障子に耳あり、襖に目あり。
がみつばさ(がみくん)の告白により、羽上の居所を突き止めたい分子。
はっきり言って、誰が来ようと気にしない花菜。
早く解放されたい上。
三人がリビングでのんびり(嘘)していた時、その外では、他の「一族」達が聞き耳を立てていた。
「がみくんはさ、どうしてあたしを殺そうとしたの?っていうか、あれワザと矢をそらしてたでしょ。」
「いやはや、なんというか、その。だな。やはり、奇襲をかけるのは気が引けてな…」
「二人とも、お喋りはそこまでにしたら?論点がズレてなくって?」
襖からこのような会話を聞いているもの達がいた。
「……聞こえてませんよね?こっちの音。……わわ。危ないって。…さりげなーくあの人達の会話に混ざることは、できないでしょうか?」
そう、こしょこしょ話すのは告村分母である。
「無理っぽい。自分の立場とあの人達の立場。考えて。私たちこれでも、不法侵入してるワケだし。見つかったら、花菜様はまだしも、我らがリーダーに締められるよ。色んな意味で。」
分母の問い掛けに応じているのは、同じく告村の一員である、告村部分である。
見た目、幼い体躯である二人だが、これでも、二十代の年齢である。この二人とて、例外ではなく、半神もしくは半神に近い半人である。
「全く持って未だに信じられない。あの、現在の女傑ともあろう方が、自分を殺そうとした者を自らのテリトリーに入れようとは…やはり、あの人って天才だか、バカだか、わからない。」
「ちょっと待って下さい。いま、なんとおっしゃっていました?」
怪訝そうな顔で顔を見つめ合う幼女二人(見た目だけ)は、しばらくフリーズした。
そして、沈黙を破って話したのは部分の方だった。
「だから、バカと天才は紙一重ってこと。要点だけまとめると。」
「はあ!?アンタがそれをいいますか?こんの!バカはアンタだ。この片割れが!」
突然、分母がぷっつんした。
焦ったのは、部分である。
「ちょっ。そんな大声出したら、バレッ…」
「ん?なんか、招かれざる客が居るみたいだね。」
花菜は、箪笥の前に歩いて行って襖に手をかけた…
ストーーンッ。どんっ。
案の定、襖が勢いよく開けられた。
「あ…」
「だから言ったのに…これだから分母は…」
花菜は満面の笑みで二人の珍客に対して言った。
「…黙っててあげよっか?あの二人に。」
分子と上に聞こえない、見えない位置に、花菜は二人を隠す。
「ただし、条件があるよー。耳の穴かっぽじって聞きな。」
二人は、明らかに立場も経験も単純な強さもはるかに上の花菜の話を聞くしかなかった。
「明日から、あの二人の事に口出さないこと。分かった?」
「何故ですか?花菜様?二人きりにしては、分子の身が危険では?」
花菜は、続けた。
「んーとね。多分ね、あの二人は恋仲になる。間違いなくね。」
衝撃を受けて、二人は固まった。
じゃっ。
襖がさーーっと、閉じられた。
二人は、正気に戻ってまた、襖を開けようとする。
しかし、何か障害物的なものが置かれていて、開かない。
二人は、やっと口が動かない事に気づいた。
まさか。あの人。あの声をまた使ったのか?
声操。
一族式秘術のひとつ。
その声を聞くと、脳に直接発した言葉が届く。いわば、暗示の類いのものだが、極めれば、任意の対象を思い通りに動かすことも、可能である。
二人は蛇に睨まれたカエルのように、動かなくなったのは、このためだ。
[これじゃ、あと五分は動けないな。]
部分は至って冷静だったのだが、分母の方は違った。
体をバタバタして失神していた。
[はあ。また、運んでかなきゃなのか…]
分母は声操にたえきられなかったのである。
部分は大人しくする事にした。
はあー。疲れた。
もう、声操は解けていたが、部分はゆっくり、ふて寝することにした。
三人がガヤガヤやっているのを耳にしながら、部分は深い眠りに就いた。
壁に耳あり障子に目あり。
次は、バレないように、聞き耳を立てようとしようと決意する分母。
もう、めんどくさいと諦めた部分。
この幼女体形二人は、告村の女傑に後でこっ酷く叱られた模様。
はあ、これだから、過保護な家族は困る。