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第10話 獅子座決戦会議 【上】

王都メトロイアの夜は、昼間よりも活気に沸いていた。理由は、国王と勇者の同時帰還、それに加えて、魔王が討伐された事の情報が出回り街の人々は、宴を開いていた。


 そんな宴の中、古びた教会の中に数人の人影があった。彼らは、お互いに誰かは知っていた。そもそもここに居るということは、あれ(アイシャ)に呼び出されたのだろう。なので呼び出した当人達が来るまでは、そんな奴らと世間話などする必要もないという気持ちで一杯であった。そこに、1人新たに人影がやって来る。その人影が教会の席に座ると全部で9人揃った事になる。彼らの1人が時間を確認すると既に9時を回っており、集合時間を1時間過ぎていた。


 9人目が席に着いた瞬間、教会に灯りがともる。そして、教会の隅の隠し扉が開き中からアイシャが出てきた。待たされていた黒髪の盗賊がイライラした態度で、


「おい、アイシャ(負け犬)!いつまで待たせるつもりだったんだ!」


「黙りなさい、デッドマン(犯罪者)。文句は、すぐに集まらない他の馬鹿共に言って。これで全員ね、なんであんた達時間通りに来れないのよ」


 アイシャの言葉に、50代過ぎの白髪が目立つ老剣士が反論する。


「アイシャ君、私は、集合時間の30分前にはここに居た。そこの犯罪者もどきは、30分遅れて来ていたがね」


「うるせえ!大佐が勝手に、どっか行っちまったから探すのに、時間かかったんだよ!なんで一緒に来てはぐれるんだ。あっちのマゾも着いた瞬間消えちまうし、お前らの方が協調性ないから俺が苦労したんだろうが!」


 会話が飛び火した女性、武器を一切持たない黄色の髪をした剣士は、


「ミルのせいにしないで下さい!犯罪者なんかと一緒にいたら憲兵に捕まるかもしれないじゃないですか。あ……でも、それで拷問されるのもいいかも……いや、ないな。お姉さまじゃないと価値がない……」


 アイシャは、汚物の見るような眼で見下していた。


「ああ!!!!もっと下さい!!!やっぱり素敵です!!!この世界に来てよかったああ!!!」


 離れた席に座っていた、顔の整った青年が話を進めようとアイシャに、


「こんな救いようのないMは置いておいて、アイシャ。シンやグレイはどうしたんだ?まさか君1人だけではないだろう?」


「あの2人は、ちょっとした面倒事を片付けてもらってるのよ。すぐ来るわ」


「なら良いんだ。俺は、シンと決着をつけないといけないことがあるからな」


 3つのリンゴを取り出してジャグリングさせ始めた少年が、青年に聞く。


「JB、またシンさんに勝負を挑むの?今99連敗とかじゃなかった?」


「黙ってくれ、サーカス。俺は今度こそ彼に勝ってみせると決めたんだ。そうしないと、MBOすべての女性プレイヤーがとられてしまう」


「ふーん、女性プレイヤーなんて、そこのネカマが取っていきそうだけど。俺はグレイにいちゃんと遊べればそれでいいや」


 サーカスと呼ばれていた少年は、興味無くなったようで、ジャグリングのリンゴの数を倍に増やす。


「おい、ネカマ野郎!反論しねえのかよ!」


 ネカマ野郎と罵られた女性プレイヤー、ジュノーは、ため息をついて、振り返る。


「あら、ごめんなさい。私、野蛮な男の会話を聞くつもりは、全くなくてね。そもそもここに居る人間がろくな事を喋るように思えないのよ。ねえ、サフラン?」


サフランと呼ばれた少女は、コクコクと頷く。しかし、寝息のようなものが聞こえて来るので寝ているのだろう。


「なんだと!クソ野郎!!外へ出ろや!ぶっ殺してやる!」


 剣吞な雰囲気になっていた時、教会の扉が開き2人の男が入って来る。


「何やってんの、デッドマン?普通ここで人殺しは流石にダメだろ?」


「おお!グレイじゃねえか!前会ったゲームの時とアバターが一切変わんねえな。『シン(幻影)』も久しぶりだな、2年前のイベント以来か?」


 シンは、あからさまに嫌そうな顔をして、


「本当に来てたんだ、デッドマン。頼むからこれ以降は関わんないでくれない?」


「そりゃ無理だな。おれはまだ遊び足りねえんだよ。暫くは、お前らの近くにいれば、色々面白そうな事に巻き込まれそうだ」


 あ、シンが悟った表情してる。もうあきらめてるな。

 アイシャは、これでメンバーが全員揃ったと捉え、話を始めようとする。


「それじゃあ、今集まったメンバーで、やることについてちゃんとした説明を始めるわよ」


「やっとか、アイシャ君。それで、メッセージの通り、次のボスが見つかっているんだったね?」


 大佐の言葉で、その場にいたプレイヤー達に緊張感が戻る。ここに居るプレイヤー達は、アイシャの謎掲示板のタイトルを見て、MBOという魔境出身のみに理解できる言葉を使うことで、連絡を取らせていた。フレンド登録後の最初のメッセージは皆同じで、『2日後中央エリアの王都に集合、時間と細かい場所は、後日連絡。内容は、次のストーリークエスト情報』である。これにつられて集まったのが今回のメンバーだ。


「そうですね、大佐。このメンバーで次のボスに挑もうと「ちょっと待った!」」


 途中で声を遮ったのは、今まで一言も喋らなかった、神官の20代前半の女性プレイヤー。アイシャは、嫌そうな顔で尋ねる。


「何よ、リミア。不満な所でもあるの?」


 リミアと呼ばれた神官は、


「いえ、これではまだメンバーが足りないなーと思いまして、私勝手ながら追加のプレイヤーを呼んだんですよ。入って来て下さーい」


 リミアの声に合わせて教会の門が開き、6人のプレイヤーが入って来る。そのプレイヤー達にアイシャは固まり、俺は目を疑った。

 そこには、『ヴァルキュリア』のメンバー。そして、妹である紫音の姿があった。


 アイシャが沈黙していると、先にPBが動いた。彼は、すぐさま彼女達の前にいき膝まずくと、


「ヴァルキュリアの皆さん、初めまして。南エリア出身のJBです。今日もお美しい」


 こいつ、こんなんだからシンに女性プレイヤー取られてんじゃないのか?それで、女性が簡単に手玉に取れると思ってんのか?

 しかし、JBも顔はいいのだ。VRなんだから当たり前だろ、と言いたくなるがそれでこんな風に接してくると女性側のまんざらでもない顔をする。ほらみろ、半分くらいは、ちょっと顔が赤くなってる。紫音は……よし、セーフ!


 だが、JBはその後紫音の前に行き、


「シオン姫!やはり、私は、貴方が一番です。ああ。可愛らしい体に見合わぬその力強さ。その力強さがより一層貴方の魅力を引き出している!」


 アーカッテニ、アンタレスノスキルガー


 紫音の手に触れようとしたJBの目の前をライトニングレイが通り過ぎる。PBは固まったまま動かなかった。ちっそのまま手の甲にキスしようとしたら頭を打ち抜けたのに。


「どういうつもりだい、グレイ?今、殺気が混ざってたけど」


「別に、気のせいじゃないか?」


 JBと俺は、笑顔で向かい合う。次触れたら絶対当てる。


「マジかよ……グレイが女絡みでJBと揉めるなんて……」


 後ろから馬鹿デッドマンの驚きの声があがる。それまでは黙っていたデッドマンの横に座っていた少女が、聞く。


「…………そんなに驚く事なの?」


「グレイが女関係の事でいざこざを起こすのは、3年前のあれ以来だ」


()()って?」


 2人の話にリミアが入って来る。


「それはですねー、昔私を取り合ってー、グレイさんがもう一人の男性を潰したんですよー。私は、グレイさん一筋なのにー」


 誤解を招く発言やめてくれないかな?見ろよ、紫音の目が俺へ向き軽蔑しているように見える。そこへシンが助け舟を出してくれた。


「いや、シオンちゃん違うからね。あれは、リミアがゲーム内で告白された時にスケープゴートでグレイが彼氏とか言ったせいで、粘着されてたのを追い払っただけだよ。まあ、方法は結構酷かったけど……」


「そ、そうだったんですか……誤解してごめんね、()()()()()


 あ、なんか空気が変わった。JBに問いただされる展開だこれ。しかし、その前にルリが、


「藍那お姉ちゃん……だよね?」


「……知りません、そんな人。誰かと勘違いしていますよ。そもそも私は、あなた達を呼んだ覚えもなければ、来ることも知りませんでした。後者は、リミアのせいですが。なので早急にお帰り下さい」


 アイシャは、ルリの顔を見ずにそれだけ伝えた。彼女は、他人ふりをされた事で目に涙を浮かべ始める。見ていたアオイが、


「ルリ……やっぱりあれは、藍那ではないわ。あの子がこんな冷たい人間のはずがない。ここの事を教えてくれてありがとう、リミア。私達はもう行くよ」


 ヴァルキュリアが教会から出ようとすると、リミアが大声で、


「次のストーリークエストは、北エリアのダンジョンにいるライオンの事らしいですよー。能力は、斬撃無効でー、30人行って生還者1人の超高難度クエストです。もう二度とアイシャさんとは会うことはないかもしれませんがー、それでいいんですかー?」


 彼女達の足が止まる。アイシャは情報を何故か知っていたリミアに、


「あんたなんで知ってんのよ!情報は、広まらない様に抑えていたのに!」


「もしかしてー、気づいてなかったんですかー?『姫』のファンクラブ会員があのエリアにいたことにー。『姫』から情報買えばー、一発ですよ」


 アルテシア、通称『姫』MBOランキング20位の女性プレイヤーだ。彼女は、様々なゲームでアイドル活動をしており、MBOでも熱心なファンの数がいる。よくイベントでは、ファンの数にものを言わせた情報統制と人海戦術で、イベントランキングの上位を独占する。ランキングから分かるように、本人自体も強いため、とあるゲームでは、アルテシア教が生まれている。このゲームでも新たに信者を獲得しているならば、その情報力はチートスペックだ。


「あいつ、私には、ファンが集まんないとか、ヴァルキュリアに持っていかれただの愚痴しか言ってなかった癖に……知らないわよ!あの子のファンの顔全員なんて!」


「そういう問題じゃなくてー。姫ちゃんがやってる時点でー、彼女の所に全ての情報が集まりますよー。だから、この世界で隠し事なんてー、あの子の前では無理なんですって」


 あいつの性格は、やってる事から想像がつきやすいが、情報売買と信者の前とで、異なる性格をしている。信者の前では、あざといキャラを演じ、情報屋として活動する時は、腹黒い性格全開になる。

 

 俺の中では、彼女が来ない理由に想像がつく。


「ここに、来なかったのもそれを知っていたからか。あいつ、今ある情報で、行く価値ないって判断しているって事は、これより良い情報なんか握ってんな」


「なるほど、僕らが獅子座と戦っている間に、そっちを進めようとしているわけか。彼女らしい」


 俺たちが納得しているとアオイがアイシャにつかみかかる。


「ふざけないで!そんな所に今行くなんて、あなた死にたいの!?」


 アイシャは、顔を見ずに答える。


「姉さんには、関係ない……姉さんと私は違う……」


 それで、アオイの怒りは、頂点まで達したのか思いっきりアイシャをひっぱたく。


「あなたが死んだら、ルリがどれだけ泣くと思ってるの!それ以前に私がそんな事許すと思ってる!?こんな世界で私との違いなんか一々考えてんじゃないわよ!!」


 アイシャは、歯ぎしりした後、


「私にはもうこれしか残ってないの!姉さんみたいに人生の成功が約束されてる人種とは、持ってる才能が違うの!何でも持ってる姉さんに、私の気持ちなんてわかるはずがない!どうせ姉さんは、昔から私の事を引き立て役としか思ってなかったんでしょ!だから毎回外に連れ出した!」


 アオイの掴む力が弱くなり、アイシャはその手を払いのける。


「違う……あれは、藍那と一緒に遊べる唯一の時間だったから……」


「私は姉さんとは、違う……もう自分で生き方を決められる。姉さんは、ルリの事だけ守ってくれてればいいわよ。優秀な妹がもう一人いるでしょ」


 アイシャはルリを見ながらそう言い放った。ルリは、もう泣く寸前であった。これ以上は、まずいと止めに入ろうとすると、


「少し落ち着きなさい、アイシャ君。感情的になり過ぎだ。君はここまで感情的になるのは珍しい事だけど、あの『クリミアの悪魔』が君をからかうためだけに彼女達を連れてきたとは、考えづらいんじゃないかな?」


「大佐は、よくわかってますねー。そーですよ、アイシャお嬢様。今回のクエストはー、数が重要なんです。姫ちゃんはー、もう既に、動いてもらってます」


 姫がいない理由は、どうやら彼女の仕業だったらしい。


「リミア、数が重要って言ってたけど、何かこれから起こるのか?」


 彼女は、自慢げな顔で、


「流石グレイさん、話が早い所大好きです!実はー、姫ちゃんの所に集まった情報をまとめるとー、数日中に北エリアの街が消えるんじゃないかって予測してます」




 は?


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