってこうなる事を予想はしていた。何せ一昨日も戦おうとした人間達だ。

 ならば彼女は、否定する。


「ヴァルキュリアの参加は認めない。皆行こうとするなら私は、この街のプレイヤー全部を使ってでも止める。」


「あー、こりゃ俺よりあいつ向きの折れ方かもしれねえ…」


 彼女の覚悟を決めた眼を見たデッドマンは、そう呟く。


「まあ、なんだ。仲間内で喧嘩してまで来てほしいわけじゃねえから、あんた達はここで復興支援してくれ。この街のプレイヤーは随分と減っちまったからな」


「ええ、そうするわ」


 そうして歩いてギルドを出ていくマナロの後ろ姿を見ているデッドマンは、()()()()()にメッセージを送る。

 送り終わった後、残りの四人の方に向かい、


「良し、取り敢えずは明日あんた達も参加する前提で用意して来てくれ。グレイの妹にもそう言うように。大丈夫、マナロはこっちで何とかする」


(噓は書いてないからな、成功しても俺を恨むなよ…グレイ)


 マナロが宿に向かう道を歩いていると、宿屋の前に一人のプレイヤーが待っている。

 彼は、マナロに気づくと歩いて来る。

 マナロはその人物に開口一番に、用件を聞く。


「何ですか、グレイさん?」


「あー、今から月でも見に行かない?」


 __________


 街外れの丘、ここはグレイがエレネと初めて出会った墓場の近くにあるミュケの街を見渡せる場所である。

 そこに、マナロとグレイは並んで座っていた。


「さっき、シオンに会って聞いたよ。喧嘩したんだって?」


「グレイさんには関係ありません。()()()に誘っといて何の話しかと思えばその事ですか」


 グレイにとって、これはデートなど一切考えておらず、デッドマンからは、『シオンとマナロが喧嘩した。仲直りさせてやってくれ。これはグレイにしか出来ないデリケートな問題だ』とメッセージを受け取っただけである。


 喧嘩の内容は意見の食い違いによるものとしか理解していなかった。

 なので、デートなどと言われると思わず反応してしまう。


「ち、違うぞ!?決してそんなつもりはなくて、ただ、喧嘩するのはまずいよなあって。ほら、ヴァルキュリアはクランでもあるし二人は高校でも友人なんだろ?それなら仲良くなって欲しいって言う兄の我儘というか」


「ふふっ。冗談です。グレイさんにはリミアさんがいますもんね」


「いや…あれは別物なんだけど…」


 リミアとの関係を使われたとはいえ、少しは彼女と打ち解けただろうか。

 マナロとはメトロイアの教会で言い合いになってから話してなかったので、少し心配だったのだ。


「…うん、グレイさんなら話さないとね」


「喧嘩の理由か?」


「というより私がシオンに抱いている罪悪感」


 罪悪感…そういえば、シオンは友達に誘われてこのゲームを始めていたと聞いた。もしや…


「ごめんなさい、シオンをこのゲームに誘ったのは私なんです。あの子を無理矢理に近い形でやらせたのは私なんです。全くやらないのを知ってて、それでも偶にはあの子よりまさっている時間がほしくて誘ったんです。私が悪いんです、私のちっぽけな自己満足の所為で…」


 深呼吸した彼女は、頭を下げながら震える声で話す。

 彼女は、話し終わる頃には、涙声になっていた。


「…………なるほど。そう言う事ね」


 これは、確かにデリケートな部分である。

 大方シオンと責任の押し付け合いでもしたのだろう。どうして、その罪悪感持ってる奴はストーリークエストの決戦前日にその悩みを打ち明けるのかなあ。


「うーん、まあ最終的にシオンがやろうと決めた事だから、そこに関して俺が何かいう事は特にないんだけど…」


「でも…あの子が死んだら……私は………」


「これ、前にも別の奴に言ったんだけど。その場合、恨むのはユノだからね?それに、シオンを危険にさらしたくない気持ちはあるんだけど、あいつから見たらうっとおしいって思われてそうだからなあ」


「そんな事ないです!いつもグレイさんの話をしてますし」


 それはそれで嬉しい事だが、あいつをこのまま庇護すべき妹として見続けていいのだろうか?

 アイシャの奴はアオイさんには何言われても我を通そうとしていた。

 シオンだってそういう風に思ってるんじゃないだろうか?

 最近はそう思うようになっていた。


 しかし、これは兄である俺の話だ。

 直接この世界に誘った彼女の場合はそう簡単に割り切れないのであろう。

 殆どのプレイヤーが自発的にこの世界に来た中で、シオンは彼女が連れてきた被害者だと信じ込んでいる。


「あの子は足手まといなんかじゃなく強いのに…私は………」


 彼女に、俺は気の利いた言葉も言える気がしなかった。

 だが、傍にいて聞いてあげる事は出来る。


「取り敢えずさ、今抱えてる悩み全部出しちゃいなよ。今は俺しかいないから幾らでも泣いていいよ。すっきりするまで、向かい合えるまでここに居るからさ」


 彼女が疲れ果てて眠るまで俺はその場から離れることはなかった。


 _____________


 シオンは、明け方宿屋で獅子座に向け準備をしていた。

 すると突然、ドアがノックされる。

 彼女が入室許可を出すと、ドアが開き二人のプレイヤーが入ってくる。

 シオンは、片方と先日喧嘩に近い言い合いをした為にとても気まずかった。

 もう片方の兄は、この事を知っているはずなのに。何を話すべきか悩んでいると、マナロが先に、話す。


「あのね……シオン。ごめんなさい!」


 彼女は、頭を下げて謝罪する。


「私がね…昨日反対だったのは、シオンをここに自分が巻き込んだ負い目があって、どうしても勝ち目が薄い所に行ってほしくなかったの。昨日傲慢なんて言ったけど本当は私の方がずっとずっと傲慢なの!」


「…なんだ、そういう事だったんだ」


 シオンは、泣いているマナロを抱きしめる。


「いいんだよ、愛奈は変に責任感強くて真面目なんだから。私は、今この瞬間を恨んでないよ。むしろ一人じゃないからこそ《《辛くない》》。皆がいる」


「ごめん、ごめんね…紫音」


 どうやら、二人は仲直り出来たようだ。俺も部屋を出ようとすると、シオンに呼び止められる。


「あの、お兄ちゃん。私達、獅子座討伐に…」


 もう分かっている。

 デッドマンはこれを隠すために、言葉足らずなメッセージを送ったのだろう。

 ここで、彼女達を生還率が極めて低いとされる場所に連れていくのは危険だろう。


 でも、向こう(シオン)だって同じ事を考える。


 結局は、置いて行かれるのと一緒に死ぬのどっちが嫌かの問題。

 例え俺がシオンの足手まといだった世界だとしても彼女と同じことを考えて行動していたはずだ。


 なら、もう答えは決まっている。


「早く準備しろよ。俺は、ギリギリまで寝てるから。アイシャは俺が説得する」


「うん!ありがとう!」


 後ろではしゃぐ妹の声を聴き、この選択は正しいと信じぬく。

 口先だけになるつもりはない。必ず守り抜く、その為の方法(アルクトスの報酬)は既にある。


 これが切り札だ。


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