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第20話 唯一無二の希望

 ≪北エリア  始原都市ヘネロポリス≫-グラフィラス森林地帯 最深部

 遭難2日目 10:00


 俺達はグラ・マンティスの巣窟と思わしき方向へ進んでいた。予想通り、辺りはグラ・マンティスがうろついており、出来るだけ避けるために小石を投げて気を逸らしながら進んでいた。一体でも戦闘になればタイムロスは免れない。こればかりは、天運と気配に敏感な設定にしていないことをユノに祈るばかりであった。

 午前10時を回った頃、先行していたシンが歩みを止めて振り返る。


「‥あ、変わった。奥地に戻ってる」

「本当か!?」

「グレイもマップ見て。予想は当たってたみたいだよ」


 俺は期待を込めてマップを開く。すると、現在地情報は最深部から奥地へと切り替わっていた。


「ふう‥まずは第一関門突破だ‥」

「最悪からは抜け出せたかな?」


 シンと共に一度はこの湧き上がる喜びを分かち合おうとするも、ふと彼女が視界に入り、そんな考えは早すぎたことを悟る。


「いや、奥地から出るまで終わらない。奥地はマップすら埋まってない」

「そうだった‥最深部よりも気が抜けないね‥‥」

「あぁ、ここからが本当の勝負になる」


 ◇◇◇◇


≪北エリア  始原都市ヘネロポリス≫-グラフィラス森林地帯 奥地

 遭難2日目 15:00


 奥地を探索し始めて早5時間。突入した時と真逆の東に向けて進んでいた。

 だが、現在地は奥地から一向に更新されない。

 最初は警戒し過ぎて進行が緩やかになった所為だと思っていた。それは、あの嵐で再び遭難しないように周囲の警戒は最深部以上に徹底していたからだ。


「ねぇ‥ここ、さっきも来なかった?」


 俺の前を歩いていたアイシャが辺りを見渡しながら立ち止まる。


「ほら、あの枝が一本大きく逸れた木。歪な形だったから覚えてたの」


 彼女は一本の木を指さす。シンと俺も周囲を念入りに見ていたからか、その木には見覚えがあった。


「シン‥俺もアイシャに同感‥あれ、さっき見た」

「僕も覚えてる。戻って来ちゃったのかな?所々、モンスター避けに回り道してたしあり得るかも」

「マップどんな感じなの?」


 同じ所に戻ってしまったなら、マップの埋め具合でどこで間違えてしまったのか確認できる。

 俺はマップを開いて歩いた道のりを調べると、横道に逸れてはいたが進行方向は確かに東で、新規マップを進んでいた。


「正しい‥な。ユノが木のモデルを使い回してるだけか?」

「否定は出来ないよね。これだけ広大なマップで一つ一つ個性を出すのは手間がかかり過ぎる」

「じゃあ、私の見間違いね。ごめんなさい、時間を取らせて」


 その時は、それが話が終わり、また森の中を歩き始めた。


≪北エリア  始原都市ヘネロポリス≫-グラフィラス森林地帯 奥地

 遭難2日目 17:00


「いやいや、あの木さっきも絶対見たやつだ!風景まで一緒だって、何なら手前の道も一緒だった!」

「僕らの中に映像記憶持ち居ないから断言出来ないけど‥これは僕も見た光景だと思う」


 先程よりも歩くペースを上げ、休憩も減らして来たはずなのに、眼前には枝が大きく逸れた木が存在していた。


「マップはやっぱり未開拓エリアを突き進んでるね‥なら、可能性としてあり得るのは‥‥」

「特殊条件で入退室が決まる隠しエリア。随分と面倒な場所に来ちゃったな」


 多くのゲームには隠された通路や秘密のアイテムで開放される隠しエリアが存在する。

 隠しエリアに入る条件は物によって様々で、いくつものフラグを建てた上で入れる場合もある。

 更には、アイテムの使用により、エリアの出入りが可能になることもあった。


「何か見落としてそうね‥突入時もしくはミュケのアイテムが鍵かしら?」

「ここに入っていった人達と共通の何かが鍵なんだと思う」


 シンの言葉を聞いて、突入時の記憶を何とか思い出す。


(確か‥‥あの時、熊型モンスターを倒して‥それで‥‥)


 脳裏に一つの出来事が思い浮かぶ。ここに行く前にアイシャから聞いた話、60ループ愚痴を聞き続けた報酬、突入時の状況、これらを組み合わせると共通した単語が出てくる。


「シン‥アイシャ、一つ、一つだけ僅かな可能性がある‥‥光るモンスターの話覚えてるか?」

「あったわね、そんなの‥待って、あれがそうなの!?」


 アイシャは俺が言いたいことを理解したみたいだが、にわかには信じられないといった表情である。


「光るモンスターって消えた人達が呟いた言葉?確かに、あの時もグレイは光について言及したけど、僕は見てないよ?」

「‥パーティで一人見れればいいのかも。私達3人の内、一人だけ転移したら強制解散されるから、纏めて全員引き入れる仕組みってこと」


 見つけた当人だけを奥地に招き入れると他のプレイヤーが直ぐに気づき、場合によっては隠しエリアの存在が成り立たなくなると危惧したユノの仕業か。

 どちらにしろ、俺と彼らの共通点はこれしかなく、他は既に意味がない。


「でも‥あぁそっか。消えた人達とグレイの共通点はもう調べようがない。なら、そこに賭けるしかないのか」

「アイシャには話したが、以前おばあさんの愚痴を聞き続けた時、称号ついでに聞いたんだ。光を辿れば迷子から抜け出せるって。もし、その光が見つかれば、ここから出る手段に繋がるかもしれない」


 しかし、シンは俺の考えに重大な欠点があると指摘する。


「でも、グレイ。どうやってそのモンスターを見つけるの?突入時に一瞬しか見えなかったんでしょ。あれから見たって聞かないし‥」

「それは‥‥むぅ‥確かに‥‥」


 未だに光が横目に映ることのない現実に、希望の光は徐々に曇っていく。

 それを聞いていたアイシャが大胆な事を呟く。


()()()待てば‥」


 彼女の提案にシンが眉をひそめて聞き返す。


「冗談でしょ?」

「いいえ、冗談じゃないわ。目視での確率が高めるにはこれしかない。一か八かの賭けだけど、今のままダラダラと歩き続けるよりは、脱出の可能性がある」


 賛同してくれたのは嬉しいが、一番のリスクは彼女が背負うことになる。

 シンが渋っているのは彼女の身を案じているからだ。だからこそ、ここは間違えられない。

 俺は、彼女の眼を見て尋ねる。


「これは、お前の余命を縮めて行う作戦だ。見つからなかったら詰みだぞ?」

「希望も見えないまま歩き続けるよりマシよ。私は貴方の策を選びます。たとえ、私だけ間に合わなくても、希望を見つけた貴方を友として誇りに思う」


 シンはアイシャが覚悟決めたのを見て目を閉じて引き下がる。


「はぁ‥分かった。君がそう言うなら僕は止めないよ」


 その言葉の後、瞼を上げた彼の瞳には成功させるという確固たる意志が灯る。


「正真正銘のラストチャンスだ。絶対に掴み取る、何があってもだ」


 必ず、この地獄から脱出してみせる。


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