表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/12

影響11 エネルギー問題

 今日本では、化石燃料に代わるエネルギーの確保が大きな課題となっていた。

 日本は21世紀初頭、京都議定書での約束を果たせなかった。

 さらには2050年までに二酸化炭素排出量を半分以下にするという目標も、結局夢物語に終わってしまった。

 しかしそのような状態になっても、日本国民一人あたりの二酸化炭素排出量は依然高いままの状態を維持していた。


 そんなある日、政府は何とかして国民が必要としているエネルギーを確保するために、ホームページを通じて次のような発表をした。

「これから地球温暖化を防止しながらエネルギーを確保するためには、植物を有効活用するのが一番だと思います。植物は光合成によって二酸化炭素を吸収し、私達はそれを木炭やバイオエタノールとして利用します。そのため、地下に長いこと埋もれたままになっていた化石燃料とは違い、二酸化炭素は増えない計算になります。」

 しかし、それから間もなく、ホームページのご意見欄にはその発表に反論する意見が書き込まれた。

「そんなことをしてむやみに植物を使ったら、自然が破壊され、災害によって我々の生活が脅かされ、さらには地球温暖化をさらに進行させる原因になってしまうではないですか!」

「植物から作ったとはいえ、燃料に加工する段階でエネルギーを使うじゃないですか!」

「植物由来のグルコース180gを発酵させてバイオエタノールを作ると、二酸化炭素は88gも排出されるんですよ!」



 参考までに…C6H12O6(分子量180)→2C2H5OH(分子量2×46)+2CO2(分子量2×44)となります。



 それから数日後、政府はまたコメントを載せた。

「バイオ燃料は他にもメタノールがあります。メタノールは一酸化炭素と水素を高温、高圧で反応させたり(CO+2H2→CH3OH)、木材を乾留(空気を入れないで加熱すること)すれば出来ますよ。」

 しかし、反論する意見はやはり書き込まれた。

「結局それも加熱するためにエネルギーを使っているじゃないですか!」

「その設備を作るために、どれくらいのエネルギーが必要なんですか?」


 それから数日後、政府はまたまたコメントを載せた。

「バイオ燃料以外のエネルギー確保としては、太陽光発電があります。太陽電池を利用すれば、二酸化炭素は全く発生しません。これは実にクリーンな方法だと思います。」

 しかし、それでも反論する意見は書き込まれてしまった。

「太陽電池を作るのに必要なケイ素を作るためには、たくさんのエネルギーが必要なんですよ。岩石の主成分である二酸化ケイ素60gからケイ素(分子量28)の単体28gを作るためには、357.4kcalのエネルギーが必要です。熱効率を仮に35%とすると、約1000kcal(正確には1021kcal)のエネルギーが必要になります。これはエタノールなら0.2リットルを完全燃焼させた時のエネルギーに相当します。エタノールを0.2リットル燃やすと二酸化炭素は304.7g排出されるんですよ!どこが全く発生しないなんて言えるんですか?」



 参考までに…1000kcal(=4186kJ)のエネルギーを生み出すためにはガソリンだと0.12リットル、重油だと0.11リットルを完全燃焼させる必要があります。

 ガソリンの密度を約0.75g/立方cm、重油の平均密度を0.88g/立方cmと仮定して、ガソリン0.12リットルと重油0.11リットルを完全燃焼させた場合、二酸化炭素はそれぞれ277.8g、298.1g排出されます。



 このようないたちごっこの状況は、その後も続いた。

 そんな中、現在の発電量だけでは日本国民が必要とするエネルギーを到底確保出来ないと見込んだ政府は森林資源をどんどん使い、木炭やバイオ燃料などを大量に作る策に打って出た。

 そして森林を切り開いた後には積極的に苗木を植え、排出した二酸化炭素を植林によって埋め合わせるカーボンオフセットという方法をうたい、地球温暖化の防止につながることを訴え続けた。

 苦肉の策ではあったが、必要なエネルギーを確保するためにはこうするしかない状況だった。


 しかしその年、地球温暖化によって大型化した台風や、集中豪雨などの影響で土砂崩れなどが起き、せっかく植えた苗木だけでなく、大きく成長していた木々も次々と流されてしまった。

 後にはいくつものはげ山が出来、植物の育たないやせた土壌がむき出しになって残っていた。

 もともと政府のやり方に不信感を募らせていた市民達は、そのような状況が起きたことを機に、政府に向かって一斉に反発してきた。

「このような自然破壊を行えば、台風や集中豪雨の時、災害の規模が大きくなるのは明らかだったはずです。」

「今の政府は充分な知識もないまま政策を強行する人達の集まりです。」

「総理大臣には退陣を要求します。このままだったら日本はだめになります。」


 そのような言い方に、政府もさすがに堪忍袋の尾が切れたのか、それ以降、エネルギー確保のための方法が紹介されることはなかった。

 その代わり、次のようなコメントが書き込まれていた。

「読者の皆様へ。今使っている電気がどうやって供給されているのか、今一度考えてみてください。そして、二酸化炭素を排出せず、安全でしかも自然を破壊しなくて済むやり方で、且つ充分な量のエネルギーをする方法があれば教えてください。」


 その後、市民からいくつか提案は寄せられてきた。

 しかし、どれも決定打と言えるようなものはなかった。

 それから、日本ではエネルギー不足に悩まされるようになり、あちこちで停電が頻発するようになった。

 その度に、心無い市民からは、政府に苦情が寄せられるようになった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ