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第15話 《私は必ず忘れない》

 ≪北エリア 始原都市ヘロポネソス≫-始まりの街ミュケ 冥王の墓地


 翌日の朝、俺は日課である墓掃除をしていた。

 昨日決まった森林エリアの調査出発は昼過ぎなので、それまでは普段通りの行動で時間つぶしをしていた。

 因みに、アイシャは朝ギルドにやってきた解放戦線のメンバーに対して時間稼ぎの説明をしていた。


「今回の獅子座には、弱点となるキーアイテムかキーNPCが存在している可能性が非常に高いわ。だから皆は、今日一日街のNPCから情報を集めて。私も今日は、外で謎のNPCに会えないか探してみるから」


 そう指示を出して彼らを自分達の行動から目を外すための行動をさせた。

 問題のライオットには数日後に遠征する予定でそれまではレベル上げが重要だと吹込み、北の方で狩りに行かせている。


「そして、今回のゲームでは弓からスタートか‥まぁ、下手ではないからいけるでしょ‥」


 今回俺は、弓矢を使った後方支援をすることに決まっていた。

 攻撃力に期待できない人間としては、どの武器を使った所で大差ないが、同行するアイシャは魔導士なので物理的な後方支援が求められた。

 結局、パーティ人数は3人なので、調査中に予想外の事態が起きた場合の対処方法や、今回のパーティでの連携を掃除しながら考えていた。


「高レベルモンスターが出たらシンを囮に時間を稼いで‥マッピングはアイシャの方が上手か‥いや、そう思わせておけばやらなくて済むし‥連携はシンがタンク兼アタッカー、アイシャがサブアタ、俺は可能なら狙い撃ち‥」


 ブツブツと呟きながら掃除していると、背後から透き通った声で呼びかけられる。


「ねえ、あなたがグレイ?」


 急に声をかけられ驚きながら振り返ると、そこには長い黒髪を肩にかけ宝石のような黄金色の瞳をした少女が明るい表情で立っていた。ただ、神秘的で綺麗としか表現できない子だった。

 何も言えず俺が呆けていると、予想外の反応だったのか彼女は慌て始める。


「あ、あれ?もしかして違う人?おかしいなぁ。あの子からここで助けてもらったって聞いたし、毎日この時間はここに居るとも街の人から聞いてたんだけど」

「あ、ごめん。ちょっと驚いてて。俺がグレイで合ってるよ」


 それを聞いたその子は、安心したようで天使のような笑みを見せる。


「よかったぁ。早くお礼を言わないとって思ってたから」


 彼女のような女性から礼を言われるのは男冥利に尽きるというものだが、生憎あの子とやらに心当たりがない。


「えぇと、さっき言ってたあの子って誰の事?ここでプレイヤーには会ってないと思うけど」

「あぁ助けてもらったのはプレイヤーじゃないよ。ちょっと待ってね。『召喚(サモン)』サビーク」


 すると、彼女の首に巻きつくように見覚えのある黒いヘビが現れる。


「ああ、そのヘビの事か!良かった。あの後見かけないから、ちょっと心配だったんだよ」

「ごめんなさい。私が見つけた時にはもう回復してたしこの子も何にも言ってなかったから‥昨日、いきなりこの子が報告してきて焦っちゃって」


 そういえば、彼女は『召喚』と言っていた。

 このスキルは、召喚士のクラスが最初に使えるようになるスキルのはずだ。


「召喚が使えるってことは、召喚士なんだ。そのサビークってヘビが相棒なんだね」


 話を続けようとして聞くと、彼女はちょっと困った表情をして頬を掻く。


「いや~この子は‥その、何というか‥‥成り行きで連れているだけで」


 対するヘビの方は身体を起こして頭で少女の顔をつつき何かを訴えている。

 第三者には聞こえない主従関係間での会話があるのか2人は会話し始める。


「ちょ‥何、つつかないで。え?今は関係ないでしょ‥今日はお礼しに来たの」


 ヘビは渋々納得したようで、俺に向かって頭を下げる。

 一連のヘビの行動を見届けた少女は、ポケットから一本の()を取り出した。


「今、渡せるお礼の品がこれしかないんだけど‥ごめんね」

「いや‥そこまで大層なことしたわけじゃないって!」


 照れ隠しで答えていると、彼女の声色が一段と淑やかになる。


「‥ううん。君がしたことは立派なことだよ。少なくとも私は必ず忘れない‥」


 そう言って、彼女は牙を俺に渡す。手に持った触り心地はツルツルとした普通の牙である。


「どうも‥あの、これって‥」

()()()、だよ?ふふっ大事に使ってね」


 小悪魔っぽく笑う彼女に俺も釣られて笑ってしまう。


「分かった。大事に使う」

「それで良し。じゃあもう行くね?」


 やるべき事はやった為か彼女はここから去ろうとする。

 俺は、慌てて彼女を呼び止めた。


「ちょっと待って!そうだ‥君の名前は?」


 その問いに彼女は歩みを止めて振り返り柔らかな笑顔で答えた。


「私は、エレネ。世界最強の召喚士、だよ」

「世界最強‥ははっ君ならなれそう」

「ふふん、そうでしょうとも。じゃあね、また会おうグレイ!」


 彼女が去った後、貰った牙を調べると何やら変わった説明が記されていた。


「名前:サビークの牙」

「効果:ちゃんと恩を返す。一発逆転の切り札として使え」


 (効果説明おかしいだろ!ていうかあのヘビの牙かよ!)


 どう使えば良いのか悩んでいると、時刻を告げるアラーム音が鳴り出す。

 それを聞いた俺がメニュー画面から時間を見ると既に出発の時刻になっていた。


「やばっ遅刻だ!」


 慌てて掃除を終わらせた俺は、墓地を出て街を駆け抜けて2人との集合場所であるミュケの西門に向かった。


 ◇◇◇◇


 墓地から少し離れた丘の上。そこから走って西門へ向かうグレイを見ていたエレネは、誰に言うわけでもなく呟いた。


「ちゃんとあいつを倒してね、グレイ」


 彼女の首に巻き付いているヘビは、再び頭でつついて何か訴え始める。


「大丈夫だよ。()()()()()()()()。今回で全て‥終わらせる」


 決意を述べた後、彼女の黄金色の瞳は()()変化し、魔法陣から取り出した黒いローブを身に着けていた装備の上から羽織る。

 彼女は黒のフードを顔が隠れるまで深く被り口元を布地で隠すと『テレポート』と言い、次なる目的地へ向けて転移していった。



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