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影響3 地球最後のホッキョクグマ

 連日熱帯夜、さらには最高気温が40℃以上を記録した夏がやっと終わり、最高気温がやっと30℃くらいになった秋のある日、僕は地球の星動物園にやってきた。

 ライオンやゾウなどを順番に見ながら園内を歩き回っているうちに、僕はホッキョクグマのいる場所にやってきた。

 暑い夏が相当こたえたのだろうか、動きは鈍く、どこか元気がなさそうに見えた。

 それとも、おりの中に1頭しかいなくて寂しいのだろうか。

 気にしながら歩いていると、このクマについての解説があった。


 名前はシキミ。性別はメス。生まれは北極海で、小さい頃に人の手によって救助され、以後この動物園で暮らしています。


 数メートル離れたところには、別の解説書が掲示されていた。


 ここで飼育されているシキミは、地球上に残ったホッキョクグマの最後の1頭です。

 彼女が亡くなれば、ホッキョクグマは絶滅し、永久にこの地上から姿を消すことになります。

 その前に、どうか彼女の姿を目に焼き付けておいて下さい。


 それを読んで、僕の心は大きく揺さぶられ、次第に申し訳ない気持ちが込み上げてきた。

 僕達が便利な生活を追い求めたばかりに、このような代償をホッキョクグマをはじめ、たくさんの動植物達に背負わせてしまったからだ。


 今から15年前に、地球温暖化のため、北極海の氷はとうとう全て解けてしまった。

 そのために、ホッキョクグマは自分達の住む場所を失い、絶滅の危機に陥ってしまった。

 そんな時、世界各国の人達が何とか絶滅を阻止したいと立ち上がり、北極海に出向いて、たくさんのホッキョクグマ達を助けあげてきた。

 ここにいるシキミもその中の1頭だった。

 しかしそれから間もなく、ニュースで助け出された者達をのぞいて、野性のホッキョクグマは絶滅したという報道が流れた。

 もう、彼らに戻るべきふるさとはなかった。

 これからはホッキョクグマと言えば、動物園のおりの中でしか見ることが出来ない存在となってしまった。

 これからはヒトの手によって数を増やしていくしかなかった。

 ただでさえ地球温暖化のために、ヒトの分の食料を確保することも大変な状況であったが、動物保護団体の人達は、あらゆる手を尽くし、繁殖のための活動を続けた。

 この地球の星動物園でも、何とかして繁殖を成功させようと、オスとメスが2頭ずつ割り当てられ、育てられていた。

 しかしこの場所は、夏の気温が40℃以上にも達する場所だ。

 本来ならば北極に住むべきクマ達がこのような環境の下で生きることは、過酷なことだった。

 その暑さに耐え切れなかったのだろう、1年もしないうちに、オスとメスが1頭ずつ、相次いで亡くなってしまった。

 その時、動物保護団体の人達から何とかして数を増やすようにと頼まれていた飼育員の人達は、相当残念がっていた。


 それでも、その年には、もう一つのペアの間には赤ちゃんが生まれ、一つの希望がわいてきた。

 そのクマはオスだったので、幼いメスのクマがいる別の動物園と連絡を取り、将来的には一緒に住まわせようと動き出した。

 しかし、そのオスはやはり夏の暑さのために、わずか1年半の短い生涯を閉じてしまった。

 飼育員の人達は、誰もが肩を落とし、悲しんだそうだ。

 その様子は、ニュースの中でも流されていた。

 そして、世界に生息する残りの頭数がだんだん減っていく度に、僕達もその度に悔しい気持ちでいっぱいになった。


 その後も何とかして繁殖させようという試みは行われたが、どこもうまくいかなかった。

 やはり気候が違いすぎたのだろうか。


 プロジェクトが一向に進まない中、地球の星動物園に一緒にいたオスのクマも亡くなってしまい、とうとうこの動物園には、シキミだけになってしまった。

 その時、ニュースでは残りの頭数があと1になったことも併せて報道された。

 それは、彼女がこの地球上に残された最後のホッキョクグマであることを意味していた。

 彼女しかいない以上、もう繁殖をする方法はどこにもなかった。

 僕達に出来ることは、もはやシキミが1日でも長く生きつづけることを祈るしかなかった。

 出来れば永久に生きつづけてほしかった。

 もしも不老不死の薬があれば、彼女に投与してみたかった。

 道徳違反だということは分かっているけれど、もしもクローン技術によって、動物達を増やすことが出来るのならば、この時ばかりはやってみたかった。

 しかし、それは所詮、幻想に過ぎないことだった。

 いくら願ったところで、もう出来ることは残されていなかった。


 それから1年後、ニュースで悲しい知らせが届いた。

 来てほしくはなかったが、ついにその日は来てしまった。

 その日、日本中が、いや世界中が悲しみに沈み、シキミの死を悼んだ。


 次の土曜日、僕はまた地球の星動物園に足を運んだ。

 入口には剥製となったシキミが立っていた。

 もう2度と動き出すことのないそのクマは、悲しげな表情をしながら、我々人類が犯した、永久に許されることのない罪の重さと、地球温暖化の恐ろしさを訴え続けていた。

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